スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

アスファルトを蹴りつけて



メイクなんて、いつも撮影のときにしかしてもらわないんだけど

今日は自分でがんばってみた。


けど

やっぱり何かちがーう


ボルドーのシャドウを入れたんですけど、写真だと茶色く見えますね






くれないが誘う方へ


ヒールを履いて、少し大人っぽい黒のワンピースを着る

長い髪は、志紀子がゆるく巻いてくれた。

今日は美術科のメンバーで遊びに行きました。







波間に沈む一船も、


暗闇に光るうろこ

うつらうつら、虚ろげに

ちか、ちか、剥がれ落ちて

そこに音はない。


彼の口の中には、また更に暗闇があった。

覗きこめば暗転

暗礁

ひらけた海の上で物思いに耽った。

ああ、愛しの













絵のモチーフは鱗

カンバスを埋めていく極彩色は、まだなにものでもない

けれど、もう少し

もう少しで、

この子に名前がつきそうだ。



「波間」

作品のタイトルはこれでいこうと思う。





剥がれた鱗


「全部、めちゃくちゃ」

猪式さんから遊びに連れ回されること1日。

とんでもない疲労感を残しただけじゃなく、ちゃんとタメになることもあったみたい。


わたしはこの間から、製作活動に移っています。


猪式さんの見せた世界は、ぎらぎらとしていて、くるくる世界の色を変える。

目が回る、酔っていく、気を失うその隙間で

なにかがわたしの中に落ちてきた。


それからは学校のアトリエに籠って、ずーっと絵を描いていました。


「表現の場で無くしたプライドは、表現の場でしか取り戻せない。」

そのとおり

今のわたしは、表現すること以外は全部向こうにいっちゃってる

低いリズムが上に上に突き上げていく

吐きそう、飲み込んで

滴る。


「そうでした。わたしって元々が、自信の塊だったんだよ」






ろくでなしと鞭

連れてこられたのは、ホテルの一室。

普段しないような豪華な夜ごはんを食べる。

遊び足りないって、どういうことだろ

しかも、これって

端から見たら、だいぶ怪しい。

わたしと猪式さんで、ホテルにふたりきり
部屋で食事、なんて

怪しい!
雰囲気が!

「猪式さん、わたしちょっと困ってます」

「どうした?嫌いなもんでもあった?」

猪式さんは、わたしにおかまいなしに食事を進めていく。
しかも、ちゃんと食わないからそんな細いんだぞ!なんて食生活の心配をされてしまっている。

カチャカチャと音をたてるナイフとフォーク

猪式さんの手つきはだいぶ雑だ。

ころころ変わる表情は子どもみたい

なのに、

「無駄にいいからだをしている」

無駄のない筋肉

均整のとれたパーツ

高い身長

まるでギリシャの彫刻みたいだ。


「猪式さんは、ジムとか通ってるんですか?」

芸術家にあるまじき肉体美に、疑問を感じらざる得ないわ。

「いってない。でも、木材削ったり石持ち上げたりしてるから、筋肉はつくよ」

材料にもこだわって、あちこち見て回ってそうやって作ったものだから、猪式さんの作品のファンは多い。

この人も、強烈な存在感を持ってるうちのひとりだ。

「わたしも、なりたいな」

もっと確かな自分になりたい。
もっと強いなにかになりたい。

「潮はさ、仕方ないと思う。まだいろいろ足りねーんだよ。いろんなもの、経験とかな。」

「視野をひろく、ってことですか?」

「そんな難しくねーよ」

ようは、楽しいことやろーぜ、ってことだよ!

なんて楽観的
でも、わたしにはなんだかじーんときちゃう言葉だった。

撮影を、楽しいと思ってたのはいつだったかな?

昔のことみたいに感じた。


「そうですね」

さあ

楽しいことをはじめよう








黙って両手を差し伸べて



わたしは、悪魔。

もしくは、最低な性悪女。



軽く舌を舐めて唇を離すと、くちゅりと生々しいリップ音

しばらく放心状態だったあの人も、目があった瞬間に顔を真っ赤にして怒りだした。

それから、ばん!強烈な平手打ち。


「どうして?赤葦さんとの間接キスですよ」

それともやっぱり、大人は間接キスなんかじゃ喜ばないのかな


「信じられない」

怒りに震えるって、きっとこんな感じ
叩かれた頬は、すごく痛くて痺れる。


それから、あの人はぎりぎりとわたしを睨み付けて出ていってしまった。





「大人をからかって楽しいか?」

猪式さんはそういって、わたしのほっぺたをぶにっと両手で潰した。

なんでいるの?って、ここは猪式さんの仕事場でしたね。

「楽しんでなんか」

ないよ

気持ちよくはあるけど。

それと、どうしようもない罪悪感も。

思えば焦ってたんだ

赤葦さんとあの女が、あまりにもぴったりと当てはまる気がして。

赤葦さんはこのまま、なにもないように普通の女と付き合えばいいんじゃないかって。

思って、落ち込んで

言っちゃったんだ。

わたし、赤葦さんとイヤらしいことしましたって。



「いじわるしちゃった」

この間から、わたしは気持ちが折れてしまっている。

鹿島先輩

憧れの人の撮影を間近で見て、わたしは圧倒されてしまったんだ。

強烈な存在感と、シャッターのたびに変わる瞳

侮っていた。

頭から離れない。


「ストライキってやつか」

「スランプってやつですよ」

これは浮上までに時間がかかりそう

赤葦さんに恋をしている、大人の女をいじめるくらいなんだもん。

そうとう、今のわたしは醜い。

あのきらきらした気持ちは何処に?




「潮、」

「なあに?」

「きっと、お前は遊び足りないんだ」

「はあ」

「俺と一緒に、遊びにいこーぜ!」

「はい?!」


そして、有無を言わさず誘拐されたのが一時間前。

猪式さんの言う遊び、は分からないままです。





前の記事へ 次の記事へ