前回の続きです。
2023-3-12 15:03
狂花の白刃 第六話
「確かに貴女は何も間違った事は言っていません。事情を予め話さなかった私にも責任はあります。しかし……余り隊士達を不安にさせるような言動は控えてくださいね」
『あ?今自分が悪ぃって認めただろ?じゃあ非はそっちにあるっつー事だな?ハイハイこの話は終わりだ修行だ修行!!』
「待ちなさいこの悪童が」
翌日朝礼前カンナギに呼び出されたオポムリアは別室で昨日あったことを聞かれ正直に答えた。
カンナギも他隊士から昼間食堂で壱番隊の事を話していた見かけない奴が居た、という話を聞き隊士達がザワついていたのを見てどういう事かを確認すると、その見かけない奴というのはオポムリアだと言うことが分かった。
カンナギも壱番隊、シラヌイの件に関してはよく知っていたためこの様な悪い噂が有る事も知っていた。
その為にオポムリアへ柔らかくその話題は今後避けるよう言ったのだが……オポムリア本人はこの態度である。
『ケッ、だったらちゃんとアイツは悪くねぇっつー証明して事実発表してやりゃいーじゃねぇかよ。どうせお前やカクエンは知ってんだろ?』
「……………………」
『おい、何か言えよ』
「……幾ら可愛い我が隊士達でも、この件に関して私が言える事は何一つ無いです」
『あ?隠し通すつもりか?』
「……いずれはきちんと言うつもりです……でも……今は、まだ言えません」
『はぁ?お前等が隠すからアイツの悪ぃ話が隊全体に広まってんだろ?』
「…………それが、シラヌイの望みです」
『?』
カンナギが最後に何を言ったかは聞き取れなかったが、その前にオポムリアは部屋から出されてしまった。
「今日貴女達の新兵班の一番目の修行は礼儀作法になります。修行場桐の間にて行いますので遅刻しないように。あぁこの後の朝礼に参加してから行くんですよ」
『チッ』
「舌打ちをしない」
あーはいはい、と不機嫌そうに立ち去るオポムリア。
カンナギはそれを眺めると、朝礼の準備に取り掛かった。
「シラヌイ…………ごめんなさい………」
───…。
「今日は礼儀作法について学びましょう。まずは正しい姿勢の方法から……」
時間になり新兵達の前にはカンナギが現れた。
こいつが指導するのかよ、と半分納得半分面倒臭さを感じながらカンナギの方を見たオポムリアは、思わず声を張り上げた。
「どうしましたオポムリアさん。大きな声を出して」
『いや、お前……!!誰だよ!?』
「カンナギですが。では深呼吸をしてまずは皆さんの楽だと思う姿勢を取って……」
『いやいやいやいや!何普通に始めようとしてんだ!?』
「あぁ、そういえば"こちらの姿"を見せるのは初めてでしたね」
そう言うとカンナギは自分の姿を全て見せるようにオポムリアの近くに行った。
男でも華奢な体格のカンナギであったが、今目の前にいるカンナギと名乗る人物はどう見ても"女性"であった。
初めて見るカンナギの丸みの帯びた体や少し高い声にオポムリアは理解が追いつかなかった。
「あぁ、私はどちらの性別にもなれるんです」
『はぁ……!?ンなもんどうやって……!』
「我々トランスフォーマーには乗り物や獣に変形できますし、トリプルチェンジャーというものも存在します。性別が変わるトランスフォーマーがいてもおかしくはないでしょう」
『あ?……あー……?』
「私はここの皆さんの"父であり母"という存在でありたいのです。時に父のように厳しく教育し、時に母のように暖かく包み込む……そう思っていたらいつの間にかこうなりました」
『ヘーソウカスゲーナー』
「えぇ、では始めますよ」
さも何事も無かったかのように進めるカンナギに、ツッコむことは諦めたオポムリアだった。
周りの隊士達も「今更何も言わない方が良い」といったオーラを出しており、それを感じ取ったオポムリアは考えるのを止めた。
