読んで良かった読まなきゃ良かったどちらでも良いから突き抜けた感想を持てる本読みたいな
ホラーなら一人の時間全てが、暗がりの全てが、細い隙間の全てが怖くなるような
年齢重ねちゃうともうそういう感情も無くなっちゃうのかなと諦めずにどこかにあるはずだと思っていたい
もう何年も前になりますが山吹静吽さんの「迷い家」を読んだ時はその希望をひとしお感じて嬉しくなりましたね
濃霧誘うこの世とあの世の狭間の古びたお屋敷、巣食う魑魅魍魎共、それらの肉の美味に憑かれたかつて伝説の英雄犬しっぺい太郎と、出会う少年、追う女教師…
デビュー作という事もあり「これも書きたいあれも書きたい」という熱量が作品全体に迸ります
それぞれのスピンオフも期待してしまう程の魅力的な怪異たちと、渡り合う力を宿した宝珠
中でも取り分け明確な殺意を持って迫り来る山姥から、とある外套に身を隠し、じっと息を潜め逃れようとするシーンは個人的にいつまでも愛したいと思える描写力でした
物語の初めから語られる戦時下という舞台設定を活かしたラストも一作品を駆け抜けた爽快感があります
夫きっかけで読んだのですが「いつか藤田和日郎先生に漫画化してほしいよね」と言い合った、それだけで分かる人には分かるだろう世界観で描かれたお話でした
妖怪を食い自身も妖怪化したしっぺい太郎の漏らす心根は、人に生まれ人に生きる我々にも刺さるものがありました