話題:本当に大好きでした。

いつもひーちゃんが大好きで愛しくて最愛な気持ちに偽りは無いのだけれど。
過去に、たった一人。忘れられない人が居る。
いつも思い出してる訳じゃなくて、いつも私の胸を占めてるのはひーちゃんで、なのにふと思い出す。

その人はひーくんという人で。(仮)とかじゃなくひーくんと呼んでた。「ひ」のつく人が好きな訳では無い。
ずっとずっと好きだった。出逢いは小学生まで遡る。
転校生だった私は、隣の席になったひーくんに恋した。

整った顔に反比例するような意地悪さで、その癖不意に優しくて。美化してる訳でも何でも無くて、本当にそんな人だった。
今思えば、小学生の癖に俺様系ホストみたいなヤツだったなと思う。

小学生の頃の私は生意気で男子に混ざって喧嘩もしたし、女ジャイアンみたいなヤツだった。
今も生意気なのは変わってない気がするけど。
ただ、弱点が…虫が本当にダメだった。
蛙や蛇は平気なのにバッタや毛虫、カブトムシまでダメだった。
だから男子によく虫で泣かされた。
ひーくんは、自分が私に虫を投げる癖に他の男子が投げた虫が服に付いて私がベソをかくと取ってくれた。
お前を泣かせて良いのは俺だけだ、なんて言って頭を撫でてくれて。
本当に小学生かよ、って今になると思うけどスゴい天然すけこまし男だった。

マセた小学生だった私は休憩時間は外で本を読んでいた。可愛くないガキだ。
いつもそんな私にソフトバレーボールを投げて寄こしてはバレーに入れと誘ってくれた。

放課後遊んでいる時、当時親友だった私とエリとリエ(仮)が各々の好きな人の名前を書いて逃げ回り、それを男子が追い掛けてその紙を奪うというのをした事があった。
ひーくんは足が早くてすぐに私に追い付いた。
けど、私の手首を掴んだまま紙は奪わなかった。
「お前の好きなヤツは知ってるからいい」って。
「じゃあなんで追っ掛けて来たんだよ」って聞いたら、「他のヤツにお前が捕まってお前の好きなヤツをバラされたら面倒くせぇから。お前が好きなのって俺だろ?」ですと。どんだけ自信家なんだ。図星だった訳だけど。
恥ずかしさと照れ臭さと何故か分からない悔しさで、「分かってんならいつまでも手ぇ握ってんじゃねーよ」と悪態をつくのが精一杯だった。
手首を握られた状態から、手を繋がれた。しかも恋人繋ぎ?とかいうヤツで。
私が顔を真っ赤にして何のつもりか聞いたら、ニヤニヤしながら「こっちの方がいいかと思って」なんてしれっと答えて。
結局、エリとリエが捕まるまでの間手を繋いで渡り廊下の階段で座ってた。

授業中も暇さえあれば隠れて手を握ってきた。
授業でスクリーンを使って部屋が薄暗くなると、恋人繋ぎになって。
今思い出しても甘酸っぱいような気分になる。
村下孝蔵の「初恋」みたいだ。
浅い夢だから、胸を離れない。

本格的に付き合うようになったのは中学生になってからだった。
ひーくんはやっぱりモテて。告白されてるのを見てはヘコんだりしてた。その頃には女ジャイアンよりは女子らしくなってたから。
毎日のように手を繋いで一緒に帰ったりしてたのに曖昧な関係だった。
傍目から見たら仲の良い幼馴染に見えていたらしい。聞いた時はショックだった。
転機が訪れたのは私が放課後に三年生の先輩に呼び出された時だった。
「いつも一緒のアイツ、幼馴染なんだったら…俺と付き合って下さい」そんな告白を頂いてしまって。
なんでかそこに教室で待ってたはずのひーくんが現れて、「幼馴染じゃねーから。瑛は俺のなんで無理っすね」…ひーくんが現れた事にも驚いたし、俺のモン発言にも驚いたけど、一番は名前を呼ばれた事に驚いた。
いつもお前とかコイツとかだったから。
先輩は小さく「そっか」って言って帰って。
私はひーくんに怒られた。
呼び出しに応じた事にも、ひーくんを教室で待たせた事にも、すぐに断らなかった事にも。
「私達、付き合ってたの?」って聞いたら、
「好きでもねぇ女と毎日帰ったり、ひーくんなんて馴れ馴れしく呼ばせるか」ってまた怒られた。