───…。
『………………………』
「だ、大丈夫か?お前実技より十倍以上疲れた顔してんぞ」
礼儀作法の修行が終わり次の修行場へ場所を移す途中、仲間にそう言われオポムリアは死んだような顔をギギギと動かした。
『なっにが…………何が礼儀作法だよ!?姿勢や言葉遣いを正す必要の何処に重要性があるんだよ!?要は斬って勝ちゃ良い話だろーが!!あ゛!?俺の言葉遣いが悪ぃのは今更だろーが!!直す必要はねぇだろうがよ!!』
オポムリアが此処まで荒れるのには充分過ぎる理由があった。
ソレは先程の礼儀作法の修行中の事……。
コード008部隊では今迄好き放題の勝手し放題、指示が無くても本能で斬り掛かっていたオポムリアにとって、礼儀作法等は無縁のものであった。
ただでさえ残虐な戦闘のメモリーしか見てきて無かったオポムリアにとって初めて触れるそれは、剣術を覚えるより苦を感じていた。
同僚や後輩には勿論、隊長、師匠、司令官にまでタメ口を話すオポムリア。
それを気にしていたブレイクステップに「徹底的に礼儀作法を仕込んでくれ」と頼まれた、と話すカンナギに対しオポムリアは鬼のような形相をしていたそうな。
カンナギによる厳しい指導の元一時間……。
流石に初日からは無理だろうと早々に解放されたものの、今迄のどの修行より疲れ切っている姿を晒していた。
『あのクソワニ殺す……!』
「ま、まぁまぁ!社会には必要な事だと思っての修行だから……!」
「それに、今みたいな座学だけじゃなくて礼儀礼節を学ぶ為に空手、柔道、合気道とか偶に華道、茶道の時間とかもあるし琴や三味線に触れる時もあったわよ。後半は息抜きみたいなものだと思うけど」
『んなもんやってる暇あったら素振りでもやってた方がマシだ』
オポムリアは今日この日ほど『やべぇ所に来た』と思った事は無かったそうな。
───…。
オポムリアが暁部隊の修行に参加すること数週間……。
この日の朝礼にて、カンナギからとある発表がされた。
「新兵の皆様おはようございます。今日は皆様に重大発表があります」
重大発表……?とザワつく新兵達を静かにさせると、カンナギはとある紙を持ってきた。
「皆様の修行の成果は日々現れていると思います。ですので、更なる修行を積んでいただく為来週から"五大強化修練"を開始しようかと思います」
カンナギのその言葉にオポムリアが『何だそれ』と言う前に新兵達が短い悲鳴のような声を上げた。
「既に先輩方から聞いたという方もいらっしゃるでしょう。この五大強化修練では皆様の更なる心身の成長のため我が隊腕利きの隊長クラスが考えた修行に取り組んでいただくと言うものです。新兵を幾つかの班に分け日毎に各部隊に行き、修行をします。修行には必ず達成目標がありますが……こちらは達成の有無については問いません。この期間中は木刀ではなく真剣を扱いますので、扱いは充分気をつけるように」
その他細かな事を説明した後、カンナギは去っていった。
よく分からない、と率直な感想を零すオポムリアだったが、周りの隊士達が数名青い顔をしているのを見て不審に思い声をかけた。
『んだよそんな真っ青な顔して、そんなに嫌なのかよ?』
「嫌っていうか……!!怖いんだよ!」
『あ?』
「俺達先輩方に聞いた事あるんだよ……!新兵の修行でこれだけは気をつけろって…!」
「新兵の修行が一定の期間過ぎた頃、突然やってくる最恐の修行……!それが五大強化修練だ……!」
『場所が隊長達の所になっただけだろ』
「ちっっげーーよ!!それだけだったら誰も苦労しねぇわ!!…………この修行で一番恐ろしいのは、"隊長達が考えた修行内容"ってとこだよ……!」
『……………………』
ふと初日に会った色濃いメンバーを思い出しオポムリアは妙に納得してしまった。
