カロル×ユーリ
ロイド、ルーク、カイルの宿題を炬燵に入りながら見るユーリとユーリに湯たんぽにされるカロル先生の話。
年も明け、寒さが一段と強くなって来た。そんな中でも子供達は外を駆け回ってるし、女性達は初売りだなんだと買い物に出かけている。
そんな中、ユーリは何をしていたかというとリフィルからの依頼をこなしていたのだ。
「ユーリー、羽子板しよー」
「カイル、口よりも手を動かせ」
「ユーリ、手合わせ」
「ルーク、そこ間違ってるぞ」
「なあ、ユーリ」
「ロイド、黙ってやれ」
カイル、ルーク、ロイド……もとい三馬鹿の面倒を見るのが依頼だった。個人宛に頼まれれば断っていたのだが、凛々の明星をご指名とあれば無視はできなかった。
「あー、さみぃ、」
室内で、しかも炬燵に入っているといえど、完璧には寒さは凌げない。
一方、三馬鹿はそうでもないようで、ユーリが寒がっていることを不思議に思っていたのだ。
「お前らさっさと終わらせろよ」
「そんなこと言ったってなぁ」
「ただいま!って、ユーリ何してるの?」
三馬鹿に愛想を尽かしていると、不意に聞き覚えのある声が部屋に響く。
「おっ、カロル先生!いいとこに来たな」
こっちに来いと帰って来たばっかのカロルを手招きするユーリ。
「炬燵、入る場所ないじゃん」
「いいから、いいから」
既に四人入っている炬燵に余っている席はなかった。しかし、ユーリはカロルの言葉を無視してそのまま腕の中に彼を引きずり込んだのだ。
「ちょっと、ユーリ!」
「あー、やっぱカロル先生はあったけえなぁー、」
膝の上に乗せてそのまま小さな身体を後ろから抱きしめる。
こちらに喚ばれる前の旅の途中、夜に寝付けない彼とひとつのベッドで寝る機会は度々あった。その時に彼の温かさに気付き、寒い時なんかはユーリから声をかけて一緒に寝る事もあったのだ。
「ユーリ、リフィル先生から頼まれてるんでしょ?」
「ひとりはギルドの為に、ギルドはみんなの為に」
大人気なく屁理屈を捏ねるユーリに溜息をついて、視線を机の方に戻すカロル。
一方ユーリはカロルを抱きしめたまま、今にも寝てしまいそうになっている。
そんな様子を三人は驚いたように、世にも奇妙な何かを見ているかのような表情で眺めていたのだ。
「ユーリって、いつもそんななのか?」
数秒でユーリの寝息が聞こえ始め、起こさないように小さな声でルークが訊ねる。
「いつもっていうか、たまにっていうか、二人の時は割とこうかな?」
完全に夢の中に旅立った年上の彼を苦笑しながら眺めるカロル。
「なんか、想像つかないなー」
珍獣を見るかのように口を開けたままのカイルがそう言うと、ロイドも「そうだな」なんて頷いていた。
一体、自分とエステルが来る前はどんな振る舞いをしていたのだろうかと気になってしまうが、三人の口振りからするに余り人に頼らずに気丈に振舞っていたのではないかと、長い付き合いから容易に想像できた。
「ユーリ、意地っ張りだからね」
穏やかに眠る彼を優しい眼差しで見つめるカロル。
「これじゃ、どっちが大人かわからないな」
苦笑交じりに呟いたロイドに同意するかのように頷く残りの二人。
「最初はユーリのボスって言われた時にピンとこなかったけどなんとなくわかった気がする」
「そ、そう…?」
予想していなかった言葉に、思わず嬉しくなって自然と言葉が跳ねてしまう。
どうしたらちゃんとした首領になれるのか、みんなに認めてもらえるのか。その答えは未だに出てないけど、誰かにそう言われる事で少しずつ自身に繋がっていたのは間違いなかった。
「さて、さっさと終わらせるか!」
今までまったりと炬燵に入っていたのに
、急にやる気を見せたのはロイドで、ルークとカイルも続くように手を動かし始める。
「急にどうしたの?!」
そんな三人を不思議に思って訊ねてみれば、なんとなく。と笑ってものの数分で課題を終わらせていたのだ。
「みんなやれば出来るんだから初めからやればいいのに」
課題が終わって伸びをする三人を見て苦笑するカロル。
「ユーリ、部屋まで運ぼうか?」
「ん?いいよ」
もう少しこうしてる。と三人に笑いかければ、わかった。と優しく微笑み返してくれる。
三人が居なくなったのを見計らって、身体の前に回された腕にそっとしがみついてみる。男性の中じゃ華奢な方かもしれないが、自分から見たら逞しいと思う腕。いつしか追い越してやるなんて思ってはいるが、追い越せるかは正直カロルにはわからなかった。
そして、後ろで規則正しい寝息を立てる彼の顔を確認すれば、いつになく緊張感のない顔をしている。伏せた瞼から伸びる睫毛や、薄く開いた唇は世の中の女の子が嫉妬するんじゃないかと言うくらい綺麗だとカロルは思ったのだ。
「ユーリ、そろそろ起きて」
風邪ひいちゃうよ。と彼の頬を軽く叩けば、あと五分。と抱きしめる力が強くなる。
あと五分なんて待ったら自分まで寝てしまいそうだ、なんて思ったが、温かいこの時間に悪い気はしなくて、しょうがないなぁ。と満更でもなさそうに返事をして、ユーリの腕を抱きしめて瞳を閉じた。
終