男性は成人したらいったん下の毛剃り落とそう
一度でいいし
成人式が終わった後に剃毛式みたいなんつくろう
百歩譲って選ばれし受けだけ剃るのでもいいから
選ばれた受けは必ず下の毛を剃り落とさなければならない
剃るのは自分ではなくて他人でなければならない
誰に剃ってもらうかは受けが決めていいよ
誰も選べなかった子は見知らぬ役員の男性に剃られるようにしよう
この法案を通すには国を根本からかえる必要があるとは思う
私は戦わなければならない
この法案が通れば様々なドラマがうまれるはず
例えば受け君が初剃毛式のときにその当時付き合ってた彼氏の攻めに剃毛をお願いするとしてその後色々あって攻めと別れるとするやん
ほんで受けに新しい攻め男があらわれて
新攻はガンガン受け君にアプローチしてくる
そんな新攻にドキドキしつつも素直になれない受け
「受けさん!開けてください!」
部屋のドアを乱暴に叩く音が響く
俺は冷たい鉄のドアにソッと手を添え
「帰れよ…」なるべく冷たく聞こえるような声色で囁いた
「!やっぱりいるんじゃないですか!どうしたんですか!?バイトにも大学にもずっとこないし、連絡も返してこないし…俺心配で…!ドアをあけてください!」
新攻の声が響く
こんな夜中に、マンションで…ご近所迷惑だろうが…通報されんぞ…だいたいお前そんな、大声はりあげるような奴じゃないだろ…
「ご近所迷惑だろ、帰れよ…」
玄関に敷き詰められたコンクリートを見つめながら呟く
「ご近所なんか関係ないです!あなたは、受けさんは迷惑なんですか!?」
「え…?」
「受けさんは、いま俺がここにいて、迷惑なんですか!」
迷惑…なわけがない
それどころか、いつも誰にでも優しくて穏やかな新攻がこんなに声を荒げて、俺の名を呼んでくれる、その事実が、俺は
「受けさん…ドアをあけて…」
「……っ」
新攻のこんなに情けない声をきいたことなんてなくて、胸が痛んだ
心臓が痛い、新攻はいま、俺のせいでこんなに必死なのか、すぐにでも新攻を抱き締めたいと思った、こんな冷たい、鉄のドアになんて触れていたくない、でも駄目なんだ、だって俺は
「俺は…汚いんだ…」
「汚い…?」
新攻のキョトンとした声
たぶんいま新攻は、目の前にだされたオヤツを突然イリュージョンで消されたときの犬の様な表情をしているだろう
「剃毛式って、知ってるだろ…?」
俺は声を精一杯絞りだした
「え…?剃毛式って、あれですよね?」
「そうだ、成人式が終わった後に、政府公認の美男子が何人か選ばれて、選ばれた奴は下の毛を剃らなきゃいけなくなる」
「あ、ありますね、」
「俺は…」
握り締めたこぶしが震える
鉄のドアに体温をすべて吸いとられたみたいに、体が寒くて震えた
「俺は二年前、それに選ばれた」
「………っ!!!」
新攻が息をのむのが、ドア越しに伝わった
「俺は当時付き合ってた奴に、剃毛頼んだんだ、ごめんな、新攻、お前がはじめての相手じゃないんだ、俺はお前の前にも、男と付き合ってて…そいつは俺の初剃り毛の相手なんだよ…」
「………」
ドア越しの新攻はなにも言わない、ああ、軽蔑されてしまった、もう新攻が、あの優しい笑顔を俺にむけてくれることは一生ないんだろう
「俺はお前がはじめての相手じゃないんだよ…!お前は、俺がはじめての相手で、お前は俺のこと、綺麗だって、言ってくれるけど、俺はあの日、下の毛だけではなく…ケツの毛もろともぜんぶ…!全部剃られたんだよ…ケツの毛もろとも…前の男にさ…」
頬が冷たい、泣いてるのか、俺は
焼けくそになって言葉がとまらない