「あの異質な強さと特殊な人達の考えた修行……!先輩方も二度とやりたくないって嘆いた恐怖の修行……!」
「毎年これで何人もの新兵が怪我してるって聞いたわよ……!」
「しかも更に恐ろしいのはこの修行は一度始まったら不定期に何回かあるってところだ……!真剣握れるのは楽しみだけど……今から何が起こるか不安だ……」
『ふーん』
不安そうにする新兵が大半だったが、オポムリアは逆にいきいきとした目を輝かせいた。
『良い機会じゃねーか。俺はこの部隊の強い奴等と手合わせできるんだから楽しみでならねぇよ!よし!今から作戦とか考えとかねぇとな!』
そう意気込むオポムリアの戦闘狂具合に周りの隊士達はかなりドン引きしていた。
そしていつもより多めの医療物品をドタバタと運び出すハナムスビ達を見て、この後待っている地獄を想像し隊士達は青白い顔を更に青ざめさせていた。
───…。
「いや〜、とうとう今期の新隊士達も強化修練を受ける時が来たねぇ」
月日は早いねぇ、と呑気に言うカクエンは笑いながら酒を飲んでいた。
その周りにはシラヌイを除く隊長達が円を描くように座り、中央には強化修練の内容を書いた紙が置かれていた。
「と、言う訳で今回も隊長クラスのキミたちには頑張って新兵を扱き倒して貰おうかなって」
「不殺《ころさず》の隊律の元、遠慮無く厳しくしていただいて構いません。例年通り負傷者は多数出るでしょうが……これも修行の内、戦場は更に過酷であるという事実を感じて貰わなければ」
「だがよぉカンナギ、今回はあのじゃじゃ馬娘も居るんだろ?」
ナルカミの言葉にその場にいた全員はオポムリアの事を思い出していた。
「そうだねぇ、今期の新兵達と混ざってるからオポムリアちゃんも参加することになるよ」
「だとしたらよぉ……例年通りの修行はアイツにとって"生温い"んじゃねぇかと思うんだが」
生温い、その言葉に同調する者がいた。
「そうねぇ、なんたってあの中で一人だけ実戦も経験もある子だもの。まだ真剣を握る機会が指で数えるぐらいしかない新人ちゃんが辛いと思う修行はオポムリアちゃんにとってはちょっと辛いぐらいにしか思えないのよ」
「たしかにそうですね、一人だけ楽々ともくひょー達成されるのもこちらもやりがいがないというかなんと言うか……」
クロユリとムラギリがそう言った後、何処からともなくカクエンの前に"二人に同意だ"と書かれた紙が置かれた。
どうやらこの場に姿が見えないウツセミのものらしい。
「そーだよねぇ……そう言うと思ったから今回はちょっと内容をグレードアップしようと思って」
「……ぐれーどあっぷ……?」
片眉を上げ、何だそれはと言いたげなツクヨミはカクエンとカンナギを見る。
「そのまんまの意味。毎回君達に考えてもらってる修行内容は新兵達用にちょっとだけ甘くしてもらってるでしょ?それを……なんかこういい感じに難易度上げてもらおうかなって」
「相変わらずふわっとした言い方だなオイ……」
「…………要は…………皆が強くなれるような修行を行えば良い…………のだろう……」
「そうそう!さっすがツクヨミくんだねぇ」
「今ので理解したのかよ……はぁ……地味に難しい依頼だな……」
「あら♪総隊長からお許しが出たってことは……遠慮無く新人ちゃん達を甚振れるって事ね、ンフフ……愉しみ……」
「クロユリ、限度を考えてくださいね」
「ウツセミくんも"承知した"だってさ」
「ん?ん〜??私よく分からないのですが……」
「ムラギリはやりたいようにやりなさい」
「え?いいんですか?わ〜!今から何してあそぶか楽しみです〜♪」
「ムラギリ、これは新兵達の修行なので遊ばないでくださいね」
「あっ……はーい、ごめんなさいなのです……」
「よし、じゃあ日時の変更なく今期の五大強化修練も始めようとするかね。さぁーて……あの子はこの修行で生き残れるかなぁ」
