本部へ急ピッチで移動中の鼎と桐谷。車内では鼎が宇崎に頻繁に連絡しては状況把握→宇崎を介して指揮の繰り返し。
ここで鼎の司令補佐としての指揮の真価が問われる状況となる。
「室長、市民の避難状況は!?
――進んでない?いち早く避難を優先させろ!出撃している隊員達へ今すぐ指示してくれ。何のためにシェルターを増設したんだ?このためのシェルターだろうが!!」
緊迫する車内。鼎はちらっと車窓を見た。
シールドシステムが起動していない!?このままでは被害が拡大してしまう!
「室長、シールドシステムを首都圏全域に起動してくれ。今すぐに!
それと怪人出現エリアのデータを送ってくれ。首都圏とはいえ、具体的にどこに集中しているのか知りたい」
「わかったよ」
鼎のスマホに宇崎が送信したデータが表示される。
首都圏の地図には所々赤い丸印がついてある。その印が怪人出現エリアだという。
――東京に集中しているな…。埼玉・千葉・神奈川にも出現している。これがほぼ同時だと!?
東京に関しては10ヶ所以上!?どうしたらいいんだ。
「怪人は同時多発的に出たのか」
「ほぼ同じ時間帯に複数確認されている。新人隊員も出撃させたよ。
でないと回らない。鼎…車内からでも出来ることはあるからな。本部で待ってるよ」
新人隊員まで出撃とは一大事だ。まだ戦闘経験の少ない新人隊員を出撃させないとならない状況…かなり厳しい。
都内某所A。
「あやねえは市民の避難誘導して!あたし達でここは戦うから!
あやねえは市民を多く救いたいんでしょ!?」
いちかはバリバリ戦いながら彩音に迫る。彩音は大事なことを忘れかけていた。
市民を多く救いたい!
彩音はその場から走り出し、近くのシェルターに市民を誘導・救護に当たった。
「いちか、ありがとう!」
「あやねえ、こっちも頑張るから…あやねえは無理しちゃダメだからね!」
御堂と梓は大暴れしている。
「なんて数なんだ!戦闘員だけとはいえ、こんだけいると…」
「他のエリアもヤバいって情報入ったぞ。同時多発的に出現してるとさ。特に東京はヤバいって」
梓はばっさばっさと倒してる。戦闘中の梓はむちゃくちゃ怖い。
都内某所B。ここではバイク隊隊長・霧人を中心に戦闘を繰り広げていた。
「渋谷隊長、いくらバイク隊でもこの数では限界ありますよっ!処理しきれません!」
「諦めるにはまだ早いだろ。鼎のやつ、シールドシステム起動させたみたいだな。
これで被害は軽減される…。ま、厳しい戦いなのには代わりないけどな」
なんでそんなに余裕なんだよ隊長!?
あるバイク隊隊員は、霧人のぶれないスタンスにたじろいだ。
埼玉県某所。新人隊員1班はここで戦闘中。新人隊員達は2つに分かれていた。
1班は仁科副隊長主体で動いている。1班には八尾と音羽もいた。
「副隊長、私達ほとんど戦闘経験ないですよ…?」
怯える音羽。仁科はフォローする。
「近接戦を避ければ戦闘経験が未熟でも戦えるよ。相手は戦闘員クラスだけだからね。
八尾は近接戦出来たよな?」
「は、はい…。あれってまぐれなのでは…」
八尾は自分のめちゃくちゃな戦闘スタイルと、意外な戦闘力の高さがまだ信じられないでいる。まぐれだと思っても仕方ない。
そんな新人隊員1班に迫る怪人達。八尾はパニックになりながらも怪人相手に思わずグーパンチでぶっ飛ばしていた。
「ぎゃあああああ!!」
「出来るじゃないか」
仁科が呟く。
八尾はぶっ飛ばした怪人を見る。あのパンチだけで強烈なダメージ与えてるってすごい…。
八尾…とんでもない逸材だ…。
「私…倒しちゃったの?」
「とどめを刺せって。今は気絶しているだけだからな」
「じゃ、じゃあもう1発っ!」
八尾の強烈なパンチが怪人にクリーンヒット!怪人はまさかのパンチ2発で倒されてしまった。
意外と肉弾戦に向いてることが判明した八尾だった。
神奈川某所。新人隊員2班はここで交戦中。
2班は戦闘経験者の吾妻と氷見が主体。
「吾妻、敵のタイプわかった?」
「…戦闘員がわらわらいるぞ。ざっと5体」
吾妻と氷見は他の新人隊員をカバーしながら、得意分野でそれぞれ撃破している。
鼎と桐谷は本部へ帰還。急いで司令室へと向かう。
「室長!状況は!?」
そう言いながら司令室へと入った。慌ただしい司令室。
「メインモニターを見ろ。今現在の戦況だ。青印が怪人撃破エリア・赤印は交戦中。状況は厳しいぞ」
「市民の避難は終了したか!?」
「そっちは無事に済んでるよ。だから被害も今のところは最小限。
お前の『シールドシステム起動』の指示がなかったら東京はさらにヤバいことになってた」
室長…今もまだ戦闘中なんだが…。
「室長…この状況、どう思います?この怪人同時多発的出現には裏があるような気がしてならないんだ」
一方ゼノクでは。當麻がいきなり襲撃。狙いは明らかに蔦沼だ。
ゼノクはこれを感知→自動的に防衛システムが起動。職員・入居者の避難が早急に始まった。
『職員・入居者は東館・または地下シェルターへ避難して下さい!防弾シャッターが閉まります。
繰り返します。東館・または地下シェルターへ避難して下さい!』
けたたましく流れる館内放送。そしてアラート。
指揮権が西澤室長から憐鶴(れんかく)に一時的に移行したゼノクでは、憐鶴がゼノク隊員をいち早く現場へと派遣。
現場では二階堂が指示を出している。二階堂はいつの間にか隊長のようなポジションになっていた。
「敵の狙いはなんでしょうか」
憐鶴に通信する二階堂。
「蔦沼長官かもしれません。敵は…畝黒(うねぐろ)當麻で確定でしょう。あの交渉からするに…ゼノクの機密情報を狙っていると推測されます」
「三ノ宮さん、長官がどこにいるかわかりますか!?」
二階堂は三ノ宮に聞く。彼はノートPCで場所を当てた。
「…研究施設だ」
研究施設って…。それにしてもあの地響きは一体なんだったんだ?