「元攻に浮気されて、自暴自棄になって酒のんで、フラフラして公園で寝てたら、お前があらわれて…勝手に家連れこんで…綺麗だ、綺麗だって…
綺麗なのは…綺麗なのは…お前のそんな心なんだよ!!!俺は汚い…お前と一緒にいる資格なんてないんだ!!!」
鉄筋コンクリート造りのマンションに、俺の声が響く
沈黙で耳が痛い、耳も、心も
「受けさん」
心臓が跳ね上がる
なんだよ、なんでそんな、優しい声で
「受けさん、好きですよ」
「え…」
自分の耳を疑った
幻聴?高低差あり過ぎて、耳がキーンとする
「お前、俺の話し、きいてたの…?」
「きいてましたよ」
「じゃあ、なんで…」
「受けさん、ドア、あけてください」
甘い声で囁かれ、ゾクリと背筋が震えた
ドアを挟んでいるのに、耳元に新攻の吐息を感じた
俺は混乱して、駄目だ、なんのために新攻を避けてたんだ、ドアノブに震える手をのばし、静かにカギをあける、
馬鹿、俺はあんなに綺麗な新攻と、一緒になる価値なんて
「受けさん、お願い、あけて」
ドアノブを思いっきり捻ってドアをあけた
「痛っ!!」
ゴンッと鈍い音がした
俺は驚いて新攻の名を叫ぶ
「し、新攻!大丈夫か?」
頭を抑えて痛そうにうずくまる新攻に思わず手をのばすと、新攻は俺の手首を強く掴んだ
「あ…っ!」
「痛かった…でも、捕まえました」
新攻は、いつものように優しく微笑んだ
「…っ逃げないから、手、はなせ…」
もう今後絶対むけてもらえないだろうと思っていた笑顔に動揺が隠せない
「とりあえず部屋にはいってからですね」
新攻はそうピシャリと言い放ち
突然立ち上がると、強い力で俺を玄関まで引きずりこんだ
鉄のドアが完全に閉まるまえに
新攻は俺を強く抱き締めてきた
「捕獲しました」
「なんだよ、それ…」
俺は、せめてもの抵抗で小さい声で言い返してみた
遠くで、サイレンが聴こえる
近所の犬が数匹、それにこたえるようにほえている
「受けさん、このままきいてください」
「……」
「俺、受けさんの話しぜんぶちゃんときいてました、剃毛の話し、肛門周辺の毛までって、まぁ、ショック受けなかったっていえば、ウソになりますけど」
心臓がチクリと痛んだ
俺が少し体を動かすと、それを阻止するかのように新攻が、さらに強く抱き締めてくる
「でもいいんです、俺は、受けさんが好きなんです、誰に※毛剃(けぞ)られようが、いまのあなたが、あなたが好きですよ。」
※剃毛のこと
頬が熱くなってきた、さっきまで、あんなに、冷たかったのに
「だって受けさん綺麗なんですもん、処女とか、童貞とか関係ないですよ、人として、人間として、受けさんは綺麗です」
「………」
「俺は、厳しい家庭で育ったから、受けさんみたいに、大きな声でイビキをかいてお腹だして寝たり、コンビニでお弁当買ったときにお箸がついてなくても怒鳴ったりとか、しません」
「ば、馬鹿にしてんのか!」
俺の抗議を無視して、新攻は続ける
「公園で吐瀉物撒き散らかして、ベンチでゴロゴロ転がったり、元攻さんの名前叫びながら号泣したり、しません」
「……!お前、元攻のこと」
「受けさん、酔っぱらってて、覚えてないんですね」
驚いて顔をあげると、新攻は穏やかな顔で俺をみた
「受けさん、俺が家に受けさんを持ち帰ったあの日、泣きながら全部話してくれましたよ」
優しい瞳が俺を射抜いた
「そんな受けさんをみて、綺麗だな、って、生きてるな、って思って、俺、恋に落ちました」
心臓まで、射抜かれた気がした
「嘘だ」
「ほんとうです」
「じゃあ、お前ぜんぶ知ってたのか…?」
「はい、だから、『あれ、この話し前もきいたぞ』と思ってました」
