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甘い言葉は贈れないけど




沖田と神楽





あれ、なんか今日いつもと違う。分かるんだけど、分かんないような。
なんだこれ、もどかしい。

「…ジロジロ見んなヨ。」

あれ?機嫌悪い?
でも会ったばっかりだし、まだ何にも言ってないし。

「何アル!早くなんか喋れヨ!」

なんか知らないけど怒られて、しかもぷいとそっぽを向かれてしまった。いつもはうるさいとか黙れとか言ってるくせに、今日は一体何なんだ。

おまけにまともに顔、合わせようとしないし。
こっち向けよって、テレパシーを送ってみる。まさか伝わりませんよね。

「だからやめろっテ!」

あれ。すげぇ。せっかく一瞬目があったのに、あ、また下向いた。

何がそんなに気に入らないのかよく分からないので、暫く追っかけっこしてみる。

顎をくいと掴んで顔を上げる。殴られる。
下から覗き込んでみる。蹴られる。
諦めたふりして横からチラ見。傘が飛んで来る。

あぁ、そっか。なるほどなるほど。
可愛いとこあるじゃないか。

「いいんじゃない。」

「何アル…?」

「だから、それ。」

「鈍チンなくせに、余計なこと気づく男ネ…」

うわ、真っ赤真っ赤。照れ隠しに憎まれ口叩くのはコイツの癖みたいなもんだ。もっと早く気付けていればこんなに殴られずに済んだものを。

「チャイナ、おい。」

だから、おでこにキスを一つ。殴られた分チャラにしてやるんだ。本当は口にしたいところだけど、多分パンチの一発くらい飛んで来そうだからやめとく。

それにしても、俺の前でこんなこと気にしてくれるなんて、嬉しすぎるじゃないか。
だけどさ、切りすぎた前髪だって、全然気にならないくらい可愛いよ。





甘い言葉は贈れないけど








分かってくれればそれでいいや。




そして僕は風になる



スザクとルルーシュ






がらんとした病室。ベッドの上。少しだけ開けた窓から風だけが流れて来る。

「なんだよ、何でそんな顔してんだよ。」

そんな病室に、もうずっと寝たきりのルルーシュ。頑張るから、そう言って、日々弱っていくルルーシュ。

「お前が元気無いと俺が寂しいだろ?」

言いながら困ったように笑う彼。僕はそんな愛しい人の手をそっと握った。

「ルルーシュ、結婚しよ。」

ずっと思ってたこと。ずっとしたかったこと。僕はルルーシュの薬指に優しくエンゲージリングをはめる。すると彼は一瞬驚いて目を見開いた後、静かに泣いた。

「…スザク、有難う。」

給料三ヶ月分とまでは行かなかったけれど、今の僕の精一杯。君の綺麗な指にはめればどんな安物の宝石だって輝いて見えるから不思議だ。

「…でも、受け取れない。」

ルルーシュがそんなことを言うから、今度は僕が驚く番だった。どうして?こんなに似合っているのに。

「なぁスザク、俺が1番怖いことって何だか分かるか?」

今この状態のルルーシュにとって、怖いことなんてきっときっと沢山あるんだと思う。僕は少しだけ考えた後、正直に首を振った。

「俺死ぬのが怖いとか忘れられるのが怖いとかそんなんじゃなくてさ、お前を縛ってしまうんじゃないかって、それが1番怖いんだ。」

ルルーシュは僕の目を真っ直ぐに見ながら言った。僕は思わず涙がこぼれ落ちそうになるのを必死に堪える。
だって自分がこんな時に、生きるか死ぬかの時に、どうして君の1番は僕のことなの?

「ルルーシュ、僕は君がいれば他に何も要らないんだよ。だから君はそんなこと考えなくていいんだ。」

「気持ちだけで充分だよ。スザク、本当に有難う。」


拳をギリギリと握る。だって僕は、君が僕のものだという確たる証拠が欲しいんだ。倒れた時に1番に知らせが来ない関係なんてそんなの冗談じゃない。そう思うのは、少しもおかしいことじゃないでしょう?

