バレンタイン完結編です。それではどうぞ
〜Valentine・cappuccino〜
【8】
「覚悟しろ!なまいきハンターめ」
「君もよく飽きないよね…」
「フハハ今夜は満月だからな。元の姿に戻れるのに、こんなチャンスをみすみす見逃すわけないだろーが」
「あっそう」
「だからこうして高貴で気高いひさびさの真の姿でわざわざ貴様の部屋に来てやったんだぞ。感謝しろ」
「マド壊して入ってきておいて言う台詞かい?ガラスが粉々じゃん…」
「知るかそんなもの」
「はいはい」
「何をやっているんだ」
「予習だよ」
「は?」
「ハンター業で学校生活がおろそかになるのって好きじゃないんだ。明日は当てられる日だからね。一応僕ってフツーの男子高校生だし、文武両道ってやつ」
「ふうん」
「だから邪魔しないでよね」
「フン。貴様の事情なんか知ったことじゃない」
「あのねぇ…」
「その手に持ってるのは何だ」
「ペンだよ、見たら分かるでしょ」
「バカ違う。反対側だ」
「ああこれ?チョコだけど」
「お前は食い物をつまみながら勤勉に励むのか。まったくだらしない人間め、これだからハンターは教育がなってない」
「これは糖分を効率よく脳に与えてるの。フル活動しなきゃ朝に間に合わないからね」
「ほぉそうか」
「そーだよ」
「だったらあれは何だ」
「アレって?」
「テーブルの上にあるものだ」
「チョコレートだよ」
「台所にあるのは?」
「あれもチョコ」
「玄関にあるのは」
「それもチョコ」
「ベッドに積み重なってるのは?」
「これも愛〜たぶん愛〜、きっとアイ……じゃなかった。たぶんきっとチョコレートだね」
「何故こんなに大量のチョコレートがあるんだ!?」
「仕方ないでしょ。貰ったんだから」
「貰っただと!」
「そう。バレンタインだからね、女の子とかお客さんとかいろいろね」
「何でお前がこんなに沢山もらうんだ。生意気だ、不愉快だっ」
「くれたんだから貰うでしょ、当たり前じゃん」
「バレンタインは好きな奴にチョコを渡す行事じゃないのか」
「そうだけど」
「貴様を好いているやつがこんなにいるということか」
「まあ、そーなるね」
「馬鹿なッ、なぜこんなハンターがいいんだ。人間の女はさっぱり判らんぞ」
「別にこれが全部本命って訳じゃないだろーし」
「どうせ貴様がたぶらかしたんだろ」
「変な言い掛かりやめてくれないかな?ミニ吸血鬼さん」
「今はミニチュアじゃない!バカ人間」
「それはどーでもいいよ」
「なっ!?」
「コレ義理だと思うし」
「なぜ解るんだ」
「だってお店のお客さんは皆、好きな人のためにチョコを選びにきたんでしょ?屋上で告白してきた女の子は別として、それぞれ本命がいるってことだよ」
「…告白されたのか貴様?」
「それなのにただのバイト店員にあげるなんて、義理としか考えられないじゃん」
「どうせ胡散臭い笑顔でも使ったんだろ。その気にさせるよーにな」
「営業スマイルだよ、フツーでしょ」
「はんっ。どうだか」
「ただアドバイスはしたけどさ」
「助言だと?」
「そ。ちょっとだけ」
「なにをいったんだ」
「彼氏にあげるチョコはどんな種類がいいのか迷うって言うから、男の好みを教えてあげただけ。一時間も迷ってるんだもん、女の子のバレンタインにかける情熱ってすごいよねー」
「それでどうしたんだ」
「だから、僕の好みを教えてあげたんだ。参考になるかもって」
「本当にそれだけか」
「もちろん。確か…」
「ん?」
「ええと『オススメはこのチョコレートです。男性に人気商品で甘さもひかえめなんですよね。僕もこれはいいと思います』」
「……」
「『これをプレゼントされたら嬉しいですよ。少し個性を出したいならラッピングすれば大丈夫です、お好みでメッセージカードも付けることができます。これなら気持ちも伝わりますよ』」
「……」
「『あーあ。あなたみたいな素敵な女性から貰えたらイチコロだろうな。僕だったら好きになっちゃいそうだ、うらやましいなぁ…』」
「な、ななな…」
「たしか、そんな感じで言ったよーな気がするケド」
「まさか貴様、それを目を見つめてのたまうなんて真似をしたんじゃないだろーな」
「したよ」
「なッ」
「だってお客さんの視線を見なきゃ接客にならないじゃん」
「お前…」
「そうしたらみんなそのチョコを買って僕に渡してくるんだよ。何がなんだかわからないまま受け取っちゃったけどさ」