新攻が俺を強く抱き締めた
新攻の心臓の鼓動が、俺の耳に響く
「俺の心臓、嘘、ついてます?」
体が熱い
さっきまであんなに寒かったのに
新攻の心臓が俺にまで伝わってくる
心臓がひとつになったみたいだ
「これは…嘘のビートを打ってないようだな…」
俺がそう呟くと
「当然です、真実しか刻みません」
そう新攻は言い、大きな両手で俺の顔を包み、持ち上げ、そのまま唇にキスをした
「愛してますよ」
一瞬で冷たい氷さえも溶かしてしまうような、あたたかな笑顔
「……っ」
目頭がじわりと溶ける
「泣かないで」
「泣いてない、これはションベンが目からでたんだ、ずっと我慢してたから」
「あ!いいこと考えました、いまから一緒にお風呂にはいりましょう」
「あ?」
突然の提案に俺の目頭の小便が一瞬で引っ込んだ
「なにゆえだよ?」
「剃り毛します」
「ブッ!!!」
俺がいま仮にお茶をのんでいたのなら床がびちょびちょになるところだった
「だからなにゆえだよ!」
「受けさんが気にしてるみたいだからですよ」
新攻は俺を抱き締める腕をゆっくりほどいて、もう一度、軽く唇にキスしてきた
「っ!なんだよ」
俺が動揺してる間に新攻は風呂場までスタスタと歩いていき「あ!あったあった!」と嬉しそうな声をあげた
「な、なんだよ…」
さっきから同じことしか言ってないな俺はと思いつつ、新攻を追いかけて、風呂場にむかう
「T字カミソリ!これでいきましょう!」
T字カミソリもってニコニコと笑う新攻に気絶しそうになる
「な、なんで剃ろうとしてる…」
白目をむきながら俺がたずねると
新攻はいつもの優しい笑顔で
「受けさん、大事なのは最初じゃなくて、最後です、終わりよければ全てよし、俺が受けさんの最後の剃り毛男になりますよ!」
そうニッコリ微笑んだ
「剃り毛男ってなんだよーーー!!!」
俺の絶叫がマンション中に響く
その瞬間、部屋のドアがけたたましい音をたて開け放たれた、それと同時に、メタルフレームの眼鏡をかけた細身で神経質そうな男が、鈍く光る銃口を俺たちに突き付けた
「警察です!手をあげなさい!先ほど、住民から『男性同士が激しく言い争う声がきこえた』と通報がありました!ソリゲオトコテナンダヨとは、なんのことだ!」
「通報されとるーーー!!!」
俺の渾身の絶叫が再度マンション中に響き渡る
「サクッと謝って剃毛りましょう、可愛がってあげますよ、受けさん」
「ば、ばか…っ!新攻…」
「背の高い方の男!右手の刃物を床におきなさい!なにをするつもりですか!動くな!」
細身の警官は眉を寄せ拳銃を突き付けながら、強い口調で新攻に命令をする
「ほら、誤解を招いてるから、はよ言うとおりに…」
俺が両手をあげながら新攻を振り返ると
新攻は優しい笑顔を崩すことなく、俺に近づいて、後ろから俺を抱き締めた
首筋にヒヤリとした感覚
「お前こそ動くな」
首筋の刃物より冷たい声が、新攻から発せられた
「「な…っ!!」」
俺と警官の気持ちがひとつになる
なにしてんだよ、新攻、お前
なにも言えない俺を尻目に新攻は
「俺たちはいまから神聖な毛剃をおこなうんだ、これから俺は、この人と儀式をやり直す、この人の気持ちを、少しでも軽くしてあげたいからだ」
「新攻…」
こんな状況でも俺の胸はときめいた
「は…?馬鹿ですか、一度剃ってしまった毛は物理的にはもとにもどりますよ、でも…心理的には毛は…かえってきたりなどしない!!」
警官が悲痛な叫びをあげる
神経質そうな眉毛が、拳銃を握る手が、震えている
(警官…お前も、まさかー?)
