町に入ってから、ちらちらと視界の端に黄色い何かが映っていた。あとで確認しよう、と思っているうちにごたごたとしていたので、すっかり忘れていた。
人目を盗んでその物体に会いに行こうかと思ったら普通にユーリにはばれたよね。何故分かった。
仕方ないのでユーリも連れてそこに辿り着くと、高速のアヒルが円を描くように走り回っていた。えっ足ある?見えないな。上手いこと下が見えないかと覗きこんでいると、突然その黄色いアヒルはこちらを向いて停止した。えっ怖い。あの速度で止まって慣性もないのか。
ぼふん、と音がしてそのアヒルは人形になった。人間がアヒルだったのか、アヒルが人間だったのか。いや普通に元から人間だったと思う。
「良くぞ見破ったな!褒めてつかわす」
「おっけーくるしゅーないです」
「そいつはなんの呪文なんだ?」
えっユーリ使ったことないの?あるわけないか。
そこにいたのはワンダーシェフだった。あれ?この間の人と違うね。協会の方ですか?
「褒美としてそちに料理を教えてやろう」
「有り難き幸せでおま」
「お前のその言葉はどっから覚えてきてんだ」
「まあ俺くらいになると人生経験豊かだからさ」
「経験して得たのがそれってことは、大した人生でも無さそうだな」
酷くない!?いやそうだけども!もっとオブラートに包みたまえよ!
俺がユーリにこれでもかというくらいうざ絡みをしていると、ワンダーシェフが申し訳なさそうにおずおずと声をかけてきた。いいんだよ!レシピを置いてってくれ!さあ!今回は俺が聞きます!雨なのでメモは難しいが、大丈夫古来より大事なことは口伝と決まっている。俺ならできる。
「心して聞くがよい!」
聞いた。えっと、冷やすとこまで分かった。
「シャーベットな。今度作ってみっか」
「俺もやる」
「覚えたのか?」
「冷やせばいいんでしょ」
「素直に馬鹿にした方が、こういうときは親切ってもんだよな」
今のは遠回しで馬鹿にしてるじゃない!あっうんまあ伝わってるんで一周回ってストレートだね。どう思いますシェフ!と話を振ろうとしたら既に姿はなく、雨避けのかけられた食材だけがそこに残されていた。嘘だろ、お前…気配がなかったぞ…!?
置いてあった食材を持ち上げてまじまじと見る。食べていい?
視線で何かを察したのか、ユーリに取り上げられた。まだ食べてないです!
「いつ作るの?」
「気が向いたら」
「じゃあ気が向きそうな時に要求しよう」
なんだかんだ言っても、わりとリクエストには応えてくれる。にへら、と笑うと、ユーリに何気の抜けた顔してんだ、と1度小突かれた。多分わりと早いタイミングで作ってくれそうです。ワンダーシェフ有難う。それを楽しみに、先に仲間の元に向かうユーリの背を追った。