我が征く道は182

「…シロウ、一旦戻りましょう。貴方には休息が必要だ」
「(帰るのか……ってことは多分ランサーちょっかいだすだろうな。凛ちゃん人質にとられてるし、多分ランサーも来るだろ。よし、一応ランサーに目印だけつけておいて、私はアーチャーを追うか)」
凪子は二人の会話でそう決めると、二人が上がっていくよりも前に地下祭壇をあとにした。中庭から聖堂を抜け、正面から外に出た。
「(あ)」
隠れることはやめたのか、一応霊体化はしているランサーが、宝具で飛散した教会の瓦礫の1つに腰を掛け、所在なさげにぼんやりとしている様子が見えた。退屈そうなその後ろ姿に小さく笑いながら、凪子は音をたてないように小さな紙を取りだし、そして小さな小さな鶴を折った。それに、破壊された教会跡に残っているランサーの魔力を覚えさせ、そっと空へ放り投げた。
命を得たように羽ばたいたその鶴は、ランサーと付かず離れずの位置にぽとりと止まり、そのまま目眩ましの魔術で姿を消した。
「(これで追尾はよし。さぁて、城に行きますか)」
凪子はきちんと使い魔が作動したことを確認すると、アインツベルンの城のある方角に向けて勢いよく地面を蹴った。



アーチャーは相当素早く移動したのか、凪子が追い付けることはなかった。がらんと静かな城の前で立ち止まり、見上げる。
「(………屋根裏部屋かな。正面で降りてくるの待つか。はいりゃ気がつくだろ)」
凪子は正面玄関を開け、中へ入った。
ぎぃぃ、と鈍い音がする。アーチャーはそれで気がつくだろう。
「……………」
バーサーカー戦の惨状は、当たり前だがそのまま残っていた。無言で彼らが終わったところまで近づき、床に染み付いた血のあとを、そっと撫でる。
「…やれやれ、派手に壊したもんだ」
誰ともなしにそう呟き、凪子は手近な瓦礫に腰を下ろした。鞄の中にいれていたペットボトルを取り出し、走ってきたことで乾いた喉を潤した。ついでにコロッケも取り出し、口に放り込む。
月明かりが割れた窓から差し込み、正面玄関はぼんやりと薄暗くも明るい。
「何かと思えば貴様か。飽きない奴だ」
「やっほーアーチャー、キャスター側に寝返ることに令呪の効果相殺もいれていたとは気づかなかったわ」
カツン、と足音を立てて、アーチャーが上階から姿を見せた。ひらひら、と手を振りながらそう言った凪子の言葉に、アーチャーは呆れたような困ったような表情を浮かべ、肩をすくめた。
「つまり、それ以外のことはお見通しだったということだろう?全く、かなわないな」
「先達としてそれくらい見抜けないとねェ。無駄に2000年生きてないってわけさ」
「…まぁいい。それで?今度はオレと小僧の戦いを見物しに来たのか?」
「まぁ見物といえば見物だけれど、言ったろ?私は君派なんだ、応援するってな」
「…つくづく理解できん奴だ」
アーチャーは凪子の言葉に目を細め、凪子の向かいの床に腰を下ろした。