『汚いよ、』

洗ってない。
そう仕向けたのは僕だけど、剥かれてしまうとやはり恥ずかしくもなった。

『いい、っていうか待てねえ、』

肩までシャツを剥かれた。
引っ張るように下も脱がされる。
彼が脱ぐ姿は、なんだかとても恥ずかしくて見ていられなかった。
顔を背けて、勝手に立ち上がる胸の存在を感じていた。
自分の体が恨めしい。
誘っておいて、恥ずかしくなるあたりが、いまいち踏み込めていない証拠なのかもしれない。

『お前よく濡れるし、』

ひどい。
やっぱりいやだ。
逃げ出したい。
ベッドの枕を掴み、彼の顔に投げつけた。

『いてえな、へへ、ほんとのことじゃん、』

信じられない。
そんなところまで見られていたなんて。
今度は軽く叩いてやろうと思ったら、両手首を掴まれた。
ベッドに押し付けられる。

薄闇のなか、ベッドの上。
縛られるように押さえつけられて、ハンパに脱がされたひどい姿。
胸も立って、そこもすでに濡れている気がしてしまう、反応しきった体。
反論できるような状態ではなかった。

裸になった彼の体を見上げる。

少し厚みが増した気がした。
水滴を弾くだろうなと思わせる、瑞々しい素肌が薄闇のなかで光る。
これから成熟していく楽しみを持った体だ。
そう思うだけで、うっとりとしてしまう。

『超ひさしぶり、』

笑うと見える、彼の白い歯。
彼の指が、僕の胸に降りてくる。
指先が着地しただけで、胸が弾かれるようだった。

『ひっ、』

そして立ったところを摘まれる。

『いっ、や、』

摘むところなんてほぼ無いその部分を摘まれる。
持ち上げられる。

『あっ、やめっ、』

痛い。
けれど、それが気持ちよくも感じてしまう。

『あ、あ、』

声が上擦る度に腰まで動いてしまう。
そうかと思うと腰が動かなくなった。
彼がその上まで下がり、唇が胸に降りてきたのだった。

『ひんっ、』

吸われる。
吸うところなんてないし、吸ってもなにも出てこないのに。
それでも凄く気持ちよくて。
舌先を固くしてごりごりと押してくる。
そして歯を立てられる。

『あ、あぁ、』

それだけで、果ててしまうのではないか。
それぐらい、僕の体は沸騰している。

『くぁっ、』

片方を吸われて、片方を指で摘まれる。
潰されて、そしてまた抓られる。

『もう、や、』
『濡れてる、』

胸の上から彼を降ろそうとした時だった。
彼が腰と腰を合わせて揺らしてきたのだった。
その時にねちねちとイヤな音が鳴ったんだ。
泣き出した僕が、彼に絡みつくように光っていた。

恥ずかしくて死んでしまいそうだ。

『誰かと、したのか?』

彼はふたつのそれを重ねるようにして手にした。
僕はもう、見ていられなかった。
自由になった腕で顔を隠す。
泣きそうになるところも、気持ちよくて開いてしまう口も、全部全部隠したかった。

『別な相手と、』
『ないよ、してない、』

するほど体力も気力もなかったよ。

『ほんとに?』
『僕達付き合ってたんでしょう、』

会えてなかったけれど。
会わなかったけれど。
一方通行だったけれど。

『ああ、』
『だから、しなかったよ、』

『だれとも?』
『うん、』

ねちねちとした音が、まだ続いていた。
胸からの刺激ほどは強くなくて、心地いいものになってきた。

『俺だって、』
『んあっ、』

油断した。
先の方を掴まれた。
指と指でぎゅっと力を入れられた。

『してねえよ、』
『くぅっ、』

先のほうが、もっとどろっとした気がした。

『お前濡れすぎ、』
『いわな、でぇっ、』

彼がふたつ一緒に掴んで前後に動かし出した。
一緒に擦られる。

『はああ、』

ますます腕を顔から退けられなくなった。
乗られた重みはもうわからない。
ただ、重ねられているそこが熱いだけ。
擦られたそこから気持ちよくなるだけ。
出てきてしまう声を必死に抑えるだけ。

『欲しかったのは、お前だけ、』

そんなこと、僕だって同じだ。
あれだけ仕事をしていたのだって、すべて彼とつり合いたいが為にだ。
誰かに抱かれたいと思う欲求なんて起きなかった。
寂しいなら寂しいだけ泣いたのだ。
泣かないと決めた日からは更に疲労が大きかったから寝てしまっていた。
仕事以外で誰かと話すことすら億劫だった。

