*はじめに*
登場人物紹介などは、『オリジナル小説『純血の殺し屋-完結・後編-』紹介』と表記されている日記をクリックした次のページに書いてみました。
小説は、小説と言うより脚本のように誰が何を喋っているのかが分かるようになっています。
単に、作者自身が混乱しないようにというために。←
誤字や内容の綴りにおかしな点がありましたら、すみません。
最後に言うのも変ですが、興味があったら読んでみてください。
あ。
この作品は、ミステリーサスペンスです。
あと、キャラクターの設定が少年漫画風になっています。
あと『♪』……お許しください人( ̄ω ̄;)
次から、『純血の殺し屋』の完結・後編です⇒
story.27:『本心』
駆け足で、水嶋律は警察病院の建物へ入ってゆく。
------------"あの日"。
福崎善を逮捕した後、「逃げ出さない」と言う福崎のことを信用して、姫井たちに彼を任せて、水嶋は急いで警察病院へ向かったのだ。
病院の中に入ると、水嶋は駆け足を止めた。
そしてゆっくり"彼"がいる病室へ向かうと、あっという間に病室の前まで来た。
水嶋:「……………。」
行かなきゃ。と、思った。
でも何を話せばいいのか、分からなかった。
福崎が先ほど言っていたこと、出来るなら信じたくはない。だって、あの"石塚さんが"------------。
水嶋:「…っ」
水嶋は息を飲む。
福崎の話が本当なら、彼は重大な罪を犯したことになる。
そう。死んだ阿岐名葉月を冤罪に追いやったという罪を------------。
水嶋:(確かめねば…)
まだこの内容の話は、福崎の目線で聞いた話だ。
石塚から、もっと違う内容の話があるかもしれない。
水嶋はちょっとの期待を胸に、引き戸をノックしてからゆっくり開いた。
ガラガラ…
水嶋が覗き込むように見ると、病室の中にいた沢田透真と実姉の沢田法子がこちらに気付いた。
法子:「りっちゃん?
あら。今日は第10の槐だった子に会いに行くって言ってなかったかしら…」
水嶋:「それは、高柳たちに任せて来た。……石塚さんにいち早く報告したい事と、聞きたいことがあったから。」
石塚:「……っ…」
石塚はそっぽを向きながら、何か予感を察したのか、水嶋の位置にいても分かるくらい苦い顔を浮かべていた。
水嶋はそんな石塚の顔を見て、ハッとしながら病室に入る前にした、ちょっとの期待が消えそうになっていることに気付いた。
すると、急に透真が法子に話し掛ける。
透真:「法子。俺たちは一旦、廊下へ出よう。」
法子:「……えぇ。分かったわ」
水嶋:「すまない…」
水嶋がそう言うと、透真は肩に手を置きながら頷いた。
法子も同じように頷くと、2人は病室から出て行った。
最悪、すぐにでも2人の耳にも入る話なのにこうして静かに話す機会を与えてくれたのは。
普段は精神科病棟にいるはずの法子がここにいたということは、たぶん他の槐から聞いた話を報告しに来たのだろう。
自分の次に勘の良い石塚のことだ。もう既に気付いているはずだ、槐事件の黒幕の正体に------------。
水嶋は意を決して、石塚に単刀直入にこう報告をした。
水嶋:「……善が、先ほど逮捕された。」
石塚:「……………。」
水嶋:「実父である、福崎零一警視局長殺しと、愚か者殺戮事件、そして槐事件などに関与していた罪を自白して……」
石塚:「………………。」
水嶋:「なぁ、石塚さん。
アンタ、いつから気付いてたんだ。善が黒幕かもしれないってこと…」
水嶋がそう問い掛けるが、石塚は何も応えてくれない。
水嶋:「やっぱり、この間の…一件なのか?」
第10の槐こと、十条隆志と共に、彼の異母弟を助けた際、猫の仮面を被った福崎にナイフを投げられた石塚は怪我をした。
その時に水嶋自身が知らなかった事実が聞かされた。
『廃倉庫未成年少女誘拐殺人事件』の資料を作成した人物が、石塚だったこと。
内容はほとんど事実が書かれていなかったこと。
それを読んだ姫井や高柳たちに疑われていたということ。
水嶋:「なぁ、応えてくれよ…」
石塚:「…っ」
泣きそうな声になる。
この状況も辛いが、何より色んなことを隠されている事実が、とても苦しい。
水嶋:「何で阿岐名に冤罪を懸ける必要があったんだよ…!!」
思い出す。
先ほど思い出して泣いたばかりなのに、また阿岐名のことを思い出して泣いた自分がいた。
水嶋:「アイツは…!阿岐名は、俺や善たちの命の恩人なんだよ!