「貴様は人間の風上にもおけないな!」
続きからバレンタイン編8後半へ→
【8.5】つづき
「なに怒ってんのさ」
「怒ってなどいないっ、この劣悪非道の悪質たらし詐欺師め」
「ちょっと意味がわかんないんだけど…」
「判らなくて結構だ。貴様はチョコをもらうに値しない人間だからな。バレンタインにプレゼントを受け取る資格などない!」
「あ、ちょっと!?」
「こうしてやる……イタタタタタ!!」
「調子に乗らないでよね、もうー」
「何する!銀のフォークで突き刺すな、嫌がらせか」
「君こそ何やってんのさ」
「貴様のチョコを美味しくいただいてやろうとしたんだ」
「……」
「全部チョコを渡せ」
「なんで…」
「愚問だな。責任もってこの由緒正しきヴァンパイアの俺が全てたいらげてやるからだ」
「イヤだよ」
「では仕方ない。半分で譲歩してやる。チョコをよこせ」
「絶対やだ」
「何故だ!?」
「…イヤこっちが聞きたいよ」
「こんなに有り余るほどあるんだからいいじゃないか」
「なんでハンターの僕が吸血鬼なんかにチョコをあげなきゃいけないのさ。しかも自分が貰ったものなのに」
「ケチケチな奴だな、おまえ」
「君ほどではないよ」
「ひとつくらいいいだろ?」
「…」
「なあ店員ハンター」
「…」
「ほらこんな旨そうな匂いがするんだ、ホラホラ」
「あんまり近づかないでくれる?うっとうしくて勉強できないよ」
「だったら、チョコクレ。」
「首かしげて手を出しても駄目なもんはダメに決まってるじゃん」
「くそっ」
「さっさとあきらめて吸血鬼用の棺桶で眠りなよ。その方が世のため僕のためだし」
「フン、人間界のオンナからたくさん好意をもらったからといって天狗になるな!」
「逆ギレかい…」
「羨ましくなどないさ、ああ全然これっぽっちもな」
「あっそ。ならこれ以上干渉しないでくれるかな」
「まったく不愉快だ。お前のせいだぞ。貴様が俺にうまそうなチョコレートを大量に見せびらかすせいだ」
「…あのねー…」
「絶対血を吸ってやるっ」
「そんな事いうけどね僕だって大変なんだから」
「何がだ」
「お返しは三倍返しだし」
「サンバイガエシ?なんだそれは、食い物か?」
「バレンタインの常識だよ」
「ほぅー」
「オーソドックスなの、だいたいチョコを貰った男はその子に三倍価値のあるものをプレゼントするんだ」
「なんだと」
「これだけの量を返すとなると、頭痛めるんだよねー」
「なるほど、そうかそうなのか…」
「何うなってるのさカエルみたいに」
「おい店員ハンター!」
「うん?」
「お前にチョコをやる」
「………………………………………………………………………」
「なんだその目は」
「胡散臭い」
「なんだと!文句言うな」
「誰が君なんかからチョコレートもらって喜ぶと思うのさ。しかも吸血鬼だし」
「いいから黙ってありがたく受け取れ生意気ハンターめ」
「……」
「そして俺にお返しをしろ、心を込めてな」
「……」
「もちろん三倍にだぞ。お礼はそうだな血か生気がいいぞ、それで妥協してやろう」
「……」
「バレンタインとはいい行事だ。吸血鬼界ロトを買うより、はるかに配当金が保証されている。じつにカンタンで確実だ、ほら受け取れ」
「あのさ……このチョコどうやって用意したのさ。かなり乙女チックなんだけど」
「ここに来る途中に人間のオンナから貰ったんだ」
「それを僕に?」
「そうだ」
「……サイアク吸血鬼」
「なにッ」
「これだからヴァンパイアって好きになれないんだよね…」
「黙れこのハンター」
「はぁ…」
「どこに文句があるんだ。俺のものだぞ、好きにして何が悪い」
「そのジャイアニズム的な考え方がすでに間違えてるって気づいてよ」
「コラ机に戻るな」
「相手するだけ体力のムダだよ…」
「真面目に課題をするな。こっちを向け」
「あーもーうるさい」
「このっ勝負しろ」
「部屋のなかで凶器みたいな爪を振り回さないでよ、危ないじゃん」
「よけるなっ逃げるな阿呆」
「…逃げなきゃヤバいでしょ」
「ちょこまかとすばしっこい奴め!おいまてッ」
「……」
「俺の魔力に怖じけづいたのか。フハハまあそうだろーな。今の俺は元の姿だ、吸血鬼界の皇子とうたわれるほど最強だからな」
「……」