自分のなかに、ユンホ君以外のひとがいた瞬間なんて、無かったんだ。

一瞬も。



『信じてたけどサ、』



そっか。

やっぱり僕は、愛されていたんだね。

ちゃんと、僕を想っていてくれたんだね。



なんだ、想像以上に、僕達は真剣だったんだ。



なあんだ、僕は、彼にちゃんと見てもらえてたんじゃない。



なあんだ。



隠していた顔を薄闇のなかに戻す。

見上げると、彼の顔があった。
腰と腰は相変わらずくっついている。

見下ろしてくる彼が言った。

『もっとちゃんと、事務所構えたら、』

ねちねちとした音は、続いている。

『じいちゃんにでかい顔してお前に会わせるから、』

握るふたつに、ぎゅっと力を込められる。
浮き立つ血管。
滲む粘膜。

『あっ、んっ、』

跳ねる雫。
響く粘着音。

『今度はふたりで、』
『はんっ、んんっ、』

高まる緊張感。

『ふたりの、仕事を認められるんだ、』

『あっ、い、アッ、』

放たれる白濁。
混ざる細胞。
汚れる四肢。

僕だけでも、たっぷりと白く汚れた。

『やっぱ生身は違うな、』

何か言ってるけれど、聞かなかったことにする。
肩で呼吸をしているうちに、彼は僕の足を割ってきた。
上に開くようにね。
そしてあてがう。
突き刺す。

『んふっ、』
『ちょっと我慢、してろ、』

『ああ、あ、』
『力入れんな、』

『でも、ぉお、』
『バカ、エロい、』

バカってなんだ。
バカって。
バカエロいってなんだ。

そんなどうでもいいことを考えていないと、押し入ってくるものに負けそうになる。
体を捻ってシーツにしがみつく。

『やべえ、マジきもちいい、』

腹筋が既につりそうだった。
背筋に無理をかけている気がする。

入ってきてもなお、お尻の方からねちねちとした音がした。
彼はすでに動いていた。

せっかちなのは、変わってないようだ。

お尻が裂けてしまいそうだ。

けれど、体のなかはとても緩い。
僕のなかは、どろどろしている。
そのどろどろが彼が入ってきているところから出ていってしまう。
彼はそれに塗れてぬるぬると上機嫌になる。
ああ、人体の神秘。

『超イイ、』
『やめ、言わ、』

苦しくて、そして頭のなかもどろどろで、上手く声になんてできない。

『チャンミンの体、マジエロい』
『うる、さっ、ああっ、』

違う。
僕の体をこんなにしてしまった人の方がいけないんだ。
僕は彼を好きになってしまっただけ。
彼が僕に目を付けなかったらこんな快楽は知らなかったんだ。
きっと今頃僕は可愛い彼女をエスコートして幸せだったんだ。

彼に出会わなければ。
彼と出会わなければ。

彼女をエスコートする幸せより素敵なものに出会えなんてしなかった。
こんなにも、誰かを好きになって苦しくて。そして嬉しいことなんて感じなかった。

『ひんんっ、ゆん、』

男の人に強引にリードされて気持ちされてしまう幸せを感じることなんてなかった。

『やらっ、あぁっ、やらぁっ、』
『はは、まじ、その声、やべぇから、』

意地悪な言葉も、指先も、視線も、それらが快楽になるだなんて思わなかった。

幸せなんだ。
こんなにぐちゃぐちゃになって、犬みたいになってるくせに、
幸せだって思っちゃうんだ。

そう、気がついたらひっくり返されて、犬みたいになっている。
痛みとか圧迫感もどこかにいってしまって、彼の先が到達する度にやってくる激震に耐えるだけ。

『チャンミン、イク?』

『イク、イッちゃ、』

『きもちいい?』

『きもちいぃ、ゆん、ほ、ああ、』

『へへ、』


犬と化した僕達。

それでもヒトとしてちゃんと幸せだとは感じるの。
多分泣いていた。
僕がね。

有り余る性的な彼の体力。
それに付き合うにはとても大変なものだった。
若さが違うもの。
でも、テクニックはちゃんと本能が搭載させていた。

死んでいる言葉を使うとしたら、僕は彼のそのテクニックにメロメロというものだ。

どろどろに溶かされて、メロメロに盲目している。

だから幸せなのだ。

会えなかった分の寂しさを埋めようとしても、埋めきれない。

けれどガッつけるだけガッついた。

それこそ、本当に犬みたいに。

僕の雄の部分から出てくる白いものに快感を乗せて。





僕達の種子は、全てがきっと無駄になっている。
ヒマワリのように次の夏のために生きて眠ることはできない。
放ったら破滅するだけ。
けれど、それでも放つことは止められない。
そういう悲しい性を持ってしまった。
彼と愛し合うということは、そういうこと。

けどね、

放つ回数を重ねていく度に、

破滅ではなく再生するような気もしたの。

蘇る。

心が。

生きていると、心が叫ぶ。

愛されるって、
求められるって、

脳で、心で、感じられる。

満たされる。

放って、抱かれて、満たされる。




『もっとして、』

『もっと、』

『もっとだいて、』



あなたに出会わなければ、
あなたと離れなければ、
あなたとまた結ばれなければ、

僕はこんなに求めることはしなかったはずだ。



ねえ、ユンホ君。

セックスって、気持ちいいね。


あなたに抱かれたいと願うことが、

していることは犬と同じことなのに、

どうしても崇高な願望に思えてくるんだよ。



またひっくり返された時に見えた、

僕のなかに放つあなたの顔がとても幸せそうで。

だからもっと幸せだと感じて欲しくって、

また、腰を振ってしまうんだ。



僕は今、世界一、幸せな犬である。

















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