"どうしてキミは強さを求めるの?"
『……強けりゃなんだって出来るだろ』
"例えば?"
『例えば?あー……ムカつく奴らをぶっ飛ばせる』
"後は?"
『次の争いが起きる前に捻じ伏せられる』
"それ以外には?"
『……テメェ何なんだよ、まず誰だよ』
"オレの事忘れちゃったの?"
『……………………』
"キミが強くなるのは自分の為でも仲間の為でも無いよ。そう……キミはただ……オレの為に強くならなくちゃいけないんだよ。
ねぇ……
オポムリアちゃん"
───…。
『………………』
嫌な夢だ、とオポムリアは閉じていた目を開けた。
じっとりとした汗とうっすらとした頭痛。
自分がどれだけ寝ていたかは分からないが、悪夢を見たということだけはしっかりと覚えていた。
『(何でアイツの夢なんか……クソ、目覚め悪ぃ……)』
【まもなく惑星イザヨイになります。お忘れ物の無いようご注意ください】
『!もう着くのかよ……降りなきゃな……』
「きゃあ!や、やめてください!」
『あ?』
突如聞こえた悲鳴にオポムリアはそちらへ視線を向けた。
すると一人の白いトランスフォーマーが大男に肩を抱かれて嫌そうに体を捩らせていた。
「ギャーギャー騒ぐなよ!おいお前等!このお嬢ちゃん殺されたくなかったら全員席について金目の物を出せ!」
男数人が武器を持ち威嚇をすると船内の乗客は悲鳴を上げながらも怯え動けないでいた。
オポムリアは溜息をつくと一人席を立ち、男達の方へと近づいていった。
『おいクソバカ共。船の乗っ取りやりきったつもりだろうが俺は急いでんだ、さっさと退け』
「あ?ンだこのガキ!テメェからまず先に殺して見せしめにしてやろうか!?」
『うるせぇわ』
ゴキンッと不吉な音がすると男の手はあり得ない方向に曲がっていた。
遅れてやってきた痛みに劈くような叫びを上げる男に仲間達は一斉に武器をオポムリアに向けた。
しかし刃先や銃口がオポムリアに向く前に、その武器は微塵に斬られてしまい役に立つことはなかった。
「なっ……!」
『修行前のいい肩慣らしだな。ただの賊だが……まぁ多少は楽しめんだろ!』
そこから盗賊団達はオポムリアに手も足も出せずに一方的な暴力を受けたのだった。
途中からは盗賊団の方が可哀想になる程ボコボコにされ……通報を受け駆けつけた警官達が止めに入るまでオポムリアの暴挙は止まらなかったという。
『んだよ、物足りねぇ』
「あ、ありがとうございます!」
人質になっていたトランスフォーマーはオポムリアに近づき頭を下げた。
「貴女が居なかったら今頃私は……。本当にありがとうございます!是非お礼を……」
『いいって。もう俺降りるし』
「え?ということは惑星イザヨイに?まぁ、私もなんですよ!」
『へぇ、観光か?』
「いぇ、私は其処で働いているんですよ。良かったらご案内しますよ!」
『おー、頼む。んじゃ一番偉い人のとこ連れてってくれ』
「分かりました」
そして惑星イザヨイへ到着し、降りるとそこはオポムリアの見たこともない景色が広がっていた。
『赤ぇ』
真っ赤な掌のような葉の付いたな木々がそこら中に並び、床はまるで赤い絨毯が敷かれているようだった。
ハラハラと優しい風に揺られ落ちるそれらを眺めると、白いトランスフォーマーはクスクスと笑った。
「皆さん余程この惑星が珍しいみたいで、いつも驚かれます」
『いっつもこうなのか?』
「いえ、約三ヶ月ごとに気候と植物が変わるんです。この時期はこの赤い葉と黄色い葉が彩るんです。綺麗でしょう?あともう少しすれば雪が降る時期になりますし、その後は桃色の花が咲くんですよ」
『へー……変わってんな』
「えぇ、ですからここは観光地としても名高い惑星になります。そういえば……貴女は何をしに此処へ?」
『そういや話してなかったな。俺はコード008部隊のオポムリア、ここには修行に来たんだ。確か……ここについたらカクエンって奴にまず会えって言われたな』
「カクエン様に……?」
『?』
「あ、いえ……まさか隊士様だったとは……。成る程、コード008部隊の方ならお強いのも納得です。分かりました、私がご案内します」
『おー、サンキューな』
「いえ。ではオポムリア様、こちらへ。あぁ、申し遅れました。私はカザハナと申します」
『よろしく。ここで働いてるってことはお前も剣士の一員なのか?』
「いえいえ、私はただの看護兵ですよ」
他愛もない会話をしながらオポムリアはカザハナの案内で奥へ奥へと進んでいく。
長い廊下から見える中庭の庭園は手入れが丁寧にされ、また池には美しい蓮の花が浮かんでいた。
自分の部隊とは全く違う基地の造りに興味津々とばかりに見渡しながら進むと、カザハナがとある部屋の前で止まった。
「こちらがカクエン総隊長様の部屋になります。少々お待ちください」
そう言うとカザハナは襖の外から「カクエン様、お客様になります」と声をかけた。
そして中からは「あぁ、通していいよ」と男の声がした。