その年の夏休み。
私はひーくんの家に泊まりに行って、…女になった。初めての人はひーくんだ。
ハッキリ言ってひーくんのモノは大きくて。
痛いって騒いで。ひーくんはとても優しかった。ちゃんと避妊具も付けてくれたし、丁寧に愛撫してくれて…それでも私が痛がる度に髪や頬を撫でてキスしてくれた。
普段は意地悪もするのにとても優しい抱き方だった。
お互い初めてとは思えない程、ひーくんは時間を掛けて丁寧に抱いてくれた。
…最初だけ、だったけど。あとは意地悪をされたり焦らされたりとなかなかに激しかった。
でも絶対に私が嫌がる事や痛い事はしなかった。

書いてる内にいろんな事が思い出されて書ききれなくなりそうになってる。
手を繋いで帰ったり、休みの日には自転車で二人乗りして海に行ったり、一緒に花火大会に行ったり、水族館にも行ったり、数え切れない程キスもしたし体も重ねた。
二人で学校をサボって散歩したりもした。
そんな日々は永遠に続くかと思ってたし、実際延べ10年続いた。
高校に入って学校が別れても、暇さえあればメールしたりして。
私達の頃はLINEなんて無かった。
ひーくんはわざわざ私を迎えに来てくれて一緒に帰ったりして。

高校の卒業式の日、ひーくんは私に第二ボタンと指輪をくれた。
「瑛を食わせられる位に稼げるようになったら、結婚して欲しい」って。
ひーくんのご両親とも打ち解けてたし、本当に嬉しかった。
卒業式で泣かなかった癖に、ボロボロ泣いた。
そんな私をひーくんはいつもみたいに撫でて。

互いに仕事を始めてから半同棲して、毎日が幸せで。
そんな日常が崩れたのは3月11日。
…東日本大震災の日。
ひーくんは建設関係の仕事をしていて、普段はデスクワークなのにたまたま…その日に限って現場に状況把握にたまたま現場に出ていて。
私は電話が繋がらない事に不安を覚えて、地割れした道路を車で飛ばしてひーくんの職場まで行った。
着いたら私とひーくんを知っている作業員のオジサンが吹っ飛んで出て来て、「瑛ちゃんは見るな」って羽交い締めにされて。
ひーくん、重機の下敷きになったって聞いた。
思い出す時に綺麗な顔を思い出して欲しいから、見たらダメだって。
そこから先の記憶は無くて、気が付いたら病院だった。
オジサン曰く泣き喚いた挙句に失神したらしい。

ひーくんの葬儀関係には一切出なかったし、その辺りの記憶は殆ど無い。
毎日のようにODを繰り返していた。
気を失うまで薬を飲んで、目が覚めたらまた薬を飲んでを繰り返して。
じゃないと、部屋に溢れたひーくんの物に押し潰されそうだった。
起きてる間はずっと泣いてた。
ひーくんを忘れる為に何でもした。
ひーくんを忘れる為に一夜の出会いを繰り返してはその人の中に、ひーくんに似てる所を見出して。違うと確認しては諦めてまた泣いて。
そんな中でひーちゃんと出逢ったんだ。

あぁ、ダメだ。
思い出してる内にまた苦しくなってる。
もう止めよう。

…時々、こんな感傷に浸る。
ひーちゃんはひーくんの事を知っている。
出逢ったばかりの頃、メンタルの事をカミングアウトする時に話してある。
ひーちゃんは「瑛さんの大事な思い出だから、忘れないで」って言ってくれた。
ひーちゃんと逢って初めてひーくんの指輪を外せた。

忘れたりしない。
大事な初恋の人だから。
ひーちゃんは「初愛」の人。

どちらも私の宝物で、忘れない。

でもね、ひーくん。
今は目の前のひーちゃんを大事にするから。
私がちゃんと幸せな所を空から見ててね。
そっちに行ったら、可愛い可愛いひーちゃんを紹介するよ。

ひーちゃん、私が今最高に愛してるのはひーちゃんだよ。
いつもありがとう。私の中のひーくんも大事にしてくれてありがとう。
これから、沢山幸せにする。
沢山の幸せで私を変えてくれたひーちゃんは、私の命の恩人だから。