スズカ・カシュウという先生と共に、山奥の家で暮らしていた主人公・ゼンは、カシュウの死を機に、遺言通り山を下りた。
小さな時から山で暮らし、カシュウ以外の人間に会うこと自体が稀だったゼンにとって、わからないことだらけの世界。
カシュウの言いつけ通り山を下り、カシュウの知り合いの家へ向かうと、カシュウの剣術の腕前を尊敬する女の子・イオカと出会う。イオカは婚約しているにも拘らず、ゼンと共に旅をしたいと言いだし、急なことにゼンを始めとする人々は困惑した。イオカの勢いは止まらない。
イオカに根負けしたイオカの両親は、イオカをゼンが次に向かうという町までの道案内人として同行するのを許可した。
カシュウと共に暮らし、カシュウからたくさんの事を学んだゼンだったが、肝心のカシュウ自身の事は知らないことが多かった。
カシュウには、カシュウを慕う知人が多くおり、また、カシュウの死を知りたいであろう人物も、ゼンには心当たりがあった。そしてゼンは、カシュウの知人を訪ねる旅を始めたのだった。
『ヴォイド・シェイパ―The Void Shaper』
著者
森博嗣
発行者 中央公論新社
ISBN 978-4-12-004227-0
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
道中、カシュウの事について聞かれたゼンは、イオカの質問に答えつつ、自らもカシュウについて考えていた。
“カシュウは決して嘘はつかない。
だから、それは正しい。”
“でも、正しいものは、いつまでも正しいわけではない、ともカシュウは言った。であれば、それは今も正しいとは限らない”
イオカと共に隣町に着いたゼンは、一度家に帰って、また旅に出ると言うイオカと別れ、カシュウの知り合いで、鍛冶屋のミサヤに出会う。
カシュウから譲り受けた細い剣を研いでもらう為に預けている間、ゼンはカシュウの亡骸について、どうなったのかと考えた。
“「身体は、死んだ人間には不要の物なのだ。魂もきっと、風のように散って消えてしまうもの」”
かつてカシュウが言っていた通り、だから、カシュウの亡骸には執着しなかったゼンは、カシュウをそのまま家に置いてきたので、多分、イオカの両親を始めとする町の人々が葬ったのだろう…とぼんやり思っていた。
山を下りてからいろんな人、剣士と呼ばれ、カシュウの弟子ならば…と剣豪とも言うような視線をもらったゼンであったが、当然のように都へ向かうのであろう?と聞かれ、「天下一を目指す剣士が都に集まるのか?」とカシュウへ問うた時を思い出した。
“「本当に強い一番の剣士は、決して人前に姿を現さない。だから、いつの世にも、天下一は定まらないのだ」”
ミサヤが刀を研ぎ終わり、ゼンが宿泊している宿の部屋まで持ってきてくれ、ゼンはお礼に酒をふるまった。
「いつか自分もこんな刀を作りたい。その時は使ってもらえるか?」と聞かれたゼンは、この刀が折れて、その時ミサヤの近くにいたら是非使わせてくださいと答える。
「そう…人生とか巡り合せ。その時々で、中々うまい具合に出会えるかどうか」ミサヤの言葉を最後に、ゼンはまた旅を続ける。
カシュウの知り合いを求めて歩くと、寺へと続く道が出てきた。
寺へ向かう途中、ササゴマという子供に出会う。行儀も知らず、刀を腰に差し、盗賊のまねごとをしているササゴマにゼンは礼儀を教え、ササゴマと共に寺へ向かう。
カガン坊主に泊めていただくと、優しさに触れたササゴマは、自分の身の上話をし始めた。
地元の仲間と悪さをしていたササゴマは、盗賊と鉢合わせしてしまい、盗賊の一員になれと迫られた。
殺されたくない一心で盗賊の一員となったササゴマ達だったが、結局盗賊により仲間を殺されたササゴマは、命からがら逃げてきたのだ…と。
ササゴマを追いかけてきた盗賊によりササゴマは殺されてしまったが、続いて坊主とゼンまでも殺すのかと勘繰ったゼンは、相手を見極める。
盗賊はゼンの方が強いと思い、踵を返そうとした。しかし、ゼンはカシュウの友人である坊主が一人の時、再び寝床や食料欲しさで襲ってくるのではないか?と思い、盗賊を倒してしまう。
旅を続けるゼンは、カシュウの事を知らないという町にたどり着く。わらにもすがる思いでいたゼンは、村一番の年寄りで、物知りだというキグサに会う。
キグサから、カシュウはこの町で半年ほど医者だと名乗りここで暮らしていたと教えてくれた。
人の価値とは、その人が何を成すかという事で、亡くなれば何も成せない事から、価値が無いから殺すのだというゼンに対し、キグサは、死んで終わりではないという。
”「死んだ人間でも、その志を受け継いだ者がそれを成し遂げる。
その人間の価値とは、その人間を知っている者が覚えている限り、ずっと残るもの。遠くにいても、この世にいなくても、何の変わりもなく、同じ」”
キグサの言葉に考え込みながらキグサの家を出、宿へ行くと、イオカが待っていた。
イオカは予定通り、婚約する事にしたと報告し、カシュウの家の奥から出てきたというきれいなお守りを差し出した。
禅之助と書かれたお守りを手に取ったゼンは、イオカから、そのお守りの紋は大変高貴で全ての国を統一する方が使うものなのだと聞かされる。
イオカの両親に訪ねた事を報告してくれるイオカ。
カシュウは元々、宮仕えをしていたらしく、何かの縁で宮の子供を預かったのではないか?と。
現にイオカの父は、カシュウのところへ籠が来たのは一度きりであり、カシュウの家の奥に隠してあったことや、ゼンが何も聞いていないことから、イオカは確信していた。
その上で、ゼンに決して自分の出生を調べようとしないでくれと頼むイオカ。
ゼンの命を思ってのことだと分かったゼンは、イオカに約束をした。
旅の途中、さまざまな人と会い、自を見つめなおす機会となっていると、ゼンはあることに気づく。
カガン坊主はゼンよりもずっと腕の立つ剣士だった、と。
カシュウにも似たその姿に懐かしさを覚えたゼンは、カガン坊主のもとへ急いで戻ろうとするが、途中、カガン坊主のおつきの者に会う。
カガン坊主もまた、この先長くないのだと知り、カガン坊主とおつきの者が、ゼンの読み通り剣の使い手だと知れたことから、ゼンは旅を続けることとした。
カガンやキグサ、カシュウ、イオカ…この作品に出てくる人達の言葉は不思議で、なんとなくこう、読み終わった後、ぼーっとするというか…。
性善説唱えてる宗教書チックだったのも事実…。