畝黒ひとりで起こしたものだっていうの?怪人らしき姿はなかった。
ゼノクはまだ混乱している。
ゼノク司令室では西澤と南がモニタリングしながらヒヤヒヤしている。
指揮権が移行した西澤には指示する権利がない。あくまでも今現在の指揮権は憐鶴なのだから。
「畝黒来てしまいましたよ…明らかに長官狙ってますよ…。西澤は動かなくていいんですか」
南が珍しく饒舌になっている。蔦沼は研究施設にいた。最初から畝黒を待ち構えていた形らしいが。
「どう動けっていうんだよ…。こんな状況でさ」
「私は行きますよ。長官のところへ」
南が席を立った。危険すぎるだろ!
「西澤、私の実力を舐めていますよね?私はただの長官の秘書兼世話役ではないんですよ?
専属エージェントであることもお忘れのようですね」
南は眼鏡をキラリとさせた。
あの堅物な南が長官のために本気になってるよ〜。
そう言うと南は司令室を出て行ってしまった。
南はただの秘書じゃない。長官の両腕が義手になって以降、彼の世話役もしているくらいだ。蔦沼からしたら必要な存在。
その彼が…動いた。
ゼノク研究施設。畝黒はものすごい力で破壊し、内部へと突入するもそこには蔦沼の姿があった。
蔦沼は両腕の戦闘兼用義手を展開させながら言う。
「君がここに来ると思っていたよ。本気出していいかな」
あっけらかんとした言い方の蔦沼に面食らう畝黒。
「お前は長官とは思えない言動だな。今頃首都圏は阿鼻叫喚と化してるのにね」
「君はうちの隊員を舐めているんだろ。不利な状況でも打破するよ。そんな奴らしかいないんだよ、ゼルフェノアはね」
「地下にある例の部屋はどこにある?」
「そこにアクセスしてどうしたい」
「世界を変える力があるんだろ?隠しても無駄だよ、蔦沼」
始まりの怪人・もとい始祖を地下に封印している理由はその力の強さにある。
アクセス出来る人間は限られているのだが、人間にはその影響はほとんどない。
だが、怪人や異形がアクセスするととんでもない事態が起きてしまう。
だからゼノクは厳重に最高機密として封印している。
桁違いに力の強い怪人や異形は透視能力があるのか、知っているようだが。
「人類の存亡に関わることを起こしたくないからね。悪いけど畝黒、帰ってくれないか…って無理か」
「ここまで来たら消すまでだ」
「そうなっちゃうのか…残念だ。じゃあ交渉決裂だね」
蔦沼は義手からいきなり銃撃。畝黒は不意討ちを受けたが避ける。
畝黒は手のひらをかざし、爆破。威力は高い。
遠隔攻撃系か…。それも広範囲も可能とは…厄介な存在だな。しかも人間態でこれをやるなんて。
都内某所C。晴斗もいきなり出現した複数の怪人と交戦中。
よりによって場所が学校の敷地内。
「先生ぇ!今すぐ皆を避難させて!怪人が校庭にいるんだよっ!!それもたくさん!
今ここで戦えるのは俺しかないんだよ!」
晴斗の担任は校庭を見た。そこには異様な光景が広がっていた。
高校は騒然となる。晴斗の高校が襲撃されたのはこれで2回目。
晴斗は愛用の対怪人用ブレード・恒暁(こうぎょう)を呼び寄せて単独、奮闘する。
敵は戦闘員だけど数が多い!
それぞれの戦いは持久戦の様相となる。