リボーンと綱吉
「もう俺がいなくても大丈夫だな。」
そうやって悲しい顔をして笑う君を、どうすることも出来なかった自分。嫌い。嫌いだよ。ダメダメな俺も、何も話してくれない君も、全部嫌いだ。
「もう、行っちゃうの?」
「あぁ。」
「…どこに?」
リボーンは答えない。分かってる。ずっと一緒にいたはずなのに、俺は何1つ彼のことを知らないんだ。
「…リボーン」
情けなくて涙も出ない。だけど、聞かずにはいられなかった。
「行ってくる。」
そんなんで、そんなたった一言で別れるくらいの仲なの俺たち。思わず立ち上がって、リボーンの元へ駆け寄る。
「ねぇ、帰ってくるよね?」
「ツナ…」
「ちゃんと俺のところに帰ってくるよね?ねぇ、リボーンそうだろ?」
「仕事に戻れ。お前はもう立派なマフィアのボスなんだ。」
「…っお願いだから、答えてよ…!」
なんでそんな泣きそうな顔してるの?なんで、なんで、なんで。
「俺が頼りないから?俺じゃ、俺じゃ何もしてやれないのかよ…?」
ポロポロと、堰を切ったように涙が溢れた。どうしたらいいんだよ。
「ツナ、それは違う。お前が大事だから俺は行くんだ。そのことだけは、知っておいてほしい。」
その日初めて、俺とリボーンの視線が交わった。それは悲しそうな顔でも辛そうな顔でもなくて、何かを決意したような顔だった。
「やらなきゃいけない仕事がある。帰って来る。必ずだ。」
どこまでもついて行くと言いたかった。だけど、俺がそれを言うことをきっと彼は望んでいない。俺はもう飾りでも何でもなく、歴としたボンゴレのボスなんだ。
「…お前がそう言うなら、俺はここを守るよ。ここはお前の家だから。」
必死に笑った。不細工な顔で、それでも懸命に。
帰って来たら言いたいことがあるんだ。
リボーンは小さく笑って、そうしてその日を境に屋敷から姿を消してしまった。
ただ、君のために
それだけのために、俺はここに在り続ける。
…続く?
総角と西王母桃
仕事があるから少し待っていなさい。そう櫛松さんに言われ、2人で待機をしている最中。
こてん、と彼女の体が倒れてからどれくらいの時間が経っただろうか。
ざくろくん、ざくろくん!
最初は気分が悪いのかと思って声を掛けたけれど、どうやらそうではないらしい。すーすーと寝息をたてて気持ち良さそうに眠る彼女を見て僕は思わず安堵のため息をついた。
しかしこのまま風邪をひいてしまっても困る。急いで自室の掛け布団を持って来て、彼女に掛けてやって。それでやっと本当に安心した僕は隣に腰を下ろして、彼女の寝顔をこっそり覗いた。
出会った頃だったら僕の前で寝るだなんて、多分考えられなかったろうな。やんわり口を開けながら、無防備に眠っている姿を眺めてそんなことを思う。
「うーん…」
遠くの方から微かに足音が聞こえて、彼女の耳がぴくりと動いた。櫛松さんかな。
「ざくろくん、そろそろだよ。」
起こそうとして頬に畳の後がついているのが見えた時は思わず笑ってしまった。こうなってくると最早警戒心剥き出しだったあの頃が懐かしい。
「…んんっ、へたれのくせになまいきなのよーっ…」
寝返りを打つのと同時に、彼女は僕の服の裾をぎゅうと掴んだ。
「あんたは私がいないとダメなんだから、離れるんじゃなわよ…」
「…すいません」
反射的に寝言にさえ返事を返してしまう自分に苦笑いを1つ。全く、どんな夢見てるんだか。
「…よく眠っているね。今日の仕事は先方の予定でキャンセルだそうだから、そのまま寝かせてやっておくれ。」
立ち上がろうとした僕を見て櫛松さんが笑ったので、恥ずかしながらそのまま会釈をした。
「…夢の中でくらい、君の目に映る僕がカッコ良くあればいいのになぁ。」
そっと、頭を撫でる。西日がぽかぽかとあまりに気持ち良くて、そのままうとうとと眠ってしまった。
「ばっかじゃない。…もうこれ以上、どうにもなんないわよ。」
彼女に寄り添うように、ぐーぐーと眠る僕。ざくろくんが途中から起きていたことになんて気付く由も無い。
午後の居眠り
それはとても優しい時間
リクオと氷麗と黒羽丸
「若ー!一体どこにいらっしゃったんですか!?」
「ん。」
その姿を確認した途端、氷麗は目をいっぱいに見開いて目的の人物の元へと駆け寄って行った。若と呼ばれた青年、リクオは袖から腕を出し、そのまま桜の木の上を差す。
「ん。じゃないですよ!牛頭馬頭が大暴れして大変だったんですから!リクオ様から一言言ってもらおうと…!」
氷麗が涙目にそう訴えるのを横目に、リクオは近くの縁側にどかりと腰を下ろした。それを見た氷麗が少しだけ頬を膨らませて近付いて来る。
「あいつら俺をみたら余計機嫌悪くなるだろ。」
「で、でもぉ!」
「だいたい俺を探す前に自分で何とかしろよ。」
「若がいて下さればそんな必要ありません!だいたい本当にあそこにいたんですか?私一番に探しました!」
「いたよ。なぁ、黒羽丸。」
ばさばさと音がして黒い羽が宙を舞う。その一言で、近くをパトロールしていたであろう烏天狗の長男が羽を広げ勢い良く地上に降り立った。
