A migratory bird…1

朝、ぼんやり豆腐を食べてると、ついさっき家を出たばかりの妹が騒がしく駆け込んでくるなり、僕の手に強引にソイツを押し付けた。



「……どうすんだよ?」

って僕の問いに対し、

「ヤバい、ヤバい。遅刻しちゃう」

そう無難に切り抜け、妹は慌ただしく家を飛び出してった。







巣から落下したツバメの雛を拾うのはこれで3回目、他の野鳥も入れると7度目になる。

近隣に学校や公園、それに神社が多いためか、この周囲は比較的緑に恵まれている。

古い集合住宅の4Fにある僕の家は、年々入居の希望が減ってるものの、鳥たちには人気の物件になっている。

エアコンの室外機の上に鳩避けのネットを設置したら、その隙間にスズメが巣をかけた。

これといった害もないので放置していたら、強風でネットごと飛ばされ、せっかく作った巣が壊れていた。

それで僕は板キレで巣箱を造り、室外機の上にのっけといた。

その無料物件は、今年は解放してない。



数回スズメが雛を孵し、ベランダで戯れる可愛い姿を見せてくれるので僕なりに満足してたんだけど、構造に重大な設計ミスがあった。

巣穴の口径が大き過ぎたのだ。





いつからか、見慣れない鳥が姿を現すようになり、連日スズメとの激しい争奪戦を繰り返した後、巣箱を乗っ取ってしまった。

ムクドリだ。

スズメの2倍以上もある、鳴き声の騒々しい鳥だ。

黒いボディに真っ白な尾と風切り羽根。

大きく長い嘴は鮮やかなゴールドイエローで、とても綺麗な鳥だ。

ただし、うるさい。

小鳥の囀りというより、早朝からジュラシックパークのヴェトロキラプトルみたいな奇声を張り上げる。

スズメを追い出した可愛げのない鳥だが、居着いてしまったからには仕方ない。

巣箱の下には、運びそこねたバッタやカマキリ、時にはトカゲの死骸までも散乱してることがあったが、寛大な家主の僕は退去通告など出すこともなく、毎朝の騒音に悩まされながらも雛の巣立ちを待った。