社会人ジェイドとお狐ガイが出会う話。
昔ブログにupした突発文を加筆修正しました。
続きそうな感じで終わってますが続きは未定です。
話は追記から
今日は新入社員の歓迎会があった。毎年のことながら新入社員以上に盛り上がっている社長が酔い潰れて解散になるのはどうなのかと思うが、肩肘張っていた新入社員が打ち解ける場になっているようだからあれでいいのだろう。
酒を飲んだから、普段は車で素通りする道を歩いて帰る。民家もコンビニも街路樹も、帰宅時間と移動速度が普段と違うだけで見慣れた景色だ。見慣れているからこそ異常にも気付きやすい。神社の前を通りかかった時、小さな子供の人影が見えた。
ひらひらと桜が舞う季節は転勤と引っ越しのシーズンだ、見慣れない土地ではしゃいだ子供がこっそり抜け出してきたのかと後を追う。
寂れた神社の長い階段を登り開けた境内に出ると、1本の大きな桜の木が、月明かりを浴びて淡い花弁を輝かせていた。
「誰?」
声変わり前の、少し高い少年の不思議そうな声。背丈は10歳くらいだろうか、しかし彼は変わった格好をしており、和服姿で頭には獣の耳が、腰には尻尾が生えていた。
「……狐…?」
少年の質問の問いに答えるよりも先に、自身の疑問が口をついて出る。
「あっ…!」
少年は慌てて頭の耳を手で隠し、尻尾が見えないよう身体の向きを変えるももう遅い。
「大丈夫です。誰にも言いません。言っても誰も信じませんし」
「…本当?祓わない…?」
「ええ」
安堵の表情を浮かべる少年は碧の瞳を向けながら「おじさんは桜を見に来たの?」と話しかけてくる。
「いえ、子供がこんな夜遅くに出歩いていると危ないので注意と保護に来たんですが…。ご家族は居ないのですか?」
「ずっと昔には居たよ。両親のことは覚えてないけど、姉上は……悪い人間に見つかって祓われちゃったんだ。」
「そうでしたか…。ではあなたはここに1人で住んでるんですね。」
「うん。昼間は人間がよく桜を見に来るからずっと隠れてるけどね」
少し話をして、そろそろ帰りますとジェイドが立ち上がる。
「久しぶりに人と話せて楽しかったよ。またねおじさん」
「おじさんじゃなくてジェイドです。…気が向いたら、またいずれ」
「わかった。ここでガイって呼んでくれたらすぐ出てくるから、またねジェイド」
最後にガイと名乗った少年は、後退りながら闇に溶けるように消えていった。