食道がんは、数あるがんの中でも難しいがんの1つ。
食道は壁が薄く周りに血管やリンパ節がたくさんあるため、早い時期からリンパ節転移が起こるからだ。
しかも、首、胸、お腹と広範囲にまたがっているため手術は大規模になり、合併症も起こりやすい。
そんな食道がんも、化学放射線療法や術後化学療法などにより、5年生存率が上がってきた。
◆壁は薄く、周囲にはリンパ網が拡がりやすい
食道は食べ物の通り道で、のどと胃をつなぐパイプのような臓器です。
25センチほどの長さがあり、頸部食道(首にある部分)、胸部食道(胸にある部分)、腹部食道(お腹にあり、胃につながる部分)に分けられます。
このうち、頸部食道のがんは耳鼻科が担当することが多く、消化器科が担当するのは主に胸部食道と腹部食道のがんです。
食道がんができるのは食道の内側、食べ物と触れる表面(粘膜)です。
大きくなると粘膜の外側(奥)の粘膜下層へ、さらに外(奥)の筋層へ拡がり、もっと大きくなると食道の外に出て、周囲にある気管や肺などにがん細胞が拡がっていきます。
日本で新たにこのがんになる人は男性、それも平均年齢は65歳で、70歳以上の方が3割を占め、基本的に高齢の方に多いがんです。
数的には男性ががん全体の4パーセント、女性は1パーセントと、がんの中では少数派です。
食道がんは早期発見が難しいがんです。
最初はほとんど症状がなく、粘膜に傷がつくと食べ物を飲み込んだときチクチクしたり、熱いものがしみたりする程度。
こうした違和感も、がんが少し大きくなると消えてしまいます。
そのため放置してしまうことが多いのですが、がんがさらに大きくなると、のどがつかえる、声がかすれるといった自覚症状が出てきます。
この段階で見つかった場合、ほとんどが3期〜4期という楽観できない状態です。
[食道がんにおける早期がんと進行がんの違い]
また、食道は臓器そのものの厚みが薄く、胃や大腸のように外膜という強い膜が無いので、がんが奥(外側)の組織や近くの臓器にすぐ達し、しかも周囲にはリンパ網が張り巡らされているため、リンパ腺や遠くの臓器へも転移しやすい、という特徴があります。
縦に長い臓器なので、食道を摘出する手術は規模が大きく、その分、副作用や後遺症が大きいのも、食道がんの難しさの1つです。
それでも、胃カメラ(内視鏡)の検査を受けたとき、たまたま早期に発見され、内視鏡でがんだけ取れる幸運なケースもありますし、最近は手術と化学放射線療法(抗がん剤と放射線を併用した治療法)のどちらにするか、患者さん本人が選択できるようになりました。
逆にいえば、患者さんは手術と化学放射線療法のメリット、デメリットを知り、自分で決めなればならない部分も大きいので、大変ともいえます。
けれど、自分の年齢や体力、ライフスタイルなどと相談して、ぜひとも納得のいく治療を選んでいただきたいと思います。
◆がんが粘膜上皮内だけにあるときは内視鏡的治療
今現在、エビデンス(科学的根拠)があるとされる食道がんの治療方法は、内視鏡的治療、手術(外科治療)、放射線治療、抗がん剤(化学療法)の4つです。
どの治療法が「標準治療」になるかは、ステージ(病期)によって違います。
ステージは原発腫瘍の深さ(T)、リンパ節転移の有無(N)、離れた臓器への転移(遠隔転移)の有無(M)、という3つの要素(TNM分類)によって、0期、1期、2a期、2b期、3期(T1b〜T3)、3期(T4)期、4a期、4b期に分類されています。
ほかのがんでは1期はもちろん、リンパ節転移のない2a期でも早期として扱われることがありますが、食道がんの場合、早期がんとみなされるのは、がんが粘膜のいちばん表面の粘膜上皮内にとどまっており、更にリンパ節転移がないときだけです(0期と一部の1期)。
この場合はのどから内視鏡を入れ、がんを切り取る内視鏡的治療が「標準治療」となります。
ただし、内周の4分の3以上を取ると、食道が縮まって狭窄してしまうので、4分の3以上取るときは、手術か化学放射線療法を行います。
この場合の放射線治療には、体の外からがんを狙って放射線をかける外照射のほか、口から食道の中に専用のアプリケーターを入れ、放射線物質(密封小線源)を一時的に置いて、食道の中からがんの部分に放射線を当てる腔内照射(小線源療法)もあり、効果を上げています。
[食道がんの進行度(TNM分類による)]
@病期分類
A腫瘍の深さ
B所属リンパ節転移
C他臓器への転移
@0期
Aがんが粘膜上皮にとどまっている
Bなし Cなし
@1期
Aがんが粘膜固有層、粘膜下層におよんでいる
Bなし Cなし
@2A期
Aがんが固有筋層、外膜にまでおよんでいる
Bなし Cなし
@2B期
Aがんが粘膜固有層、粘膜下層、固有筋層におよんでいる
Bあり Cなし
@3期
Aがんが食道壁の外に出ている
Bあり Cなし
Aがんが食道周囲の組織に浸潤している
BCこれに関係なく なし
@4A期
ABCこれに関係なく頸部リンパ節や動脈周囲のリンパ節に転移
@4B期
ABCこれに関係なく遠くの臓器へ転移