もしかしたら、目の前にたっているこの男も、俺と同じ痛みを、かかえているのかもしれないー
その考えは、突如断ち切られた
「ちょ…新攻!馬鹿、お前なにして…」
新攻が俺の背後から、スウェットのズボンに手をかけたのだ
「毛剃りをします」
「馬鹿…ひとがいるだろ!」
「別に、イヤならみなければいい」
フジテレビか、お前は…そんな言葉は飲み込むしかなかった、ズボンもパンツも一気におろされ、俺の下半身の拳銃までもあらわになる
「ば、ばか…もう、お前…!」
「やめないか!背の高い方の男!」
俺と警官が必至にとめにかかる
「二人とも動くな、手が滑って、大変なことになるかもしれませんよ」
新攻の言葉に、俺も警官も蛇に睨まれた蛙のように動けない
ショリショリと小さな音をたてて、俺の股間の羽が一枚ずつはがされていく
「あ、あぁ…」
俺は小さく震えながら、新攻の胸に、後頭部を押し付けるしかなかった
「………っ」
警官は、何も言わない、ただ目は切なげに潤み、頬は赤く上気している
困ったような、泣き出しそうな表情
俺はこの顔を、どこかでみたことがある
「勃起してるんですか?兄さん」
俺の背後で新攻が、優しくそう尋ねた
兄さん?なんのことだ
警官の目が大きく見開かれる
「お前…し、新攻か…?」
「お久しぶりです、兄さん」
なるほどわかった、新攻も時々、セックス中、感じているときに困ったような、泣き出しそうな表情をする
その顔に似ているんだ
「お前、なんでこんなところに…」
「こっちのセリフですよ、兄さん、あなたは成人式が終わった後、突如姿を消した、一族総出で探しましたが、とうとうあなたは見つからなかった、それが偶然、こんなところであうなんて…
どうしたんですか、兄さんになにが、あったんですか」
警官は切なげに眉毛をよせる
「…僕はあの日、政府から剃り毛対象に選ばれました」
「「……っ」」
俺と新攻は同時に息をのむ、予期はしていたが、本人の口から発せられると、なかなかの衝撃だ
「僕は※剃人を選べなかった、だから政府が用意した、見知らぬ役員の男に、剃毛られたんです」
※剃人=毛を剃る人
新攻兄は堰を切ったように、話しはじめる
「見知らぬ男が、僕の下の毛を無感動に…ただ、たんたんと剃っていきました…オケツのアナ周辺までも…オケツのアナ周辺までも…っ!僕は、僕は、思わず勃起してしまいました!!そんな自分が、恥ずかしくて、汚らわしかった…名誉ある僕の一族に顔向けできなくて、僕はあの日、逃げ出しました」
沈黙があたりをつつむ
新攻兄は悲痛な表情続ける
「僕は、汚らわしいのです、僕はー」
「いい加減にしろよ!!!!」
新攻が驚いて俺の顔をみる
俺は大きな声をあげてしまった自分に少し驚いたが、続ける
「剃毛されりゃ誰だってたつんだよ!仕方ねえんだ!生理現象なんだよ!みろや!俺の下半身!カッチカチやろが!しょうがないんだよ!汚くなんか…ないんだよ、」
「う、受けくん」
新攻兄がすがるような瞳で俺をみる
汚くなんか、ないんだ、あんたは、
俺たちは
「汚くなんかないよ、『重要なのは最初じゃなくて、最後だ、終わりよければ全てよし』なんだよ」
「……」
新攻兄は、なにも言わない
「俺がいったんじゃねえぞ、先ほどこいつが、あんたの弟さんが俺にいったんだよ、あんたの名誉ある一族のひとりの新攻がいったんだ、あんた、弟のいうことも信じられないのかよ?」
新攻兄は瞳を潤ませた
「弟…ほ、ほんとうに…?」
新攻は優しい、いつもの声で
「本当です、兄さんも受けさんも、汚くなんかない…
兄さん、かえってきてください、みんな、待っています」
「弟……っ!!」
新攻兄は瞳を涙で濡らしながら、こちらにかけよってくる
俺と新攻は、そんな新攻兄を強く抱き締めた
「ごめん…ごめん…っ弟…受けくんも…巻き込んですまない…っ!」
「いいんですよ、…会えてよかった」
「泣き止めよ!いい大人がいつまでも、泣くんじゃねえって…」
身を寄せ合いお互いを抱き締めあう三人のまわりを、俺の散らかったちん毛が風に舞い
まるで祝福するかのように踊っていた
何度だってやり直せるんだ、ちん毛といっしょだ、永久脱毛しない限りは、何度だって、何度だって、はえてくるんだから
これから、俺たちはまたはじめよう。
〜fin〜