楽園の崩壊2
薄暗い部屋の中、どれ程交わっただろうか。何度も何度も、私の形を覚えさせるように。炎鳳をすべて私で塗り替えてやりたかった。
「………」
幾度目の精を吐き出して、炎鳳は意識を失った。
夢中で腰を突き上げる私が気づいたのは少し後だったが。
仕方無しに抜き去れば、ドロドロと太股から白濁が流れていく。
私はそれを見て恍惚にも似た気持ちに包まれていた。
ずっと炎鳳に抱いていた想い。
それが一体何なのかわからなかった。
だが今ならわかる。
ずっと、こうしたかったのだ。
他の者とは違う。
ただ微笑んで頭を撫でてくれる、それだけで込み上げてくる気持ち。
最初から私のものだが、ようやく手に入れた感覚だった。
私も一眠りし、数時間後に目を覚ます。まだ炎鳳は眠っていた。
「……」
しばらく近くで寝顔を見つめる。
そう言えば、炎鳳の寝顔を初めて見る。
皆もそうではあるが、一番いつも側に居る者だ。一度くらい見ても良さそうなものだが。
私より早く寝る事もなければ遅く起きることもない。
そんな細かい所まで令を課している訳ではないのに、そう心がけてくれていたのだな。
だがこうして眠る姿を眺めるのもいいものだと思った。
「ん……」
瞼がピクリと震え、うっすらと開いていく。
「起きたか」
まだ呆けているのか反応をしない炎鳳の唇に優しく吸い付いた。その瞬間目を見開きようやく覚醒したようだ。
「あ……」
ガバッと起き上がり周りを見渡す。表情が面白い程青ざめていく。
「申し訳ありません…っとんだ醜態を…」
「他愛ない。私は気にせん」
「直ぐに食事の支度を…!」
下に落ちた衣服を取ろうと手を伸ばす炎鳳の腰に腕を回し、滑らな背中に頬をすり寄せる。
「後でよい。今はまだここに居ろ」
「ですが……」
「私が何のために三日も休息を取ったと思っている」
「大人の身体になられたのですから休むのは当然なのでは」
「そんなもの一日もあれば回復する。私はお前との時間をじっくり楽しむために玄斗達に後を任せたのだ」
背骨のラインを下から上に向かって舌でなぞっていく。炎鳳は眉を下げ困ったように見つめる。
どうやら、わかっていないようだ。
「あの男に蹂躙された身体を私に染めるのには、少々時間が掛かるだろう?」
「ぁ……っ」
背中に口づけをしながら、左の突起を摘まむ。ビクンと激しく揺れる身体。愉快な反応にもっと虐めたくなってしまう。
「イ、オ……、食事を……」
「お前はいつも私の話を本題から反らそうとするが、そうはいかんぞ」
「ッ…んン」
固くなる先端を指でくりくりと刺激する。昨夜もさんざん弄ったが、ここが一番弱い箇所だと言うことはもうわかっている。
「ハァ……は、ぁ…っ」
「食んで欲しそうに尖っているな」
「ッ…ぁあ!」
背中を抱き締めたまま、頭だけを乗りだし突起に吸い付く。舌で先をチロチロと愛撫すれば私の腕に爪を食い込ませ悦ぶ。
「イオ…!お願、ですから…食事を…あっ…あ…」
「まだ言うか」
私は少し苛つきを覚え、突起を強めに噛んでやる。
「ンッ……!」
それすらも気持ち良いらしく、ブルブルと震え耐えていた。そんな姿を見ていればこちらも興奮するのは当然で。
「もう挿れたい。慣らさぬとも大丈夫だな」
「や……ッ…」
蕾は既に濡れている上、昨夜の交わりで私の形を記憶しているのか柔らかく広がる。
甘美な蜜壺を早く味わいたい私は、我慢出来ずに猛ったそれを四つん這いにさせた炎鳳にゆっくり埋めていく。
「あ……ぁぁ……っ」
ズズ、と音が聞こえる程きつく締め付けられ熱い息が漏れる。
奥まで私を埋め、背後から炎鳳の男根を包んでやる。掌でゆるゆる擦ればそれに合わせるかのように中が締まった。
