まあまあ治安の悪いミステリ・シティの市長、メイ・タンティーは市内でやたらと多発する殺人事件について考えていた。
 彼はシティの平和を守るディテクティブ・ヒーロー出身だ。このたび政界に転身し、ヒーロー任せのザル市政に一石を投じようというわけだ。
「やっぱ第一発見者って怪しいと思うんだわ」
「ソウデスネ」
 秘書のジョ・シューはオールドファッションを食べながら応えた。
「よし、殺人死体の第一発見者は容疑者予備軍として厳しく取り調べるようにしよう」
 そんな風にして、第一発見者を疑う方針は秒で決まった。ザル市政なので。
「もしもし警察ですか? 新本格ビルに見立て殺人の死体があるんですが」
「いきなり見立て殺人とかいう単語を使う第一発見者。怪しいな」
「そ、そんなー」
 だいたいこんな感じのやりとりがあちこちで繰り広げられた。
 結果、市民は死体を見つけても気づかないふりをするようになり、シティの治安は更に悪化した。当然ですね。
「これはまずいな」
 レポートを見ながらメイはうなった。
「よし、方針を撤回する。殺人死体の第一発見者は厚遇することにしよう。500億ミス$進呈する」
「ソウデスネ」
 ジョ・シューはアップルパイを食べながら応えた。
 そうして第一発見者を厚遇する方針が秒で決まった。繰り返すがザル市政なので。
 市民はこぞって死体を探すようになった。500億ミス$当たる無料の宝くじみたいなものだ。暇さえあれば死体を探す。
 殺人事件は目に見えて減った。
 市民の視線が抑止力となった、というわけでもなかった。
「殺したら自分以外が丸儲け」。この事実が殺人犯予備軍にとってすさまじい抑止力となったのである。
 人生をかけた大博打、苦労を伴う決死の行為! それを赤の他人に食いものにされる。とても腹の立つ話だ。そんなん俺/私だって第一発見者側になりたいわってなる。
「早く誰か殺(や)んねーかな」と、まあぶっちゃけ皆して思っちゃったわけです。市民総待ちの姿勢によって、シティに平和が訪れた。
 ある日、殺人事件が起きた。
「あ、あのうー、わたくし、死体をですね、発見したわけなんですがー」
 第一発見者の男がおずおずと名乗りをあげた。
 その頬には爪による引っ掻き傷があった。被害者の死体の爪には何者かの皮膚が残っていたし、男のシャツの袖口には赤っぽい液体(何の液体だろう????)の乾いた跡がある。
 もう明らかにアレです。アレ。絶対アレ。
 そして我らが市長、元・探偵ヒーローのメイ・タンティーは男を指差し力強く叫んだ。
「第一発見者が怪しい!」
「ソウデスネ」
 ジョ・シューは担々麺をすすりながら応えた。