/0
100万回もしなないねこがいました。
100万回もしんで、100万回も生きたのです。
りっぱなとらねこでした。
100万人の人が、そのねこをかわいがり
100万人の人が、そのねこがしんだときなきました。
ねこは、1回もなきませんでした。
/1
「何故僕は作られたの?」
あるときねこは、せまいへやの中でそうつぶやきました。
ねこのとなりで、白い人たちはいいました。
「000に対抗できる唯一の機械を此の世に生み出す為に、000を壊す為に生まれてきたんだよ。」
ねこは白い人たちがだいきらいでした。白い人たちは、ねこのことをあいしていないんだとおもいました。
白い人たちはねこのことをあいしていました。ねこがほしがるものはすべてあたえ、ねこがのぞむのであればすべてをかなえてあげました。それでもねこは、白い人たちのあいじょうをかんじることができませんでした。
ある日、ねこは白い人たちをころしてせまいへやの中からにげだしました。
ねこはさいごにうしろをふりかえり、いちどだけわらいました。いままでわらうことのなかったねこが、いままでねこがわらうことをのぞんでいた人たちにむかってわらいかけました。つめたい、つめたいえみでした。
「さようなら、僕のお父さん達。さようなら、僕を愛さなかった人達。」
ねこはせまいへやの外につんであったほそながいぼうで、じぶんのからだをつらぬき、くるしみながらしにました。
それをしったそしきのえらい人は、すでに腐りかけていたねこをだいて、大きな声でなきました。
そして、せまいへやの外の草むらの中に、ねこをうめました。
/2
「富みなんていらないよ。戦争は嫌いだよ。」
あるときねこは、王さまのひざの上のかごの中でそうなげきました。
ねこをひざの上にのせた王さまは、目のまえでくりひろげられるせんそうにえみをもらしながら、こたえました。
「強さこそ最強。富みさえあれば何でも叶うさ。」
ねこは王さまがだいきらいでした。王さまは、ねこのことをあいしていないとおもいました。
王さまはねこのことをあいしていました。ねこがほしがるものはすべてあたえ、ねこがのぞむのであればすべてをかなえてあげました。それでもねこは、王さまのあいじょうをかんじることができませんでした。
ある日、ねこはかごの中からにげだし、おおくの人をころして王さまのもとへもどってきました。
ねこは、大きくてをひろげわらっている王さまのほうをむいて、いちどだけわらいました。つめたい、つめたいえみでした。
「さようなら、愚かな人間。さようなら、僕を愛さなかった人。」
ねこはせんじょうに落ちていた矢であたまをつらぬき、ほほえみながらしにました。
それを見ていながらもなにもすることができなかった王さまは、もう動かなくなったねこをたたかいのまっさいちゅうにだいてなきました。
そして、おしろのにわに、ねこをうめました。
/3
「海に終わりはあるのかな。」
あるときねこは、ひろい船のかんぱんのうえでそうたずねました。
ねこのとなりで、にもつをせいりしていた船のりはすこしかんがえながら、こたえました。
「人の命には終わりがあるけど、海に終わりは無いさ。」
ねこは海なんてだいきらいでした。海はどこまでもつづいていて、まるでじぶんのおわりのないいのちのようでした。
船のりはねこのことをあいしていました。ねこがほしがるものはすべてあたえ、ねこがのぞむのであればすべてをかなえてあげました。それでもねこは、海と船のりをすきになることができませんでした。
ある日、ねこは船にのっている船のりいがいのひとを船からおとしました。
船のりはいそいでその人たちをあみですくいあげましたが、だれひとりとしていきている人はいませんでした。それを見ていたねこは、ちいさくなにかをつぶやいたあとわらいました。いままでだれにもみせなかった、つめたいつめたいえみでした。
「さようなら、僕を苦しめた海。さようなら、僕を愛さなかった人。」
ねこは、みずからうみの中へとみをなげました。
船のりがまたいそいで、ねこをあみですくいあげるとねこはびしょぬれになってしんでいました。船のりはからだからたえず水をたれながしているねこをだいて、大きな声でなきました。
そして遠いみなと町の、こうえんの木の下に、ねこをうめました。
/4
「毎日毎日僕の身体を二つに分けて、一体何がそんなに愉しいんだい?」
あるときねこは、サーカスぶたいのうらがわで、かいぬしである手品つかいにあきれがおでといかけました。
のこぎりのはをといでいた手品つかいは、ねこのほうを見ずにいいました。
「金になるんだよ、勿論お前の事は愛しているが。」