物騒なことを呟きつつ、カクエンはグビグビと酒を飲んだのだった。
『あ?今自分が悪ぃって認めただろ?じゃあ非はそっちにあるっつー事だな?ハイハイこの話は終わりだ修行だ修行!!』
「待ちなさいこの悪童が」
翌日朝礼前カンナギに呼び出されたオポムリアは別室で昨日あったことを聞かれ正直に答えた。
カンナギも他隊士から昼間食堂で壱番隊の事を話していた見かけない奴が居た、という話を聞き隊士達がザワついていたのを見てどういう事かを確認すると、その見かけない奴というのはオポムリアだと言うことが分かった。
カンナギも壱番隊、シラヌイの件に関してはよく知っていたためこの様な悪い噂が有る事も知っていた。
その為にオポムリアへ柔らかくその話題は今後避けるよう言ったのだが……オポムリア本人はこの態度である。
『ケッ、だったらちゃんとアイツは悪くねぇっつー証明して事実発表してやりゃいーじゃねぇかよ。どうせお前やカクエンは知ってんだろ?』
「……………………」
『おい、何か言えよ』
「……幾ら可愛い我が隊士達でも、この件に関して私が言える事は何一つ無いです」
『あ?隠し通すつもりか?』
「……いずれはきちんと言うつもりです……でも……今は、まだ言えません」
『はぁ?お前等が隠すからアイツの悪ぃ話が隊全体に広まってんだろ?』
「…………それが、シラヌイの望みです」
『?』
カンナギが最後に何を言ったかは聞き取れなかったが、その前にオポムリアは部屋から出されてしまった。
「今日貴女達の新兵班の一番目の修行は礼儀作法になります。修行場桐の間にて行いますので遅刻しないように。あぁこの後の朝礼に参加してから行くんですよ」
『チッ』
「舌打ちをしない」
あーはいはい、と不機嫌そうに立ち去るオポムリア。
カンナギはそれを眺めると、朝礼の準備に取り掛かった。
「シラヌイ…………ごめんなさい………」
───…。
「今日は礼儀作法について学びましょう。まずは正しい姿勢の方法から……」
時間になり新兵達の前にはカンナギが現れた。
こいつが指導するのかよ、と半分納得半分面倒臭さを感じながらカンナギの方を見たオポムリアは、思わず声を張り上げた。
「どうしましたオポムリアさん。大きな声を出して」
『いや、お前……!!誰だよ!?』
「カンナギですが。では深呼吸をしてまずは皆さんの楽だと思う姿勢を取って……」
『いやいやいやいや!何普通に始めようとしてんだ!?』
「あぁ、そういえば"こちらの姿"を見せるのは初めてでしたね」
そう言うとカンナギは自分の姿を全て見せるようにオポムリアの近くに行った。
男でも華奢な体格のカンナギであったが、今目の前にいるカンナギと名乗る人物はどう見ても"女性"であった。
初めて見るカンナギの丸みの帯びた体や少し高い声にオポムリアは理解が追いつかなかった。
「あぁ、私はどちらの性別にもなれるんです」
『はぁ……!?ンなもんどうやって……!』
「我々トランスフォーマーには乗り物や獣に変形できますし、トリプルチェンジャーというものも存在します。性別が変わるトランスフォーマーがいてもおかしくはないでしょう」
『あ?……あー……?』
「私はここの皆さんの"父であり母"という存在でありたいのです。時に父のように厳しく教育し、時に母のように暖かく包み込む……そう思っていたらいつの間にかこうなりました」
『ヘーソウカスゲーナー』
「えぇ、では始めますよ」
さも何事も無かったかのように進めるカンナギに、ツッコむことは諦めたオポムリアだった。
周りの隊士達も「今更何も言わない方が良い」といったオーラを出しており、それを感じ取ったオポムリアは考えるのを止めた。
───…。
『………………………』
「だ、大丈夫か?お前実技より十倍以上疲れた顔してんぞ」