阿岐名が守ってくれなかったら、俺や善たちももうこの世にいなかったかもしれないのにっ…」
水嶋の話を聞いて、石塚はゆっくり水嶋の方を振り向いた。
水嶋:「阿岐名だけじゃない。
善だって、ずっと苦しんでたんだぞ?
……苦しくて、苦しくって!
槐事件を起こすことしか自分の罪を公にする方法が見付からなかったんだよ!
だって善の行く手には善の父親がいる!アンタもいる!」
水嶋は、泣きっ面で石塚の両腕を掴んで声を上げた。
水嶋:「警察官が悪いことしたら、ダメだろう…!!」
石塚:「水嶋……」
水嶋:「アンタ、俺が警察官になるって夢を語った時、『俺も警察官になることが夢だ』って言ったじゃないか!!」
水嶋は、石塚を見てこう続けて言った。
水嶋:「善を苦しめていいわけねぇだろう?
阿岐名を…っ……仲間を陥れていいわけねぇだろう!?」
石塚:「……………。」
水嶋はそこまで言うと、自分の服の袖で涙を拭った。
水嶋:「俺は、事実を聞かされた今でもアンタのことを信じたかったよ…っ」
石塚:「"律"……」
そう言って、石塚は水嶋の頬に自身の手のひらをそっと充てながら水嶋の涙を拭うと、ようやくこんなことを口にした。
石塚:「俺は、自分のした事を後悔はしてない。」
水嶋:「!」
石塚のその言葉に、水嶋は困惑した。
水嶋:「何で…?」
水嶋がそう問い掛けると、石塚は淡々とこう言ってきた。
石塚:「拳銃を紛失した時、俺はこれで良いと思っていた…。
俺が欲しかったのは、警察官としてのキャリアじゃなかったから。
……でも、俺の拳銃があの事件で使われて、阿岐名が死んだと沢田から聞かされた時。俺はこう思った……」
石塚は、こう口にした。
石塚:「上手くすれば邪魔者に罪を被せて、俺の理想の現実を作ることが出来るかもしれない…」
水嶋:「…っ…!?」
水嶋は思わず硬直してしまう。
石塚は怖いくらい微笑んだ表情で、水嶋を見つめたからだ。
水嶋:「……………。」
石塚:「俺はずっと阿岐名が邪魔だったんだ。
…仲間?アイツのことをそんなふうに思ったことなんか一度もないよ、律…」
石塚はそう言うと、もう片方の手のひらで水嶋の髪を撫でながら言った。
石塚:「俺はお前と一緒にいるために、福崎くんも巻き込んだ。
でも後悔なんてしてない。だって彼らの犠牲があったから俺は今までお前と一緒にいれたんだ。
律、お前の"良き理解者"として、ね?」
水嶋:「石塚さん……」
やっと出せた声で、水嶋は石塚に問い掛けた。
水嶋:「嘘だろう?アンタはそんな人間じゃないはずだ。本当はずっと後悔していたはずだ、だか------------」
石塚:「律、やっぱりお前は見た目と相反して優しい奴だな?」
水嶋の言葉を遮って、石塚は穏やかな笑みを浮かべながら言った。
石塚:「そうやって、俺の罪を軽くする方法を探ってくれているんだろう。」
水嶋:「違うっ!そうじゃないんだ、俺はただ------------!?」
水嶋はまた言葉を遮られた。
口を塞がれた。
石塚の口付けで------------。
唇が放れて言った後、石塚はいつもの優しい表情で言った。
石塚:「律。さよならだ……」
水嶋:「っ…」
水嶋は強く石塚に突き放された。
石塚:「幸せになって、ね。」
水嶋:「……------------」
それが石塚の本音なのか?
"幸せになれ"って、どういう意味を持って言っている?
水嶋:(やっぱり、槐事件は俺のせいで…)
こんな日が来るだなんて、俺は考えもしなかった。
阿岐名と山村若菜の死の後、福崎の逮捕、そして親友と思っていた人からの裏切り…。
槐事件が発生した最初の頃、水嶋は他人の本心をあまり知りたくないと思っていた。
でも槐事件を通して、たくさんの人の本音に触れてきた。
過去の記憶にも触れた…。
きっと他人の本心から背を向けようとした、自分への罰なんだ。
水嶋:「っ…」
こんな思いをしたくなくて逸らしていたのに、自分はまた失ってしまった。
でもこの時、自分はある事を思い出した。
槐たちがターゲットを打つ前によく口にしていた"あの言葉"。
水嶋:(失ったものは、戻らない…………"never more"。)
"never more"……"もう二度と"。
失ったものは、もう二度と戻らないと、この槐事件を通して自分は教えられてきたではないか。
どんなに泣きわめこうが、石塚の罪を犯す前には戻せない。
自分も、17年前には戻れないのだ……。
------------To be Continued...