話題:メンタル

もう何年も前の話である。ずっとしゃにむに頑張ってきた。
大学に行くのはお金を稼ぐためだった。やりたいことなんて投げ捨てて、自分は生きるために自分でお金を稼いで独り立ちしてみせると思った。親、学校の先生、塾の先生に対する反発だった。俺の未来をつぶせるものならつぶしてみろ。お前らにつぶされる前に、俺は自分で未来を手にして自分で立ってみせると思っていた。かなり強い思いだった。だから、何でもできた。どんな困難だってぶつかって乗り越えて見せてきた。それで変わる大人たちを、なんだこんなものかと思ってきた。

でもその努力は他人のためだった。大学に入って俺は目的を見失った。同時に、どう生きたらいいのか分からなくなった。だけど、独り立ちしてみせるという気持ちは残っていた。だから、なんとかして大学を卒業した。独り立ちするぞという気持ちは、卒後も変わらなかった。だから、就職先を地元にしなかった。自立心だけあって、でも実際はふらふらしていて、どう生きたらいいのか分からなかった。ずっと自信なんてなかった。

就職して、お金を稼げる身になった。給料が入った。でも、何も思わなかった。ずっとお金を稼ぐために頑張ってきたのに、何も思わない自分にとてもショックを受けた。俺はいったい何のために頑張ってきたんだろう。これまでの時間って何だったんだろう。自分が崩れていくような感覚になった。自暴自棄な気持ちになった。通っている精神科から処方される薬は、10錠/dayを越えていた。
退職に3か月求職期間を貰った。お金を稼ぐことと自分の肉体・精神のどちらを取るかで、悩んだ。結局、退職した。肉体と精神が勝った。初めて自分の人生を自分で決めたように思えた。


実家に帰ってきた。最初は自立するぞと頑張れていた。でも、親はそんな俺を馬鹿にしてきた。昔からそうだが、もともと自信があまりない俺は、どんどん自信を失っていった。親によれば、もっとしっかりしていないと働いても続かない、とのことだった。どんどん自信がなくなって、落ち込んでいった。自信がなくなって落ち込んでいる俺に、色んな人がいろんなことを言ってきた。「甘えるな、お前みたいなのはどこいったって続かない、おこちゃまだ、そこまでしないと俺に感謝しないのか」。
親や周りに左右されるほど、脆かった。
帰ってきて、色んな人に出会い、就職先を紹介されもした。だけど、ほとんど拒否してきた。「あなたは就職できるはずだよ、働き続けられるはずだよ、自信持ちなよ」。いろんな人に言われた。
でも、そのたびに思ってきた。俺にはそんな価値なんてない。働き続ける自信がない。就職してもどれもすぐに辞めている。こんな経歴、誰が相手にするのだろう。もっと頑張って知識つけて就職しないと、働き続けられないだろう。もっとしっかりしないと自立なんてできないだろう。
働くことがハードルで、それがどんどん高くなっていた。


二か月ほど前から、品出しのパート勤務をしている。面接のとき、何度も辞めていることは聞かれなかった。実際いま働いていると、俺は相当真面目らしい。頑張って真面目になっているわけではなく、普通にやっているのだけれど。
真面目だと言われているパート勤務の方に、「あなた若いのに本当にしっかりしている。本当に真面目だね」とよく言われる。上の方からも指示を受けるのだけど、それは一人前だと認識されているからだと、直属の上司から言われた。別のパート勤務の方からは、機械を使うのが得意そうだから今度〜頼みたいと声をかけられた。やってみたいと思える。
勤務先のことを昨日、親に話したら何も言わなかった。あれこれ言ってきた周囲の人も、何も言わなくなってきた。多分、辛い自分自身の話を聞いてほしいか、馬鹿にして自分を保っている人達なんだなと思った。
自分を否定されず、肯定的に評価してもらえる場がある。それが就職先にあった。少しありのままの自分でいられる。それが嬉しい。


自分が大切だった。
自分を見失っていて、お金に目がくらんでいた。お金で量ることができない、誰も浸食できない。
そんな次元で語れない、世界で唯一無二な自分がここにいる。それに自分で経験をもとにして気づけたから、生きていけそうって思える。