懐かしいもの発掘シリーズその3
かなり自己満足企画ですね、これ… なんかすみません(´・ω・`)
でも暫く続くんだな!
■レビュー■
芸術的でハイレベルな作画と個性的なストーリーでファンの多いえすとえむさんの短編集。
えすとえむさんの作品はなんとなく、異国の風を感じるものが多いです。アーティスティックなbassoさん、みたいなイメージ。
ヒゲ・長髪・オッサン好きは必携では。
以下作品ごと。
■作品ナンバー20
絵画修復士のモーリスには特別な思い入れのある作品がある。
オリヴィエという画家の描いた世界で一番有名な下絵、「作品ナンバー20」
そこに描かれた裸の青年に恋をしたモーリスは修復士になったのだ。
そんなモーリスの元にある朝一本の電話がかかってくる。
「作品ナンバー20が見つかったかもしれない」
下絵でしかその存在を確認されていなかった絵がついに見つかった。
絵の表面に生えていたカビを落とすと現れた美しい青年の姿に「やっと会えた」という思いを抱くモーリス。ところが次の瞬間 絵に描かれていたはずの青年が絵にいない。
驚くモーリスの前に、子供の頃から見つめ続けてきた「絵の中の青年」が絵から抜け出して現れ…? という話。
この作品はもう絵の勝利!と言って過言ではない作品。えすとえむさんのアートな絵柄がストーリーにとにかくピッタリ。
絵から抜け出た青年・イヴは絶世の美青年という設定なのですが、それも全く違和感なし。読みながら「ベニスに死す」の青年が二次元で描かれたらこんな感じなんじゃないかなーなんて思いました。冒頭の「眼」の表現なんて 本当惚れ惚れします。
BLというより、一つの短編作品として非常に完成されていて美しい。えすとえむさんの作品は映画のような濃密さがあってとても素晴らしいです。
■ジャストノットライクアメリーゴーランド
遊園地でメリーゴーランドの制御士をしている稔。
ある日偶然長年の友人・圭が息子を連れて稔の勤める遊園地にやってくる。
圭は現在離婚調停中で息子とは週イチでしか会えなくなるのだという。
稔はそんな圭に長年片思いをしていたのだが…というお話。
短いお話なのですが、なんともいえない切ない哀愁があってとても秀逸な一作です。大人の恋って静かなんだけど、長く引くもの というのが私の持論なのですが、まさにそんな恋愛です。ハッキリ好きと言ったり抱き合ったりするわけではないのですが、そこが逆にいいんですよね。
余談ですが、えすとえむさんって馬がお好きなんでしょうか?馬の絵が恐ろしいほど上手いです。
■ラスゲアード
フラメンコダンサーのヘスス。お金を貰えば誰とでも寝る彼には密かに好きな人がいる。フラメンコギタリストのアルバロ。
彼は一流のフラメンコを見せる店をクビになり、場末の店に移ってきたベテランギタリスト。
言えるはずのない気持ちを抱えていたヘススだが、ある日のショーの最中に下品な言葉を投げ掛けた客にヘススは切れ、アルバロに嗜められる。
「お前は何様のつもりだ。客になんてことをする」
「こんなところで何もわからない観光客相手に本気で踊る意味なんてない」
ヘススの言葉にアルバロは「金を払うから本気で一晩踊れ。俺が客だ」と言い…?というお話。
こちらも「BL?」と思うようなお話。確かに恋愛の話ではあるのだけど、恋愛よりもっと深い部分に踏み込んで、いるような。
何故店では本気で踊らないんだ、と尋ねるアルバロにヘススが「怖いんだ 皮膚も肉も骨も全部なくなって心臓だけ人前にさらすみたいで」と答える、というシーンがあるのですが フラメンコのことはよくわからない私でも思わず震えました。フラメンコって、踊るってそういうことなのか。身体を覆うもの全て失って本当の丸裸になる行為なのか、と。これはもう映画です。素晴らしい。
■en el parque
あらすじはうまく書けない気がするので略!おそらくドイツがユダヤ差別をしていた頃を時代背景とした作品なようです。
結構たくさんあるBL界のタブーのひとつに「病気」「50歳以上の人」がありますが、そんなタブーを扱いつつ 静かで幸せな幕を閉じる作品。
恋じゃなくて、愛の物語です。えすとえむさんは愛を描くのが本当に上手いなぁ。直接的な表現は少ないのですが、作品から漂う濃密な空気が愛を語っているのです。これはもう読んで頂くのが一番早いと思うので是非ぜひ。
+書き下ろし「le visiteur」
作品ナンバー20の続編的な作品。これは何を書いてもネタバレなので触れませんが、イヴとモーリスの関係が垣間見える作品になっています。ラスト2pはコマ割り、アングル、絵、色のバランス 全てが素晴らしくて、思わず惚れ惚れしました。えすとえむさんって本当に漫画が上手い方だなぁ。