「ハァっ……ぁ、ん…ンッ」
「気持ち良いか?」
炎鳳はベッドに顔を埋め、喘ぐばかりで何も答えなかった。
答えられない、が正解であろうな。
「どうやらお前は快感に抗えぬ質らしい。見目は純粋であるのに、その実淫らだ」
「ッ…ぁ、あっ」
「あの男ともそれだけの関係だったのだろうな」
「ハァ…っ」
ようやく納得のいった私は安堵を覚え、炎鳳を抱き締めた。
「これからは私がお前を満足させてやる。私でないと駄目な身体にしてやる…」
「あぁっ…!」
貪るように腰を穿つ。
尻を高く突きだし、炎鳳はシーツを強くたぐり寄せた。
擦る度に蜜が繋がった箇所から溢れ私の興奮を煽っていく。
「んっンッ……、ぁ、ン…っ」
ぐちゅぐちゅと感じる部分を何度も突けば、自ら腰を振ってもっととねだった。
「はぁ……っ」
「炎鳳、こちらを向け」
背中に密着して耳元で囁く。そうすれば、潤んだ瞳が私を見上げた。
繋がったままグイッと体勢を変える。片足を肩に抱え、炎鳳の身体は横倒しの状態だ。
「ぁ、ぁっ…」
「また違うであろう?」
腰を少し突き出しただけで、甘い息が漏れ聞こえる。
方膝で炎鳳の男根を刺激してやれば肩をビクビク揺らして感じていた。
「はぁっハァ…、イオ…っ」
「出そうか?」
「あぁ…!」
コクコクと首を振る炎鳳の中を私も共に果てようと激しく擦る。
「ハァっはあ…ッぁっ」
「…、出すぞ」
「ーーーーッッ」
そう囁いた瞬間、身をしならせ果てる美しい私の鳥。
私は誘われるように中に欲望を吐き出した。
まだ足りなかったが、炎鳳が逃げるように部屋を出てから数十分。
少々傷ついた私だが、炎鳳が美味そうな食事を運んできて自分の空腹にようやく気がついた。
「………美味い」
「良かったです」
「だがな、私の前から何も言わずに去るのだけは許せない」
そう不機嫌に眉を寄せる私を申し訳なさそうに見つめ、炎鳳はグラスに水を注いだ。
「食事を取って頂きたかったのです」
「またお前は食事食事と……」
「同じように仰って、以前一度倒れられたのをお忘れですか?」
「そういえばそんなこともあったか」
「……あの時どれ程皆が心配したかもう少し気に掛けてください」
「む……すまん」
悲しそうに私を見つめる炎鳳。本気で心配してくれていたことを知り謝罪する。
「本当に不自由な体だ。年老いたりはせぬが、エネルギーは摂取せねばならん」
「大人の身体ならば、今までよりもっと必要になりますね」
「それだけが失敗だな」
「厭わずに食べて下さいますか?」
「お前の悲しむ顔は見たくない。今後そうする」
手を伸ばし頬に触れる。ふわりと笑う炎鳳は美しく、食事など本当に時間の無駄だと思ってしまう。
この時間があるなら、炎鳳に触れていたい。
「食事が終わったらまたベッドに行く。脱いで待っていろ」
「イオ……」
「何だ」
「……何でも、ありません」
一瞬何かを言いかける炎鳳だったが、私の言葉通り服を脱ぎ始める。私はその後ろ姿を眺めながら次はどう楽しむかそればかり考えていた。
四日目の朝。
三日の殆どをベッドで過ごした。濃密な時間を炎鳳と契り、既に身体は十分な程私で満たした。
もう調律に戻らねばならん。
「もっとお前と過ごしたい」
そうごちれば、炎鳳は私の髪をとかしながら小さく笑う。
「もう共に過ごしすぎて私に飽きたのではないですか?」
「飽きなどくるものか。まだ足らんくらいだ」
「そのうちきっと飽きてしまいます」
「どう言う意味だ」
「他の皆は私などよりずっと魅力的なので、あなたも目移りしてしまいます」
「ははっ面白いことを言う」
私が目移り?