礼儀作法の修行が終わり次の修行場へ場所を移す途中、仲間にそう言われオポムリアは死んだような顔をギギギと動かした。
『なっにが…………何が礼儀作法だよ!?姿勢や言葉遣いを正す必要の何処に重要性があるんだよ!?要は斬って勝ちゃ良い話だろーが!!あ゛!?俺の言葉遣いが悪ぃのは今更だろーが!!直す必要はねぇだろうがよ!!』
オポムリアが此処まで荒れるのには充分過ぎる理由があった。
ソレは先程の礼儀作法の修行中の事……。
コード008部隊では今迄好き放題の勝手し放題、指示が無くても本能で斬り掛かっていたオポムリアにとって、礼儀作法等は無縁のものであった。
ただでさえ残虐な戦闘のメモリーしか見てきて無かったオポムリアにとって初めて触れるそれは、剣術を覚えるより苦を感じていた。
同僚や後輩には勿論、隊長、師匠、司令官にまでタメ口を話すオポムリア。
それを気にしていたブレイクステップに「徹底的に礼儀作法を仕込んでくれ」と頼まれた、と話すカンナギに対しオポムリアは鬼のような形相をしていたそうな。
カンナギによる厳しい指導の元一時間……。
流石に初日からは無理だろうと早々に解放されたものの、今迄のどの修行より疲れ切っている姿を晒していた。
『あのクソワニ殺す……!』
「ま、まぁまぁ!社会には必要な事だと思っての修行だから……!」
「それに、今みたいな座学だけじゃなくて礼儀礼節を学ぶ為に空手、柔道、合気道とか偶に華道、茶道の時間とかもあるし琴や三味線に触れる時もあったわよ。後半は息抜きみたいなものだと思うけど」
『んなもんやってる暇あったら素振りでもやってた方がマシだ』
オポムリアは今日この日ほど『やべぇ所に来た』と思った事は無かったそうな。
───…。
オポムリアが暁部隊の修行に参加すること数週間……。
この日の朝礼にて、カンナギからとある発表がされた。
「新兵の皆様おはようございます。今日は皆様に重大発表があります」
重大発表……?とザワつく新兵達を静かにさせると、カンナギはとある紙を持ってきた。
「皆様の修行の成果は日々現れていると思います。ですので、更なる修行を積んでいただく為来週から"五大強化修練"を開始しようかと思います」
カンナギのその言葉にオポムリアが『何だそれ』と言う前に新兵達が短い悲鳴のような声を上げた。
「既に先輩方から聞いたという方もいらっしゃるでしょう。この五大強化修練では皆様の更なる心身の成長のため我が隊腕利きの隊長クラスが考えた修行に取り組んでいただくと言うものです。新兵を幾つかの班に分け日毎に各部隊に行き、修行をします。修行には必ず達成目標がありますが……こちらは達成の有無については問いません。この期間中は木刀ではなく真剣を扱いますので、扱いは充分気をつけるように」
その他細かな事を説明した後、カンナギは去っていった。
よく分からない、と率直な感想を零すオポムリアだったが、周りの隊士達が数名青い顔をしているのを見て不審に思い声をかけた。
『んだよそんな真っ青な顔して、そんなに嫌なのかよ?』
「嫌っていうか……!!怖いんだよ!」
『あ?』
「俺達先輩方に聞いた事あるんだよ……!新兵の修行でこれだけは気をつけろって…!」
「新兵の修行が一定の期間過ぎた頃、突然やってくる最恐の修行……!それが五大強化修練だ……!」
『場所が隊長達の所になっただけだろ』
「ちっっげーーよ!!それだけだったら誰も苦労しねぇわ!!…………この修行で一番恐ろしいのは、"隊長達が考えた修行内容"ってとこだよ……!」
『……………………』
ふと初日に会った色濃いメンバーを思い出しオポムリアは妙に納得してしまった。
「あの異質な強さと特殊な人達の考えた修行……!先輩方も二度とやりたくないって嘆いた恐怖の修行……!」
「毎年これで何人もの新兵が怪我してるって聞いたわよ……!」
