連れてこられたのは、ホテルの一室。

普段しないような豪華な夜ごはんを食べる。

遊び足りないって、どういうことだろ

しかも、これって

端から見たら、だいぶ怪しい。

わたしと猪式さんで、ホテルにふたりきり
部屋で食事、なんて

怪しい!
雰囲気が!

「猪式さん、わたしちょっと困ってます」

「どうした?嫌いなもんでもあった?」

猪式さんは、わたしにおかまいなしに食事を進めていく。
しかも、ちゃんと食わないからそんな細いんだぞ!なんて食生活の心配をされてしまっている。

カチャカチャと音をたてるナイフとフォーク

猪式さんの手つきはだいぶ雑だ。

ころころ変わる表情は子どもみたい

なのに、

「無駄にいいからだをしている」

無駄のない筋肉

均整のとれたパーツ

高い身長

まるでギリシャの彫刻みたいだ。


「猪式さんは、ジムとか通ってるんですか?」

芸術家にあるまじき肉体美に、疑問を感じらざる得ないわ。

「いってない。でも、木材削ったり石持ち上げたりしてるから、筋肉はつくよ」

材料にもこだわって、あちこち見て回ってそうやって作ったものだから、猪式さんの作品のファンは多い。

この人も、強烈な存在感を持ってるうちのひとりだ。

「わたしも、なりたいな」

もっと確かな自分になりたい。
もっと強いなにかになりたい。

「潮はさ、仕方ないと思う。まだいろいろ足りねーんだよ。いろんなもの、経験とかな。」

「視野をひろく、ってことですか?」

「そんな難しくねーよ」

ようは、楽しいことやろーぜ、ってことだよ!

なんて楽観的
でも、わたしにはなんだかじーんときちゃう言葉だった。

撮影を、楽しいと思ってたのはいつだったかな?

昔のことみたいに感じた。


「そうですね」

さあ

楽しいことをはじめよう