くるくると描かれる筋が、ぼわりと広がる水中の雲が、溶け合う色が、私はすき。
月峰彩月はいつものように自分の分の紅茶を淹れる。小気味のいいお湯の注がれる音と、ふわりと広がる独特の香り。ただのティーパックのお安い紅茶だけれども、実際のところ善し悪しなど分からない寄せたいのだからこれでいいと彩月は思っていた。
そこに一筋ミルクを注ぐ。その瞬間が何よりも至福の時だった。
そんな話を彩月が友人にしたのは先月のことだった。紅茶など飲まない友人で、珈琲はブラックに限ると決めているような人間だった。彩月の話に変わってるね、とだけ返すと、自分の珈琲を一気に流し込んで仕事へと向かっていった。
変わっているだろうか、とその時彩月は首を傾げた。
香り立つ入れた瞬間よりも、味が広がる瞬間よりも、彩月はあの混じり合う瞬間が好きだった。視覚的に楽しいからだろうか、ミルクを落とすあの小さな音が好きだからだろうか、柔らかなあの色が好きだからだろうか。色々思案はしてみたけれど、彩月がこれだ、というものは見つけられていなかった。探す必要もないのだけれど。
静かにミルクを混ぜる。くるくると回して適当なところで飲む。そこから先はお茶としてただの作業だ。紅茶を作っている人に申し訳ないなと思いながらも、彩月は時間もかけず紅茶を飲み干した。
午後のティータイムなんて言うには、少々優雅さに欠けるな、と彩月はひとり小さく笑った。