あの日、君との出会いで、僕の人生は少しだけ変わった。
不思議な聡明さで、教室に流れるいじめの空気を変えた君。風変わりな振る舞いで、僕のコンプレックスをほんの少し溶かしてくれた君。誰よりもがむしゃらに、夢を追いかけていた君。人気作家8人が、不器用でナイーブな、少年達の物語を書きました。
『あの日、君と Boys』
編者 ナツイチ制作委員会
著者
伊坂幸太郎 井上荒野
奥田英朗
佐川光晴
中村航
西加奈子
柳広司
山本幸久
発行元 株式会社集英社
ISBN 978-4-08-746830-4
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
『逆ソクラテス』伊坂幸太郎
小学生にとって、絶対的な権力を持つ久留米先生は、何でも自分の尺度でしか図らず、生徒を差別する先生だった。
久留米先生の生徒に対する先入観を崩してやろうと、転校生が言い出し、久留米先生にいじめられている生徒が、ある日突然、勉強もなにもかにも出来る様になるという計画をたてる。
「自分は何も知らないって事を知ってるだけ、自分はマシだ」という名言を残したソクラテスに因み、久留米先生は逆ソクラテスだと考えた転校生は、持ち前の謎の説得力で、クラスメイトを巻き込む。「君の思うことは、他の人に決める事はでにかいんだから。僕はそうは思わない、これをゆっくり、自信を持って言うんだよ」
先生へ生徒に先入観を持って接しないでほしいと考える小さな正義感と反抗期。確かな自我が芽生える頃、先生や親が身近で、だからこそ、自分の意見を言えるようになりたい。思春期が懐かしく、大人になってしまった自分には、久留米先生の失敗がよく分かってしまう、なんか汚い大人になっちゃったなぁ。
『骨』井上荒野
未成年による飲酒の不祥事で、大会に出場停止処分になったサッカー部は、応援部にシメられる。怪我をしないよう、先生や親に知られないよう、加減して殴る応援部だったが、陽だけは加減を出来ず、幸太の骨を折ってしまう。
自分が病院に行けばシメられた事がわかってしまうと我慢していた幸太は、陽とツーリングに行き友情を分かち合う。
『夏のアルバム』奥田英朗
仲が良くても、他人の家庭や心の中までは覗けない。だから、同じ事を言うのでも、タイミングが悪いと一生の心の傷となってしまう。
自転車の補助輪を外す練習から、身内が亡くなる辛さまで、子供ながらに気をつかい、共感しようと頑張るが、一歩及ばない話。
『四本のラケット』佐川光晴
テニス部一年生は、昼休み中にコートのブラシかけをするという仕事があった。グーとパーで毎日チームに別れ、人数が少ない方が整備をするルールだ。
ある日、遅れてきたチームメイトを待っている間、一人で整備をさせようと悪戯心に火がついた俺達は、示し合わせて整備を押しつける。しかし、チームメイト一人に押し付けた事を悔やんだ俺達は、翌日、じゃんけんを止める事にするのだった。
こういう、悪戯だけど悪い事だと分かっていて反省するのは、若い子特有だよなぁと思いました。意地悪がいじめになる前に、ちゃんと気づけたなんて偉い。
『さよなら、ミネオ』中村航
クラスで浮いていたミネオは、寂しさから自分の分身を空想で作り出し、自分の分身を友達の様に扱っていた。クラスイチの美人・すみれと話したいと思いつつ、そんな度胸はないミネオは、都合の良いすみれの偶像化に成功し、友達になる。
こうやってストーカーが出来ていくのかと思うと怖かった。
『ちょうどいい木切れ』西加奈子
身長も体格も、とにかく大きい俺は、大きすぎる自分と、その俺を無遠慮に傷付ける周りの普通の人々が嫌いだった。
ある日、電車で小さい人を見つけた俺は、お互いに苦労するよなと考えつつ見ていると、小さい人は俺の隣で、俺ではない窓から見える何かを見て、大きいなぁと言うのだ。
大きいという言葉に自意識過剰になっている俺は、小さい人が発した大きいという言葉に苛立ちを隠せない。
わかるような、わからないような話。
『すーぱー・すたじあむ』柳広司
早くから野球の素質があった竜次は、高校生になっても身長が伸びず、自分のアイデンティティーでもあったピッチャーから下ろされる。
悔しくて練習しまくる竜次は、肩を故障して退部する。そして、元野球部員という肩書きだけになった竜次は、あろうことか、高野連前にゲームセンターで補導されてしまう。高野連は何年も前のOBが起こした事件でも明るみに出れば平気で出場停止を掲げてしまう事で有名だ。自分達も竜次のせいで高野連に出られなくなるのではないかと心配するが、竜次は野球のゲームで勝つまで帰らず、結果補導されたと知り、おとがめはなかった。
竜次はまだ、勝ちにこだわり続け、諦めていないと知る。
『マニアの受難』山本幸久
映画好きの大学生は、自分こそ、映画の何たるかをわかっていると考えていた。そこで、映画雑誌にありったけの想いを書いた履歴書を送るが、不採用となる。
挫折し、社会に出ていく若者。
短編だからだけれど、展開に驚きがなかった。