「はい、若頭はずっとここにいらっしゃいました。探し回る皆の姿を見て、にやにやと笑っていらっしゃったのを確認しています。それから」
「もういいもう。」
「酷いです…!私が探してるの見て面白がってたんですね!黒羽丸も教えてくれたら良かったのに!」
「申し訳ありません。若頭に口止めされていたので、伝えることが出来ませんでした。しかし親父には全て伝えてありますのでご安心下さい。」
「…お前なぁ。」
もう下がっていいぞ。リクオが黒羽丸に告げると、彼は会釈をして再び夜のパトロールへと戻って行った。
「私だけ…」
要は自分がリクオを見つけられなかったことが、氷麗の機嫌を損ねている原因らしかった。
下を向いて、いじける氷麗の頭をそっと撫でるとリクオは優しく笑う。
「相変わらず隠れんぼが下手くそだな、氷麗は。」
目が合った瞬間、あまりの近さに驚いたのか氷麗は勢い良く顔を伏せた。
「…若はズルいです。なんかズルい…!」
氷麗が、咲いている桜のようにほんのりと頬を染める。妖艶に笑ったかと思うと、次の瞬間リクオはまたひょいひょいと木の上に登って座っていた。
(若頭。)(おう、なんだ?)(仮にも本家の庭でイチャイチャするのは如何なものかと思います。)(…。)
黒子と火神
体育館に着いてみたはいいものの、見渡してみたら何故か誰もいなかった。はぁ?練習あるよな、今日。
1人でシューティングでもしようかと思ったけど、一応確認のためにカントクに電話したらものすごい剣幕で怒鳴られた。
「黒子くんに聞いたでしょ!?」
いやいやいや、急遽練習試合になっただなんてそんなん一言も聞いてない。ムカつきながらもとりあえず相手校までひたすらに走った。
電車を乗り継ぎ全力疾走することおよそ30分。
到着した時には試合開始まで残り3分しかなかった。まぁこっちはアップ完了だからいいけど。
ってちっともよくねぇだろ。急いで黒子を探す。影薄すぎてなかなか見つからない。さらにイライラが募る。
「おい、黒子?」
やっと見つけて声をかければ、しまったって顔しやがった。一瞬だししかもあんま表情変わんないけど分かる。俺には分かるぞ。
「お前なんで言わねーんだよ。」
「…いや、既にご存知かと。」
「存じねぇよ!エスパーか俺は!あぁ!?」
「それは違うと思います。」
「んなこたぁ分かってんだよ…!素直に言うの忘れたって言えよ。」
「あぁまぁ、そうです。」
淡々とした表情でそういうこと言うからさらにムカついた。人の神経逆撫でするの本当にうめーなコイツ。っていうか。
「も少し申し訳なさそうに言えねーのか…!?」
「すいません、すっかり忘れてました。」
「影うっすいお前に忘れられるなんて暫く立ち直れねーよ!」
「そうですか。じゃあ是非あちらへどうぞ。」
「ベンチ指してんじゃねーよ!俺はスタメンに決まってんだろ…!」
くそ、喧嘩を売られてるとしか思えねー。弱いくせに。絶対こいつ後でぶっ飛ばす。
でもとりあえず、今は試合が優先だ。
「黒子お前覚えとけよ。」
「分かりました。大丈夫です、火神くんよりは記憶力に自信あります。」
「あぁ!?」
ぶん殴ってやろうと思ったけど、悪寒がして手を引っ込めた。同時に背後に異様な気配を感る。
「あんた遅刻してきたくせに偉そうね。そんなに走りたいなら行ってらっしゃい!さぁあっちでシャトラン50本ね!」
黒子、マジで恨む。
最高最悪のパートナー
その日一番のパスが誰から来たのかなんて言うまでもないんだけど。あぁくそ、ほんとムカつく。
焔と綾
手を伸ばした先には、それはそれは綺麗に微笑むあやの姿があった。
月が照らす彼の姿は妖艶で美しく、本当に同性なのかと時々疑いたくなる。
その細い腕を掴んでしまいそうになって、慌てて意識を引き戻した。
「僕の学校の制服、焔くん本当に似合ってたね。」
「そ、そんなことないよ!」
「照れないでよ。クラスの女子だって騒いでたよ。」
「…あやだってファンクラブとかあるみたいで驚いたよ。」
窓辺に佇んでいるあやの隣に座り込む。珍しく静かだなと思ったら、部屋から寝言が聞こえてきた。陣はもう眠っているみたいだ。
「焔くんかっこいいから。」
「それは自分でしょう?…あや?」
急に黙り込んでしまった顔を覗き込む。
違った違ったと笑いながら、あやは俺の横に座った。
「焔くん、色々大変だと思うけど肩に力入りすぎてるんじゃないかな。」
「そんなことないよ。あやは、俺たちが…いや、俺が護るから。」
「焔くんのこと信じてるから、どんなことになっても僕は平気だよ。」
「…あや」
「きっと何が起きても大丈夫。焔くんに陣くん、2人揃えば何でも出来るよ。」
あやの言葉は不思議で、いつだって俺を安心させてくれた。ああ、そうか。護られてるのはずっとずっと前から俺の方だったのかもしれないな。
「それでいつか、僕の届かないところまで行ってしまうんだろうね。」
そう言った時の物憂げな表情さえ美しいと思った。でも。
「帰る場所があるから、僕らは飛べるんだ。」
言いながら手を握れば、あやはとても嬉しそうに笑った。
あなたの笑顔を護りたい
無くなってしまったら、俺はきっともう走れないよ。