「しかも更に恐ろしいのはこの修行は一度始まったら不定期に何回かあるってところだ……!真剣握れるのは楽しみだけど……今から何が起こるか不安だ……」
『ふーん』
不安そうにする新兵が大半だったが、オポムリアは逆にいきいきとした目を輝かせいた。
『良い機会じゃねーか。俺はこの部隊の強い奴等と手合わせできるんだから楽しみでならねぇよ!よし!今から作戦とか考えとかねぇとな!』
そう意気込むオポムリアの戦闘狂具合に周りの隊士達はかなりドン引きしていた。
そしていつもより多めの医療物品をドタバタと運び出すハナムスビ達を見て、この後待っている地獄を想像し隊士達は青白い顔を更に青ざめさせていた。
───…。
「いや〜、とうとう今期の新隊士達も強化修練を受ける時が来たねぇ」
月日は早いねぇ、と呑気に言うカクエンは笑いながら酒を飲んでいた。
その周りにはシラヌイを除く隊長達が円を描くように座り、中央には強化修練の内容を書いた紙が置かれていた。
「と、言う訳で今回も隊長クラスのキミたちには頑張って新兵を扱き倒して貰おうかなって」
「不殺《ころさず》の隊律の元、遠慮無く厳しくしていただいて構いません。例年通り負傷者は多数出るでしょうが……これも修行の内、戦場は更に過酷であるという事実を感じて貰わなければ」
「だがよぉカンナギ、今回はあのじゃじゃ馬娘も居るんだろ?」
ナルカミの言葉にその場にいた全員はオポムリアの事を思い出していた。
「そうだねぇ、今期の新兵達と混ざってるからオポムリアちゃんも参加することになるよ」
「だとしたらよぉ……例年通りの修行はアイツにとって"生温い"んじゃねぇかと思うんだが」
生温い、その言葉に同調する者がいた。
「そうねぇ、なんたってあの中で一人だけ実戦も経験もある子だもの。まだ真剣を握る機会が指で数えるぐらいしかない新人ちゃんが辛いと思う修行はオポムリアちゃんにとってはちょっと辛いぐらいにしか思えないのよ」
「たしかにそうですね、一人だけ楽々ともくひょー達成されるのもこちらもやりがいがないというかなんと言うか……」
クロユリとムラギリがそう言った後、何処からともなくカクエンの前に"二人に同意だ"と書かれた紙が置かれた。
どうやらこの場に姿が見えないウツセミのものらしい。
「そーだよねぇ……そう言うと思ったから今回はちょっと内容をグレードアップしようと思って」
「……ぐれーどあっぷ……?」
片眉を上げ、何だそれはと言いたげなツクヨミはカクエンとカンナギを見る。
「そのまんまの意味。毎回君達に考えてもらってる修行内容は新兵達用にちょっとだけ甘くしてもらってるでしょ?それを……なんかこういい感じに難易度上げてもらおうかなって」
「相変わらずふわっとした言い方だなオイ……」
「…………要は…………皆が強くなれるような修行を行えば良い…………のだろう……」
「そうそう!さっすがツクヨミくんだねぇ」
「今ので理解したのかよ……はぁ……地味に難しい依頼だな……」
「あら♪総隊長からお許しが出たってことは……遠慮無く新人ちゃん達を甚振れるって事ね、ンフフ……愉しみ……」
「クロユリ、限度を考えてくださいね」
「ウツセミくんも"承知した"だってさ」
「ん?ん〜??私よく分からないのですが……」
「ムラギリはやりたいようにやりなさい」
「え?いいんですか?わ〜!今から何してあそぶか楽しみです〜♪」
「ムラギリ、これは新兵達の修行なので遊ばないでくださいね」
「あっ……はーい、ごめんなさいなのです……」
「よし、じゃあ日時の変更なく今期の五大強化修練も始めようとするかね。さぁーて……あの子はこの修行で生き残れるかなぁ」
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