「貴様みたいなふざけた学生ハンターなど足元にも及ぶハズがないさ。いさぎよく降参して下僕となれ、そしてお前のすべてを捧げるんだ。鮮血も生気も全て俺に寄越せ」
「……」
「このチョコレートもな、フハハもぐもぐ」
「だからしれっと勝手に人のチョコを食べないでよ」
「なっ!返せ」
「これは僕のだってば。あーあ半分食べちゃってるし」
「もうすぐ俺のものになるからいいじゃないかモグモグ」
「一生ならないよ…てゆーか口の中にどんだけ詰め込んでるのさ」
「ふぅるふぁい」
「返してくれないかな」
「奪えるものなら奪ってみろ」
「……もういーかげんにしてよね」
「何……んむぐぅうう!!?」
「ふぅ。大人しくしてよ」
「な、ななな」
「うわぁ、あまーい…」
「ぷはぁ!」
「……甘すぎるし…」
「嫌そうな顔するな!人の唇に勝手にキスしてきたのはそっちだろーが」
「だってこうでもしなきゃ君って黙らないし、すごく邪魔だし」
「ミニマム吸血鬼姿に逆戻りじゃないか!どうしてくれるんだ」
「はいはい。よかったね」
「全然良くないぞッ」
「その小さい姿じゃ僕にかなわないね?残念でした。はい、いい子はおうちに帰ってねー」
「子供あつかいするな馬鹿」
「さてと。予習しよっと」
「貴様ぁー」
「怒りたいのはこっちの方だよ。勉強のペースがぜんぜん上がらないじゃん」
「ハッ!そうだ」
「どーしたの…?」
「お返しだ」
「は…」
「今のキスでお前にチョコをやった事になるだろーが。口移しで、しかも俺の高貴な生気まで吸い取ったんだからな」
「それってこじつけてるだけでしょ…」
「ちゃんと渡したんだ。だからバレンタインのお返しをしろ」
「君ねぇ…」
「今すぐに三倍にして返せ!」
「できないよ」
「何だと!?」
「だってホワイトデーは来月だもん」
「ら、らららい!?」
「一ヶ月後にあげるのが普通だからね」
「だ、だましたなこの嘘つきハンターめ!!」
「別にいますぐあげるなんて一言もいってないよ」
「許さないぞ。これじゃ骨折り損のくたびれもうけだ」
「ほんとそうだね」
「頷くなっ」
「これで気がすんだでしょ。部屋から出ていってくれないかな」
「じゃあ来月ぜったいに寄越せ」
「何を」
「プレゼントだ」
「なんで僕が君に?」
「チョコレートをお前にやっただろーが、忘れたのか」
「義務じゃないよ。ホワイトデーのお返しってさ」
「え?」
「返す返さないもその人の自由だよ」
「だがさっき人間のオンナたちにお返しをすると言っていたじゃないか」
「あれはあの子たちの場合だよ。お店の印象もよくなるし、常連になってくれたらバイト料あがるかもしれないからね。告白してきた子にはちゃんと返事するよ、マナーだしね。気持ちだけ受け取るのは気がひけるから」
「だったら俺もいいだろ」
「吸血鬼は範囲外だよ」
「なっ」
「それにキミは特別あげたくない」
「卑怯だぞ。もらうだけもらうなんて、貢がせる人間界のホストよりタチが悪いぞ」
「そっちが押し付けてきただけじゃん」
「うるさいだまれ」
「君はよこしまな目的でしょ」
「そうだそれがどうした」
「邪悪さがにじみ出てるの」
「魔物だからな、あたりまえだろ」
「そんなお礼目当ての見え見えの吸血鬼には、あげたくないんだ」
「くっ」
「あの女の子たちは純粋な気持ちでくれたんだろーし」
「俺だって血を飲みたいという純粋な気持ちだぞ」
「どこが純粋なのさ…」
「いいから渡せ」
「…………」
「おい、何するうわ!?」
「…………」
「襟首をつまむな苦しいだろ、この手をはなせ。どこに行く気だ」
「ちょっと静かにしててよね」
「まさか待てどうして冷蔵庫の扉を開けるんだ」
「…えいっ」
「のわああぁぁ!!」
「これでよし、と…」
「コラ放り込むな閉めるな。ここから出せー」
「ワガママ吸血鬼には頭を冷やしてもらおうと思ってね」
「何ぃ!?」
「そこで一晩中反省するといいよ」
「お前ここは冷凍室だろーが、冷やすどころか完全にフリーズドライだ。朝になったらカチンコチンになってしまうぞ」
「吸血鬼なんだから凍っても大丈夫でしょ?」
「そんな訳あるかーーッ」
「しょうがないね。そしたららんまみたいにお湯かけて戻してあげるよ」
「誰だそれは!?」
「あ、もうこんな時間だ」
「えっおい行くな。出していけ、寒い凍える、眠いぞ、いやダメだ眠ったらシぬううぅーー!!」
〜Valentine・cappuccino END!〜