A migratory bird…聊斎 子続集

すっかり忘れてしまわれたことだろう。

うん、僕も自分が何を書きたかったのか忘れてしまった。

忘れてしまったので、代わりに寺内重夫さんという方の書かれた素晴らしい文章を御紹介させていただこうと思います。



その前に、まず昔話【舌切り雀】は、宇治拾遺物語に収められてる【雀報恩の事】から来ている。

その【雀報恩の事】のあらすじは、傷ついた雀を助けた老婆がその礼として瓢箪の種をもらい、育てた瓢箪から米が溢れてきて裕福になる。

それを見た心の卑しい老婆がわざと雀に怪我を負わせ、瓢箪の種を手に入れるが因果応報、中から出てきた毒虫に襲われ死んでしまう。

典型的な勧善懲悪型の動物恩返しものだ。



ところで、宇治拾遺に収められてる物語は、各地に伝わる民話を掘り起こしたものと、中国から来た話をベースにしたものとに別れている。

雀報恩は、もともと中国に伝わる話だったようだ。

寺内さんは、そういった中国の伝承民話を集め、広く日本に紹介されている。



では、中国民話より【二つの瓢箪】







この昔話は、山東済寧地帯に流れる大運河に沿った小さな村に住む兄弟の話である。

弟がやっと十歳になった頃、兄は自分はまだ若く力もあるのに弟と母親と一緒に暮らしては損だと欲をおこし、母親をせめて家を分け、自分は家を出て独立し門戸を構えた。


母親は弟を十六歳になるまで苦労して育て、この世を去った。

兄弟二人の住まいは壁を隔てるだけで、二つの門は並んでいる、表門は運河に面し、運河の土手には柳の木が並び、青い枝、緑の葉、清い流れはとても美しい、三月になると柳のわたが散る前に燕が飛んで来た。


“一つの窯でも違う煉瓦が焼ける、一人の母でも違う子を生む”という諺がある。

兄が弟より上でも兄はろくでなし、金が少ないのは嫌い、汗を流して働くのも嫌い、あれも不満、これも不満、何時もぶきっちょ面して笑ったためしがない。

弟は何時もニコニコ、畑仕事がおわれば家の中を掃除して家の中も外も綺麗に整頓する。

そんなわけで燕は兄の家が高くて大きくても兄の家には行かない。

弟の家は小さな藁葺きだが、毎年春になると燕の夫婦が飛んできて梁の上の巣に帰って来る。

弟も家族でも帰るように燕を待っている。


ある年の二月二日、運河の両岸の楊柳が芽をだし花を咲かせた。

弟の家の燕は、やっぱり南の空から飛んで来た。

燕たちはスイスイと舞いチィチィと鳴き、口に泥をくわえて入ったり出たりして古い巣を直し卵を生んだ。

やがて麦が黄色になる頃、雛がかえって親燕は雛に朝から晩まで忙しく餌を運んで食べさせる。

弟は何時も朝早く忘れずに家の戸を開けてやり、夜、燕が帰って来ると戸を閉めてやった。

毎日々々、親燕が餌をくわえて飛んで来ると、五羽の雛は首を伸ばして黄色い嘴をあけ親燕の餌を待っている。

弟は何時もそれを見て喜び、雛が巣立つのを指おり数えて楽しみにしていた。


ある日の昼、燕たちに思いがけないことが起きた。

弟が畑から帰ると、二羽の親燕が庭の中をチチチチと慌てふためいて飛び回っている。

弟が行くと、一枚の羽が肩の上に落ちてきた。

驚いて家の中に入ると、アッ、一羽の雛がどうしたのか巣から地面に落ちている。

急いで雛を抱きあげてやると、雛は毛がでたばかり、小さな目はくりくり光り、嘴は黄金色だ。

でも、赤い脚が折れている。

弟は可哀相になって、折れた脚を赤い糸で結びまた巣に返してやった。


やがて雛が子燕になって飛ぶようなった時には、すっかりよくなっていた。

二羽の親燕は、何時も五羽の子燕を連れて柳の間を素早くすり抜けて飛んだ。

やがて菊の花が開き、柳の葉が黄色になると、みんな一緒に南の空へ飛んで行った。