ねこはサーカスがだいきらいでした。サーカスでは、ねこのからだをまっぷたつにするだけでした。それからまるのままのねこをとりだし、かんきゃくからはくしゅかっさいをうけるのです。
手品つかいはねこのことをあいしていました。ねこがほしがるものはすべてあたえ、ねこがのぞむのであればすべてをかなえてあげました。それでもねこは、サーカスはきらいで、手品つかいのあいじょうをかんじることができませんでした。
ある日、ねこはサーカスのとちゅうで、のこぎりで手品つかいのみぎうでを切りおとしました。
だくだくだくと、うでのきりぐちからながれる血をぼうぜんとながめている手品つかいに、ひややかなちょうしょうをむけると、ねこはいいました。
「さようなら、貴方の右腕。さようなら、僕を愛さなかった人。」
ねこは、おちていたのこぎりでじぶんのからだをまっぷたつにしました。
手品つかいはひだりてで、まっぷたつになってしまったねこをぶらさげて、大きな声でなきました。だれもはくしゅかっさいをしませんでした。
手品つかいは、サーカス小屋のうらに、ねこをうめました。
/5
「こんな事をしていると、いつか君と僕は死んじゃうよ。」
あるときねこは、くらい町のとある家のまえでひとりごとのようにささやきました。
ねこをつれていたどろぼうは、とおくに見えたいぬごやをゆびさしながら、ねこにいいました。
「さあ、今日も頼んだぞ。」
ねこはどろぼうがだいきらいでした。どろぼうが金庫をこじあけているあいだ、すきでもないいぬのあいてをしなければならないのです。
どろぼうはねこのことをあいしていました。ねこがほしがるものはすべてあたえ、ねこがのぞむのであればすべてをかなえてあげました。それでもねこは、どろぼうもいぬもすきになることができませんでした。
ある日、ねこはいぬにていこうすることなく、かみころされました。
どろぼうは、ねこのもとへとかけよると、まだかすかに目をみひらきつめたいえみをうかべているねこをだきあげました。ねこは小さなこえでいいました。
「さようなら、言っただろう。さようなら、僕を愛さなかった人。」
そのままねこは、しにました。
どろぼうは、ぬすんだダイヤモンドといっしょにねこをだいて、夜の町を大きな声でなきながら歩きました。
そして、家に帰って小さなにわに、ねこをうめました。
/6
「暇、だねぇ……。」
あるときねこは、ひとりぼっちですんでいる、おばあさんのひざの上でねごとのようにいいました。
おばあさんはねこをだきながらまどの外を見ていました。
「お前さんがいれば大丈夫よ、あたしは。」
ねこはおばあさんがだいきらいでした。一日じゅうおばあさんのひざの上でねむっていないとならないのです。ひまでひまでしかたがありません。
おばあさんはねこのことをあいしていました。ねこがほしがるものはすべてあたえ、ねこがのぞむのであればすべてをかなえてあげました。それでもねこは、おばあさんのあいじょうをかんじることができませんでした。
ある日、ねこはおばあさんのひざの上からおりました。
よぼよぼのおばあさんは、よぼよぼのねこを見ながらなにごとかとおもいました。ねこは、からだじゅうをきしませながら目をとじたあといいました。
「さようなら、老いぼれ。さようなら、僕を愛さなかった人。」
いいおわったあとねこは、からだのねじをいくつもおとしたあと、そのばにくずれおちました。
よぼよぼのおばあさんは、よぼよぼのしんだねこをだいて、一日じゅうなきました。
おばあさんは、にわの木の下にねこをうめました。
/7
「狭いよ、苦しいよ。早く僕を離して。」
あるときねこは、小さな女の子のせなかでいいはなちました。
ねこをおんぶしていた女の子は、むじゃきなこえでこうかえしました。
「貴方は私の猫だもの。離したりしないもん。」
ねこは子どもなんかだいきらいでした。じぶんをそまつにあつかう女の子が、どうしてもゆるせませんでした。
女の子はねこのことをあいしていました。ねこがほしがるものはすべてあたえ、ねこがのぞむのであればすべてをかなえてあげました。それでもねこは、子どもも女の子もすきになることができませんでした。
ある日、ねこは女の子のせなかにつめをたてながらわらいだしました。
女の子ははじめてきくねこのわらいごえにびっくりしながら、あせりだします。そんな女の子をこっけいなものでもみるかのように、ねこはおおきく目をみひらいてわらうのをやめません。
「さようなら、小さな生命!さようなら、僕を愛さなかった人!」
ねこはおんぶひもをじぶんのくびにからませ、しにました。
ぐらぐらの頭になってしまったねこをだいて、女の子は一日じゅう泣きました。
そしてねこを、にわの木の下にうめました。
/∞
「やあ、姉さん。」
あるときねこは――――。
/愛されていることに気付けなかった猫の話