アァ、ワタクシは今、此の世の果てに居た
此の世の果てがどういふものか
拙き言葉ではありますがどうにか説ひてみせませう

地が荒れることはなく、平坦な道がただただまつすぐに続きます
その上に陽の光がまるで、水晶を通しているかのやふにやはらかに(それでもなほ暑く)降りそそぐのです

ワタクシの荷物はただひとつ、まつしろな真つ白な一冊のノオトだけなのですが、不思議と此に此の世の果てを書き記してゐるのです

草木はなく、風も感じられないところなのですが、時間の流れといふものはあるらしく、
永らくこの地を歩いてゐると、空腹感に苛まれるのです

 遠ひ異国の女王陛下!ワタクシはパンもお菓子も小麦も持たず、また、それらを買う金さへも持つてはゐなひのです!

そんな皮肉を冗談めかして語つてみても、聞ひてくれる者もおらぬ、此の世の果てなのです。

もちろん、ワタクシは怒つているわけではありませぬ
ワタクシは怒つているわけではないのです

せつかく此処に来たのですから
ようやく此処に来れたのですから

汗でじつとりと滲んだ手でまつしろな真つ白なノオトに今、書き記してゐるのです

此の世の果てで書き記してゐるのです
たつた独りで書き記してゐるのです



ふと、強ひ風がワタクシに吹きかかり、思はず眼を閉じて開ひた時には
ワタクシが居た此の世の果てはすでになく、煎餅布団で横になるみぢめなワタクシの姿があるのです