「だいたい俺たち男同士だろ。それ依然の問題だよ。」

「なら、海外に行けばいいよ。そしたら僕たち本当に正式に一緒になれる。」

「…俺のパスポートはさ、期限切れちゃったんだよ。」

「なら申請すれば…!」

「申請か。申請すれば何でも延長出来ればいいのにな。」

そう言ってルルーシュは哀しそうに笑った。僕は言葉が見付からなくて、ただ彼の側にいてあげることしか出来なかった。
君がいなくなった後のことなんて考えたくも無いのに、今日は君が変なことばかり言うからどうしたって頭を巡ってしまうじゃないか。

「君のためなんかじゃないんだ。お願いだから僕のために、一緒になってよ…!」

ルルーシュは何も言わないけれど、それでも毎日彼が愛しそうにリングを見つめているのを知っているから、僕はそれ以上何も言えないでいるんだ。








***
半年位前に某映画を見て突発で書いた話。
続き書きたくて放置してたんですけど、一応こっちに置いときます。


貴方の幸せを誰よりも願うが故に




アルとエド





ガチャリと音をたてて、スプーンが床に落ちた。
エドワードはそれを拾い上げてから立ち上がり、キッチンで軽く濯いで再びリビングへと戻る。
相変わらずの表情で食事を続ける弟。今のは自分の勘違いであってほしいと願いながら自分も腰を下ろし料理に手をつけようとする。

「ねぇ兄さん、好きだって言ったんだけど。」

しかし、何も聞かなかったことにはできなかった。否、させてもらえなかった。
アルフォンスは食事をする手を止めて、ゆっくりと兄に視線を向ける。
逸らしたくても目が放せなくて、エドワードはどうしていいか分からなかった。

「ごめんね。でも、僕は兄さんを愛してるんだ。もう気持ちを隠すのは止めにする。」

至極真剣な表情で自分を見つめてそう言い放つ、血を分けた可愛い可愛い弟。とても、自分をからかっているようには思えない。

「ア、ル…。」

「僕、やっと身体を取り戻すことが出来て本当に嬉しかった。だって鎧のままじゃ、兄さんに触れることも出来ない。」

そう言って手を伸ばされ、頬に触れた温かい優しい手。愛する、弟の温もり。

「俺だって、俺だってお前が元に戻ったことは本当に嬉しいよ。でも…。」

「分かってる、兄さんの言わんとしてることは。…僕たちは、兄弟だ。」

分かってるなら、何故。エドワードは拳をぎりぎりと握りながら、地面を睨み付けた。
自分はどんなに想ってもらっても、それを返すことなんてとても出来ない。だって俺たちは、兄弟だから。
弟には幸せになってほしいと切に願っていたエドワードにとって、それは何よりも辛い告白だった。
今までひどく悲しい思いをさせた。だから、今度こそ普通の幸せを手に入れてほしいと、ずっと思ってきたのに。
兄弟で、男。立ちはだかる壁は大きすぎるだろう。自分ではアルフォンスを幸せになんて出来ない。出来る訳が無い。

「兄さん…。」

今日こうしてハッキリと言われる前から薄々感づいてはいたが、エドワードは必死に自分の気持ちを隠しながら、アルフォンスの想いも気付かない振りをした。

「兄さん、好き。大好き。ずっと一緒にいたい。」

残りの料理を食べる気になんかとてもなれなくて、溜息をつきながらソファへと移動したエドワードを追いかけるようにアルフォンスがゆっくりとテーブルから立った。

「お前、俺たちは兄弟だからって、そう言ったよな?」

「…うん。」

「障害はそれだけか?まだ俺の気持ちも聞いてないのによくそんな自信満々に話を進められるよな。そもそも俺を好きだなんて兄弟愛の延長上、勘違いに決まってるだろそんなの。」

