「おーい九龍〜」
「ん?」
「よう」
「どうしたの鴉室さん」
「いやぁちっとばかし探し物の前にお前に会っとこうと思ってよ」
「調査大変そうだね」
「まぁな〜でも、お前の顔見たらやる気が沸いてくるってもんだ」
「あはは何それ」
「ああそうだ。こないだの情報料まだお前から貰ってねぇな」
「あれは探索で依頼主から貰う報酬で払うって言っただろ」
「報酬ね〜…おにいさん思ったより金に困ってないんだよね」
「え、そうなんだ」
「待て待てじゃあいらないねって顔はやめろ」
「なんだよー何か欲しいの?」
「ああ欲しい」
「お金以外って言ったら物と交換?寿司なら握ってあげてもいいけど」
「お前の手料理も捨てがたいがどっちかっつーと…」
「わっ!ちょっとちょっと!何腰に腕回してんの」
「細っけぇなぁ〜」
「…っ」
「真里野〜」
「む、」
背後に気配を感じたと思えばすぐに元気な声が廊下に響き渡る。葉佩九龍、しぃ組の転校生だ。
「九龍…どうした?」
「今から一緒に手合わせしない?最近身体鈍ってるし真里野にしか頼めないなぁって」
「べ、別に構わんが」
「やった!」
相変わらず元気な男よ。さすがは夜な夜な遺跡探索をしているだけはある、体力が有り余っているのだろう。それにしてもなんだ先程からのこの胸のざわめきは。九龍の笑顔を見る度にどこか懐かしく、見覚えのある顔が浮かぶ。
(七瀬殿…?)
何故九龍を見て七瀬殿の顔が浮かぶのか。否、正しく言えば拙者が遺跡で対峙した七瀬殿と同じ笑顔。あの戦いの後、幾度か七瀬殿に手合わせ願いたいと申し出たものの訳のわからぬ顔をされ避けられた続けた。その顔は遺跡で出会ったものとはまったく別物の、乙女の顔。
遺跡で出会ったのは九龍のような心を溶かす笑顔。強く美しい凜とした姿と瞳に宿る光。
あれは――。
「真里野」
「」
「甲ちゃんの馬鹿!!」
「はぁ?!」
探索から帰って来た俺達は取り敢えず九龍の部屋に集まり傷の手当てをしていた。帰り道やたら機嫌が悪ぃなとか思っていた訳だが理由もわからず放っておいたのが不味かったか、今になって爆発したらしい。つーかなんで俺が馬鹿呼ばわりされなきゃなんねぇんだ。
「今日はすげぇウトウトしてやったし庇ってやったろーが。なにが馬鹿だ、馬鹿」
「あそこは俺なんかよりかまちを庇うとこだろ!!」
「は………………!?」
「え、あ、はっちゃん…」
「俺が庇いたかったのになんで邪魔するんだよ!!」
「はぁ!?」
午後の温かい風が窓の隙間から入り込み、太陽の匂いが眠気を誘う。僕はピアノの鍵盤に指を置き、そっと軽くソナタを奏で始めた。
弾きながら想うのは、君。
きっと今は屋上で皆守君と一緒にお昼を食べてるに違いない。この風のように温かな笑顔と笑い声を響かせながら。その様子が安易に想像出来て僕はクスと小さく笑った。
(この音色が君に届けばいいな…)
目を瞑ると、僕の名を呼ぶ愛しい声。腕を引き眩い世界へと解き放ってくれた力強い手。ああ君の総てが、僕の光。
「かまち」
指を、止める。
僕がこの声を聞きまちがえる訳がない。ゆっくりドアを振り返り逆光に目を細めた。
「…はっちゃん」
息を切らし肩を揺らす姿に驚きが隠せない。今は屋上にいるであろう時間なのに。ゆっくりはっちゃんは僕に近付き嬉しそうな顔を向ける。
「かまちのピアノの音が聞こえたからすっ飛んできちゃった」
えへへ、と照れる顔に僕まで顔を赤くしてしまう。だってまさか、本当に来てくれるなんて。
やっぱり君はすごいや。
イスを引っ張って僕の隣りに座るはっちゃん。ふわっと香る太陽の匂いに笑みが零れ、途端温かいものが胸に染み渡った。
(これが幸せって、ことなんだろうな)
「かまち、何だか嬉しそう」
「うん…嬉しい」
「かまちのそんな表情も、好き」
「はっちゃん…」
まだこの気持ちに戸惑ってしまう僕だけど、いつか君に必ず伝えたいことがあるんだ。
(好きだよ)
「ッ…ぁ…」
静まり返ったパプワ島。波の音が微かに聞こえ、それを耳に感じながら俺達は行為に没頭する。
「…ァあ…ン、シンタローさ…」
「リキッド…ッ」
最奥に穿った自身