『(惑星イザヨイを守る剣豪揃いの精鋭部隊"暁"……それの総隊長か……。どんな奴だ?相当強い奴に違いねぇ……少なくともうちのクソもやし司令官よりは強い奴だとは思うが……)』
オポムリアが地味に失礼なことを考えている中、コード008部隊の司令室ではスコーピアスが盛大なくしゃみをしていたとかいないとか……。
「では、失礼します」
カザハナがゆっくりと襖を開けるとそこには……。
異様な酒臭さが広がっていた。
『酒臭ぇ!!』
「え〜?なになに?お客様ぁ?なんか約束してたっけぇ?」
「失礼しました一度閉めさせていただきます」
スパーンッ!と襖の縁が歪むほど勢い良く閉じられ、カザハナはぐるりとオポムリアの方を見た。
「申し訳ございません。もう少々お待ちくださいませ」
にっこりと微笑みながらそれだけ言うとなるべく中を見せないように中へ入り、何やら話しているようだが声が大きいため全て聞こえていたのだった。
「カクエン様!」
「あれぇ?カザハナちゃん??おかえりぃ、あははは、カザハナちゃんが二人いるぅ」
「昼間から飲み過ぎです!と、いうかお客様が見えてますよ!」
「はいはぁ〜い、どうぞどうぞ通してぇ〜」
「こんな散らかった場所に通せません!あぁもうそこに居ていいので!片付けは私がやります!」
正反対な二人の声色にガシャガシャと掃除をしている音が混ざり、オポムリアは眉を顰めた。
『……何を見せられたんだ俺は』
いつもは暴君オンリーな言動のオポムリアだったが、今は率直な感想しか出なかった。
「だいたいカンナギ様は今何処に!?」
「カンナギちゃんは今丁度新兵ちゃん達の稽古に行ってるよ〜そろそろ戻ってくるんじゃな、いたぁっ!」
ゴッ!という鈍い音のあと、凛とした別の声がした。
もう一人誰かが現れたようだった。
「カクエン様、今日はお客様が見えるのでお酒は控えるよう言いましたよね?何です?この阿呆みたいに散らかった酒瓶は……?」
「だからちょっと飲んだだけじゃ〜ん。木刀で殴ること無いじゃんか酷いなぁ」
「ちょっと……?ちょっととは……?……はぁ、もういいです。カザハナ、片付けありがとうございます」
「い、いえ……後は頼んでよろしいですかカンナギ様……」
「えぇ、もちろん」
「よっ、さすがカンナギちゃ〜ん」
「まずは貴方様の酔いを覚ますところから始めましょうか。ではカクエン様、ご覚悟を」
「え、ちょ、カンナギちゃん?なんで深呼吸してるの?その手何?え、やめ、あべしっ!!」
パシンパシンと乾いた音が何度も鳴り響き、待たされた挙げ句とんだ茶番を聞かされ早くもオポムリアは帰りたくなっていた。
数分後、片付ける音や平手打ちの音が止み、中から先程の声がしてオポムリアは中に招き入れられた。
「オポムリアさん、ようこそ惑星イザヨイへ。そしてイザヨイのサイバトロン部隊、"暁"での修行、お待ちしておりました」
淡々と話す男の隣では頬を真っ赤に腫らしながらもへらへらと笑う男が足を組みながら座っていた。
「いや!いつもながらカンナギちゃんの平手打ちは効くねぇ!酔いが覚めた!」
「自分の平手打ちが無くとも覚めていて欲しいのですが。すいませんオポムリアさん、先程見たことは見なかったことにして頂けますか?」
『いや無理だろ』
「そうですか何も見ていないと、ありがとうございます」
『おい』
「私はこの暁部隊の副隊長、カンナギと申します。よろしくお願いいたします」
『(ゴリ押しでスルー決めやがった……)』
冷静な割に意外とゴリ押しなカンナギに呆れながらも、オポムリアは次にカンナギの隣でへらへらと笑う男を見た。
男からは未だに酒臭さが漂い、腫れの引いてない顔は酔った際の赤みがまだ残っていた。
「……総隊長、貴方も挨拶してください」
「はいはい。俺は総隊長カクエン、って言っても前総隊長が辞めたあとの推薦なんだよねぇ。だから嫌々総隊長やってま〜すって感じ」
「余計なことは言わなくてよろしいです」
「あだっ」
カクエンの頭に軽い小突きが食らわされるも、カクエンはへらへらと笑いながらオポムリアを見た。
『……俺はオポムリアだ』
「よろしくねぇ。いや、それにしてもブレイクステップちゃんの弟子で部隊で手がつけられない程の暴れん坊だって聞くからどんなクソ生意気な坊主が来るかと思ったらこんな別嬪さんが来るなんてねぇ。オジサン嬉しいなぁ〜、美少女は目の保養だからねぇ」
「まだ酔っているのですか?はっ倒しますよ」
「もうはっ倒してるじゃ〜んっ」
オポムリアに近づこうとした手をカンナギに払われても、カクエンは笑っていた。
『(なんだコイツ……ほんとにコイツがここの頭なのか……?)』
「んまぁ、詳しい修行内容はカンナギちゃんから後で教わるとして……まずは俺達の挨拶から始めようか」
パンパン、と手を叩くと一気に数人の気配がしてオポムリアはそちらを振り返った。
そこにはいつの間にか同じ装束の男女が並んでいたのだった。
『!(コイツ等いつの間に……!全く気配がしなかった……!)』
「俺達はサイバトロン特殊部隊"暁"。よろしくねオポムリアちゃん」