有り得ん。
玄斗や黄獅、蒼劉はよく働いてくれるがそれ以上でも以下でもない。私がこんな思いに駆られるのは、炎鳳だけだ。
想像にも及ばぬほど微塵も興味が湧かん。
それよりも。
「お前は希麟と会っても口を訊くな。いいな」
「あの者とはもう何も起きません。貴方は気にせず自分のことだけをお考え下さい」
「お前が起きぬと思っても奴はどうだ?お前がまた奴に触れられると思うだけで我慢ならん」
「希麟は……大丈夫です」
炎鳳の口からあの男の名が出るだけでピクリとこめかみが震える。
「……イオ」
髪をとかす手を止めて、炎鳳は私の背中に頭を預けた。
「私は貴方が大切です。貴方を傷つけるようなことはしません」
「…………」
「一度話せば希麟も理解します。また直ぐにただの友人に戻ります」
「…………」
私は炎鳳にゆっくり向き直り、細い肩を強く抱き締める。
「友になる事も許さん」
「イオ……」
「一言でも会話を交わすことも許さん。あの男に二度と関わるな」
「……………はい」
コクリと、私の肩口で小さく頷いた。
**
「体調はいかがですか?よく休まれましたか?」
「もう少し長めに休めば良かったと後悔している」
そう呟けば玄斗は心配そうに顔を歪ませた。
「まだ疲労があるのなら気にせずお休みください…!」
「ん?ああ、疲労は無いのだがな」
「イオのお側にいながら炎鳳は何をやっていたのだ!」
玄斗はバンッと壁を叩き、怒りを露にする。
「休めたと言っているであろう。私は炎鳳ともっと過ごしたかった、と言っているだけだ」
「な…何故…」
「さあ、私は調律に入る。三日の遅れを取り戻さねば」
「………………」
話す気の失せてしまった私はモニターの前に座りデータを眺める。
玄斗は暫く、私の背を見つめていた。
「よーイオ」
それは、私の執務中に突然にやってきた。
「お前暫く見ねぇうちに随分変わったな。つーか別人じゃねぇか」
希麟だった。
私は焦げるような灼熱を腹の底で感じながらも、普段を装い冷めた顔をした。
「この無礼者!イオは今大事な執務の途中だぞ!」
「てめーはいっつもうるせぇんだよ腰巾着」
「なんだと!!」
希麟を追い出そうとする玄斗を制する。
「久しいな。他の者達は私を心配してやまなかったと言うのに。今までどこへ行っていた?」
「俺は自由が好きなんだ。気の向くままってやつ」
この楽園で、この男だけが把握出来ていない。フラフラとどこかへ消えてはまた戻ってくる。イレギュラーな存在に多少は興味があったが、今は違う。
炎鳳を私から奪い去る者は、楽園にはいらない。
「まだチビの頃のが良かったんじゃねぇか?可愛いげあって」
「炎鳳は気に入ってくれたが?」
「は?マジかよ。俺のが男前だろ。つか炎鳳どこ行った?また見つかんなくてよ」
「炎鳳に会ってどうする?」
「話があんだよ、話」
「では私が代わりに用件を聞いてやろう。何だ?」
椅子をゆっくり希麟に向ける。
希麟は横目で訝し気に私を見る。
「直接言う。はやく教えろガキ」
「もう直接は叶わぬ。だから私に申せ」
「……どういう意味だ」
希麟は何かを察したのか、うって変わった様子で私を凝視する。
「炎鳳は、もうお前のものではないという事だ。まあ元々お前のではなかったが」
何でもないようにそう告げれば、希麟の表情がみるみる変わっていく。
いつもの腹の立つにやけ顔が影を潜める。
「どう言う意味か……一応もう一度聞いてやる」
今にも殴りかかってきそうな雰囲気をまとわりつかせ、希麟は私を鋭く見下す。
ほうら、炎鳳。
お前は良くても、この男が駄目だった。
炎鳳と交わった時にわかっていた。
炎鳳を一度知ってしまえば、もう手放せないことを。
「お前が炎鳳に触れることはもう叶わん。身体も心も、アレは私のものだ」
瞬間胸ぐらを掴む手。
その手は青筋が浮かび、震えていた。
「……私にこんなことをして、貴様は自分の立場を良く理解していないようだ」
「俺の立場なんざどうだっていいんだよ……お前、俺のに手ェ出しやがったな…!」
「……俺の、だと……?」
胸ぐらを掴む手首を掴み、私は今まで我慢していた沸き上がるマグマを抑えきれなくなっていた。
どの口が言っている。
誰の前で言っている。
「私の目を盗んで奪ったのは誰だ…?」
腕を払いのけ立ち上がり、逆に胸ぐらを掴む。
堪えきれない私の怒り。
初めて感じる灼熱の炎。
この男を、
消してしまいたい。
「二度と、私の炎鳳と口を訊くことは許さん。さもなくば貴様を塵も残さず消してやる」
「やってみろ……!!」