定位置の観測場所に飛び乗って腰掛け、愛用している望遠鏡を急いで取り出すと、目に当て、ズームする。
今日は、待ちに待った満月の日。天候も良く、空がバッチリ見渡せる。これなら細かい星だってちゃんと確認できるだろう。なので、嬉しい気持ちを隠せないまま、駆け足でここまで来たのだった。
しばらく、空を眺めながら静かに音を立てるさざ波、優しく吹く風に心を委ねる。俺には、このゆとりの時間が限りなく貴重であった。
「…また、ここにいるのね」
「!!」
視界が真っ暗になったかと思いきや、すぐに認識する見知った顔。途端に俺の眉間には皺が寄り、普段よりも更にブスッとした顔つきになった。
「……。悪いか」
「いーえ。ただ、いつまでもその状態でいいのかな、と思って」
自分が一番わかっていることをわざわざ言いに来る奴がいただろうか。
望遠鏡を外した先に、幼馴染みでお節介焼きのリンダが寝間着姿で立っていた。
「また説教かよ、仁王立ちしちゃって」
「違うわよ。これは、アンタのために救いの手を差しのべてるの」
「要らないって。折角いい気分だったのに、どうしてくれんだよ」
「なによ、こっちこそ折角いい子紹介してあげようかと思ったのに!」
「そういうのが余計なお世話だ、って言うんだよ。お前は男ができて喜んでるかもしれないけど」
「あら。知ってたのね」
リンダは、最近、アントンとか言う男と恋人同士になったらしい。風の噂とはこうも不必要なことまで運んでくれる。いい迷惑だ。
しかし、腐れ縁だからって男に寝間着姿を普通に晒すのはどうなのか。友達ならともかく。
「その、アントンとか言う男も、物好きな奴だな。こんなだらしない女のどこがいいんだ」
「アンタこそ、そんなことずっとやってたら、一生彼女なんてできないわよ」
「お前もわからない女だな。天体観測、したことないだろう?」
「そんなことないわよ。第一この島で育てば誰だって双眼鏡くらい持ってるでしょ。それに、今度……」
「……?」
急にもじもじし出し、頬を染めるリンダ。
「…今度、アントンが、灯台に行こう、って。今は光がないけど、俺と君の愛の炎で灯してやろう、って、言ってくれたの!!」
もう、すごく嬉しくて〜…と恥ずかしがりながらも楽しそうにきゃっきゃするリンダ。
(女って、こんな変わるもんなのか)
面倒くさいことになりかねないので、気持ち悪い、の言葉は発さずに胸の内にしまう。