2013-9-24 20:44
着想:丸刈り頭
構想:20分
『独りぼっちの悲しみは、一人ひとりへの愛情なのです』
人の住んでいる街のはずれに、小さな丘がありました。
丘は背の低い草で覆われていて、春には小さな花で賑わっていました。
四つ葉のクローバーもありましたが、三つ葉のクローバーもありました。
クローバーではない、人からは雑草と呼ばれる草もたくさんありました。
しかし人間が介在しない以上、彼らは等しく、健やかな緑でした。
丘は彼らとの生活が好きでした。
春にはたくさんの小さな花で賑わい、夏にはすくすくと成長する彼らを見ていると、丘も元気になりました。
秋には一部の葉がしっとりと装いを変え、寒い冬には自分を覆って冷気から守ってくれる彼らに、丘は感謝していました。
しかしあるとき、丘と周辺の草原から、草たちが抜け落ちてしまう日が続きました。
老いている草ではありませんし、竜巻に吹かれたわけでもありません。
それでも草花はささやかな風にさらわれて、くる日もくる日も丘のもとから飛ばされていきました。
丘は必死に草花を守ろうと踏ん張りました。
草花も簡単に抜けるものかと、丘に張った根に力を入れました。
それでも、少しの風が吹いただけで、彼らはすぐに飛ばされてしまいます。
別れを惜しむ暇もありません。
まいにち、まいにち、
少しずつ自分の元からいなくなっていく草花に、丘は悲しさを感じていました。
――必死に自分にしがみついていた小さな草花たちは、飛ばされた先でどうやって生きているのだろう。
それを思うと、身が裂かれるような思いでした。
ある日、一番近くの街に住む人間が丘を訪れました。
丘より少しだけ高地にある、工業の発達した街の若者たちです。
彼らは、つい最近までは緑に覆われていた丘が、半分以上も土色を晒しているのを見て驚きました。
――これは酷い
――ただでさえ雨が少ないのに、これでは乾燥してしまうではないか
――せっかく農業を発展させようと、上が動いているのになぁ
丘は思いました。
人間たちは自分のこれからを憂いているけれど、悲しむべきはそこではない。
すでに遠くへ飛ばされてしまった仲間たち、そして明日には、あるいは一瞬先には飛ばされてしまうかもしれない、今残された草花たちが大切なのだ、と。
しかし人間たちは、飛ばされたたくさんの草花を探すことも、今いる小さな草花を守ることもしませんでした。
そして、工場の連中に文句を…などと言いながら、街の方へ帰っていくのでした。
その日の夕方も、草花たちはたくさん飛ばされました。
その次の日も、そのまた次の日も、春のやわらかな風に乗って、咲いたばかりの花や新芽が飛ばされていきました。
とうとう最後のひとつが風にさらわれた日の夜、丘は深く深く悲しみました。
目を閉じれば、草花たちと過ごした幸せで穏やかな日々が蘇ります。
彼らは今、どうしているのだろうか。
良い土にめぐり合えただろうか。
鳥や虫と仲良くできているだろうか。
元気で、生きているのだろうか…。
そこまで考えたとき、丘の悲しみは許容量を超えてしまいました。
悲しみのあまり泣きました。
悲しみのあまり叫びました。
悲しみのあまり大きく体を震わせました。
すると、それは大雨となり、雷鳴となり、地響きとなり、静かな夜を襲いました。
それらは丘自身をも襲いましたが、草花たちがいなくなり、楽しい毎日も守りたい存在もなくなった丘は、慌てることもなくじっと目を閉じておりました。
しかし、しばらくすると、自然の音とは違う、人間の声や音が聞こえてきました。
丘が目を開けると、そこにはたくさんの人間たちが、大慌てでこちらへ駆け下りてくるところでした。
――川が氾濫するぞ
――ふもとの高台まで急ぐんだ
――工場なんて捨てていけ
そう口々に叫ぶ群衆の中には、先日丘を訪れた若者たちの姿もありました。
丘は人々が雷雨と地震の中を駆けていく姿を、ただぼんやりと眺めていました。
川が氾濫すれば、丘のもとにもたくさんの水が押し寄せるかもしれません。
それでも丘は動くことはできませんし、動いて逃げたいとも思いませんでした。
ただ、川の上流近くにあるらしい「工場」というものが、一体どういうものなのかということだけ、何とはなしに考えていました。
一夜明けると、天候も地響きもすっかり収まりました。
丘はぼんやりと、清々しい青空が広がっているのを眺めておりました。
昨晩、人々が丘のそばを通った数分後に、大量の水が勢いよく丘のある辺り一面を覆いました。
その量たるや、丘が生まれて初めて感じる量でした。
太陽が辺りをさんさんと照らす今も、丘の身体や辺りの土は濡れそぼっておりました。
それでも、土地そのものは無事でした。
表面の土は水に流されてしまいましたが、地割れを起こすこともなく、また人間たちの街のものが沈積することもありませんでした。
丘はまだ自分がここにいることにほっとしながら、またぼんやりと草花たちのことを考えました。
彼らが自分のもとに帰ってくることはないかもしれない。
それでも、どこかで元気に生きていてほしいと、人間がいなくなった澄んだ空気の中で、ただ静かに願いました。
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着想は丸刈り頭ですが、たんにビジュアル的な着想なので、人体への薬害的なメッセージは込めてないです〜。
丘も草花たちもかわいい。
自キャラながらかわいい。
ちなみに、丘のキャライメージはパズドラのデカモリりんです(*´∀`*)