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タイトルなし

 クラノキ先輩とその恋人が暮らす部屋は、生活感がありとても驚いた。片付いてはいるが、床にポイとおかれた雑誌。流しにおかれた赤と緑の揃いのマグカップ。コルクボードの写真。
 高校時代、わずかだが一緒に過ごした時間からはとても想像できない。だって彼女はどこか浮き世離れしていて、私生活など想像させない空気をまとっていたのだから。

タイトルなし

 それは日記というには夢見がちで、小説とよぶにはあまりにも稚拙な文字の羅列だった。
 作りはB5のコピー用紙をホッチキスと製本テープでとめた、部誌と同じものだ。しかし表紙のには「No.6」と手書きで書いてあるだけで、部誌の「萌黄」というタイトルは見あたらない。部員の誰かが個人で作ったものだろうか?
 
「ああ、その本先輩の。ときどき持ってくる」
 
 本を見たまま動かない私に気付いて、部員の一人が声をかけてくれた。
 彼女の先輩というと、3年生ただ一人の部員である、クラノキ、という人物ではないだろうか。
 
「クラノキ先輩、部の仕事があるとき以外はあんまりこない幽霊だから、1年生はまだ会ったことないよね。その本のことも知らないのも無理ないか」
 
 どうやらそのクラノキであっているらしい。
 彼女いわく、クラノキ先輩は少々かわったひとで、ほとんど部室にはこないらしい。そしてたまに来るときには、番号だけかかれた本を必ず持ってくる。その本はそのまま部室の天井まである本棚に収められるという。
 
「じゃあこれ、No.6ですからほかに五冊も?」
「いや、一番最新のはNo.7。それはさっき私が読み直して置きっぱにしてた」

 いったいどうゆうものだろう、コレは。内容は地に足が着いていないというか、筋道だったものがない。まるで夢をそのまま書き表わしたようで、少々気味が悪い。書いたクラノキ先輩はもちろん、こんなものを読んでいた彼女も不思議である。
 
「あの、この内容なんなんですか?日記みたいに見えますけど、それにしては不気味すぎます。読み直すような代物じゃあない」

 私は彼女に思ったままのことを尋ねてみる。
 すると彼女は広角を上げ、まるで私のことを面白がっているかのような顔をした。
 
「それは私の口より本人からの方がいい。何より今日はクラノキ先輩が来るから。」
 
 なぜわかるのだろう?ついさっき自分でたまにしかこないと言ったばかりではないか。
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