連れ子同士の再婚だったおばあちゃんが、血の繋がらない娘二人と暮らしていた通称・白百合荘。おばあちゃんが階段から足を滑らせ亡くなり、遺書には孫の理瀬に、白百合荘を処分すら前に半年暮らすようにと書かれていた。遺書に従ってイギリスから留学を取りやめやって来た理瀬は、おばあちゃんは娘の梨南子か梨耶子のどちらかに殺されたのではないかと考えていた。

生前、おばあちゃんと手紙のやり取りをしていた理瀬は、おばあちゃんがジュピターと名付けたあるものを二人に気付かれないよう探していた。おばあちゃんの一周忌を間近に、従兄弟の稔による、ジュピターはこの家に災いをもたらすもので、家を処分する前に見つけ出し、極秘で処分しなければならないものだと聞かされる。

誰も信用できないと思った理瀬の周りでは、転入先の高校で仲良くなった隣の家の朋子や、その幼馴染み、朋子の弟により、白百合荘が魔女の家と呼ばれる所以や、二人の姉妹が怪しい事を知る。

信頼していた朋子に惚れていた男が、行方不明となってしまった事で、朋子は情緒不安定となり理瀬は更に一人になってしまう。そんな時、おばあちゃんの一周忌をお寺で終えて帰ってきた理瀬達が見たのは、ジュピターを金目のものだと勘違いした梨耶子が庭で事切れている姿だったのだ。

『黄昏の百合の骨』
著者 恩田陸
発行元 講談社
ISBN 4-06-212332-0

朋子に突然呼び出された理瀬は、朋子こそが付きまとっていた男を、白百合荘の井戸に突き落とし、その犯行を理瀬にみせかけようとしていた人物だと知り、驚愕する。幸い男は井戸の中で衰弱していたが生きていて、男と朋子の記憶は稔により改竄される。

朋子が井戸だと思い込んだ白百合荘のある場所には、金木犀が咲いていた。そこでジュピターは木星と金木犀をかけたヒントだったと気付いた稔達は、白百合荘がかつて軍を退官したと見せかけた軍人が作った諜報施設だと知る。

部屋の全てには盗聴システムがあり、かつてここを会談場所や娼婦を宛がい枕物語を聞き、用済みとあらば井戸で死体を溶かしていたのだ。
おばあちゃんはそれを知り、夫を軍人と同じように溶かして殺し、その臭いが分からぬよう、百合の花を沢山植えていたのだ。

全てを知った理瀬は、白百合荘を出る事となる。白百合荘を取り壊す事になり、梨南子と共にゆったりとした時間を過ごしていたはずの理瀬は、梨南子に殺されかける。そう、梨南子は理瀬の婚約者と相対する組織から雇われた人間で、理瀬を殺すよう依頼されていたのだ。
間一髪で稔と幼馴染みに助け出された理瀬は、飛び降り自殺をした梨南子を横目に、自分も魔女の顔をしている事に気付く。


白百合荘を取り巻く人々の中で唯一、明るい道だけを歩いてきた亘を、理瀬はこんな風に思う一文がある。

“人は同じ場所には留まれない。それぞれの歳月に連れ去られ、違う場所で別の人間になっていくのだ”

白百合荘の奇妙な一面に、亘だけはふれさせまいとした理瀬は、亘に良い思い出だけを作ってやる。それが優しくて残酷だった。