裏校舎の被服室、ふわりふわりと影が踊る。
古い木造の校舎の陰気さとは裏腹に中からは明るいと錯覚しそうな空気を感じる、飽くまでもそう思うだけの感覚である事は見に見えて解っているのに脳と視覚の情報が一致しない。
異常な状態も認識しながら吸い寄せられるように、そっと古い扉、曇って汚れた小窓から中を覗くと、角は殆ど写らない水銀の剥がれたくすんでしまった大きな姿見の前に女の後ろ姿が見える。
ふわりと女が微笑んでいるのが辛うじて見える。
その笑みに吸い寄せられるように、埃や汚れでくすんだ見えにくい硝子窓にギリギリまで顔を近づけて息を飲むーーーそれは恐怖ではなく感歎とした声を出さぬようにとの無意識の自衛。
白い肌は差し込む光に零れてしまいそうな滑らかさを魅せている。
鎖骨の陰影に唾を飲んだ、惜しげもなく晒した白い肢体、足を滑るスカートがあどけなさの残る少女のような軽やかさで、ふわりと足に絡む。
白い肌に黒いガーターリングが見え、さらに食い入るように目を凝らす。
この場所でのそぐわない光景に頭の奥底では警笛が鳴っている。
ーーーーもっともっとみたい!!
力を込めた手は古い扉を意図もたやすく押し倒した。
腐っていたのだろう、粉々に四散した残骸と舞い上がる埃に、目を瞑り深く咳き込む。
一頻り落ち着いて”はっ”と気付いた。
前のめりに一歩入ってしまった体制から姿見の女を探す。
その姿はどこにも居なくなっていた。
それを確認すると、無意識に気を張っていたらしい身体が”ふっ”力を抜きかけた時。
『どうしたの?』
背後で声がした。
「!?」
振り向く前に”トン”と背中を押されて、更に中へと身体が数歩入る。
今になって震えだした足、後ろには気配、カラカラになった喉で唾を呑み込めば引きつった痛みを伴った。
夢ではないと覚悟を決めて、ゆっくりと振り向けば、そこに居たのはさっきの女ではなかった、、
黒いYシャツ姿で、髪の毛も短く首元を晒している。
白い白衣ボロボロでカラフルな飛びちった模様を作っている。
片目がねをくいっと直すと。
『なにしてるの?』
と少年はあどけない笑顔で此方を見ている。
その笑顔に魅入り、よくよくと顔を近づけると、目の中の”歯車がカタリ”と音を出したような気がした。
その瞬間、先程の女を思わせる”ナニカ”を感じて、痛い喉でまた唾を呑み、ゆるりと鎖骨に目をやる。
白い肌、黒いチョーカーが細い首を強調していた。
目が反らせない、ただじっとみていると。
『したいの?』と顔を、覗き込まれる。
ーーーーあぁ、”歯車”が回る、、
思考を一緒に巻き込んで逝くような不安定な自分が目の歯車ですり潰されていくような気がした。
「、っ、でも首太いかっっ!!」
カラカラの喉で絞り出した声が、一気に止められた。
しなやかに揺れた手が見え他と思えば、凄まじい衝撃と首に”ギュッ”と圧が架かる。
「がっ!!!」
パクパクと酸素を求めて口を開いても上手く呼吸ができない。
『大丈夫?大丈夫♪締めちゃえばいいんだよ』
涙の膜と酸素不足による視界を遮り、眼球が飛び出していくような燃えるような熱。
鼓膜では心臓が破裂するように鳴っている。
それなのに声は鮮やかに聞こえて、跳ねるように楽しんでいる。
その細い身体のどこに力があるのか、抵抗する前に既に《全て持ってかれた四肢》から最後の力も溶けるようになくなるのを感じた。
感覚なく床に落ちたソレを、楽しそうに見ながらふわりと回る白衣が踊る、鏡には先程の女が同じようにふわりとスカートを翻している。
『ほら君にお似合いの首輪でしょ♪』
ふわりと踊ると、ソレの紫色の唇から赤い泡がそわりと舞った。
end,?
(2018.7/25)