悪態をつくように、なるべく憎しみを込めて。
エドワードはいつの間にか目の前に寄ってきている弟を睨み付けた。

「そんな、そんな顔して何言ってるんだよ…。」

バカ兄。そう呟いて、しかしアルフォンスはエドワードを抱きしめた。突然の行動に驚きながら必死に抵抗を試みるも、少しも緩まることは無い。それどころかますます強く抱きしめられ、こんなはずではなかったとエドワードは大きく顔を歪めた。

「放せよアル!おい…っアルフォンス!」

「嫌だ。放さない。」

「ふざけんな!ちゃんと考えろよ!俺を好きだなんてそんなん、お前は、お前は自分のことがまだしっかり分かってないんだ!」

「…っそれは!それはこっちの台詞だろ!?」

温厚なアルフォンスが珍しく大きな声を出したことに驚いて、エドワードはぽかんと弟を見上げる。

「だって兄さん、僕を好きでしょう?泣くほど好きなんでしょう…?」

アルフォンスに言われて初めて、エドワードは自分の瞳から涙が溢れていたことに気付いた。

「でも、俺はお前の幸せを誰よりも願ってて、だから…っ」

「ありがとう。その気持ちは本当に嬉しいよ。…でもね、僕の幸せを決めるのは兄さんじゃない。僕自身だ。」

アルフォンスは再びゆっくりとエドワードを抱きしめる。腕の中の愛しい人に今度は抵抗されなかったことに、アルフォンスは喜びで胸がいっぱいになった。

「アル…」

いけないと頭で分かってはいても、エドワードはアルフォンスの温もりを感じ、固まったまま動けなくなってしまった。
だって、大好きだった。愛してた。ずっと、誰よりも。
自分の感情が上手く整理出来ない。エドワードが混乱しているとふいに涙を優しく拭われた。手の主である笑顔の弟を見つめる。こんなに嬉しそうな顔は久しぶりに見たとエドワードは思った。それは身体を取り戻した日に見せた、あの最高の笑顔を思い出させた。
実の兄だから分かる。ずっと傍にいたから分かる。これが偽りのものだと、どうしたら思えるだろう。

「アルは今、幸せか…?」

勇気を振り絞って、目を見て、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「これ以上の幸せって、無いと思う。」アルフォンスにも兄の気持ちは痛い程分かっていた。いつも自分のことより弟を優先しようとする、優しい優しい兄。
その眼差しが兄弟に向けられるそれでは無いと気付いた時、どれほど嬉しかったか分からない。
バレているとは微塵も気付かずに気持ちを隠そうと頑張っている不器用なところも、全部愛しくてたまらなかった。

「兄さんが幸せなら、僕は幸せ。僕が幸せなら、兄さんも幸せでしょう?」

そう言って太陽みたいに笑う弟の胸に、エドワードは今度こそ自分から飛び越んだ。
見つめあって、微笑みあって、それだけで幸せで。もう、戻れないと思う。二人には戻る気なんてさらさら無いけれど。

「兄さんはひどいなぁ。」

「…何だよ?」

「僕の気持ちが勘違いだなんて、どの口が言ったの?」

「それは悪かっ…んっ…!?」

言い切る前に、アルフォンスはエドワードの唇を自分のそれで塞いだ。

「ア、ア、アル…!?」

「兄さんが悪いんだよ。」

金魚みたいに口をパクパクさせる兄の耳元でそっと囁く。

「そんな可愛い顔してたら、食べちゃうよ。」

顔を真っ赤にさせて怒鳴るエドワードの唇に再びキスを落とすと、アルフォンスは満足気に笑った。


苦しいことも、辛いことも、二人だから乗り越えられたんだ。だから、これからもずっと一緒に。

アルフォンスの笑顔を見て、エドワードも優しく笑った。
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