「って事があってだな」
「えっ?、その骨折の理由?」
フタリだけの教室、右足にギブスをして松葉杖を机の上に置いて笑うソイツ。
「そう、案外折れてなくて良かったわ」
「え?そーゆー問題?」
乱雑に入ったバッグからタオルを取り出して何時ものように首にかけるソイツの首元にはまだミミズ腫れが残っている。
「手加減してくれたのかもなぁ、いやぁあの噛んだの悪い事したなって思うもんな、でもな!でも、可愛かったんだよなぁあの柔らかそうなほっぺたを、膨らましてるの!!」
興奮気味に前のめりに教卓に座るワタシを見上げる、鼻の穴が開いてまぁブサイクだ。
「さっこさんてあれだろ?好きな紅茶持っててお願い事すると英語力が上がるって噂の」
誰に聞いたのかはもう忘れたけど、テスト前とかに良く聴く話しだ。
「そう!!だからな!多分さっこさん英語で話してくれてたんだと思うんだよ!しかも俺紅茶持ってなかった!これは完全に俺が悪い!」
頭を抱えて悔やんでいる姿が本当馬鹿らしい。
「タコがプールに居るのも凄いけど、紅茶のプールね、よっぽど好きなんだな」
そう言えば、この前の授業の時に科学の先生が言ってたな、塩素の濃度は水道とそれほど変わらないけど、人間が入ってアンモニアと反応して化学反応であんな臭いになるんだと、人間の汚れだなと笑ってたな。
ーーん、じゃあさっこさんが入るとなんらかの、作用で紅茶になるって事?
”バンッ”と音が響いた。
「決めた!俺!駅前留学する!!んで!さっこさんとお話する!!」
明後日の方向に思考を飛ばしていたら、突然机を叩き何を言うかと思えば、、の発言に一瞬止まったが直ぐにワタシは溜め息を吐き出した。
「この前、マΟクの用紙の空いてる英語埋める問題で、チキンの二文字目に『i』入れた奴が良く言うよ」
凄いドヤ顔で答えてたよなコイツ。
「うっ、、ほら、苦手だからローマ字読みしちゃうって言うかぁ」
「三文字目にiあるのに?」
「ちーーーきん、みたいな?」
ーーあ、こいつ絶対覚える気ないわ。
「そんなんでいつまでたっても逢いにはいけないな、」と呟き呆れて見下ろしてると、ぐぬぬぬっと戦慄いて。
「逢いに行くんだ!お話出来ればもっと良く見れる筈だから!色々起こって良く見れなかったけど、さっこさん上は水着一枚なんだぜ!?下半身タコだとしてもドキドキするだろ?!あとな、後々思ったけど、大きなタコ足に絡みつかれるなんて本当まさに、かつしかっガッッ!」
途中でギブスを”ソレ”で叩く。
「いでぇっ!えっ何で叩いた?ギブスしてんのにいってぇぇ!」
右膝を抱えてギブス越しにさする両手にくっきりと均一に丸い鬱血痕が並んでいる。
ーーこいつは本当馬鹿だわぁ
ワタシはその痕を数えて溜め息を吐いた。
ちゃんちゃん
2018.7/29
2018-7-31 14:25
「って事があったんだよ」
誰もいなくなった蒸し暑い教室で額を拭いながらソイツが笑う。
「え?お前がこの前の肝試しで勝手に忍び込んで、用務員さんに見つかって救急車騒ぎの当事者?」
教卓に腰掛け、一番前の席に座る見下ろしながら自分で言うのも何だが、細い眼を限界まで見開いた。
「そー!救急車初めてだったのに記憶ねーわ、怒られるわ」
カラカラと笑うソイツは首に巻いたタオルで次々に溢れる汗を雑に拭き取る。
「怖くねーの?」
あまりにあっけらかんと話す当事者に眉を顰めると、ソイツは気持ち悪く”ニカリ”と笑った。
反射的に、『きもっ』と出た言葉を綺麗にスルーしながらキラキラとした眼で言い切った。
「死んだと思ったけど、アドルムさん見てる分にはかなり眼福でしたわ!!」
ーーあぁコイツぁダメだわぁ、変態ですわぁ
思わず天井を仰いだ。
目だけをソイツに戻すとまざまざと見せつけられる現実。
タオルに隠れて見えにくくなっているが、熱さで真っ赤になった首の真ん中にクッキリとミミズ腫れた痕は、ワタシからは見えていた。
ちゃんちゃん。
2018.7/25
2018-7-31 14:12