えすとえむさんという漫画家さんはなにやら馬がお好きらしい、ということはなんとなくわかっていたのですが(
mblg.tv←以前別の作品をレビューしたときに私しっかり"馬がお好きなんでしょうか?馬の絵がおそろしいほどお上手"とか書いてる)まさかまさか!馬好きが高じてこんな作品を描かれるとは。
驚いた!でも 私この作品がだいすきです*
■あらすじ■
ケンタロウは馬具メーカーの営業として働くサラリーマン。
一見普通のどこにでもいる普通の奴だけど、彼には大きな特徴がある。
ケンタロウは下半身が馬で上半身が人間の…いわゆる「ケンタウロス」なのだ。
作中の世界で、ケンタウロスたちは少数派ではあるが、社会的にある程度認められ、少々の偏見はあるものの立派に社会進出を果たしている。
ケンタウロスと人間の違いは大まかに
1.下半身が馬のようであること
2.人間より遥かに長生きで、千年生きる者もいること
そんな「日常にケンタウロスがいる世界」を優しくて 少しだけ切ない切り口で描くオムニバス短編集。
■レビュー■
今単行本は同じ世界観(つまり日常にケンタウロスがいる世界)を舞台にしたオムニバス短編集になっています。
最初の4話は馬具メーカーに勤めるサラリーマン・ケンタロウを主人公に、それ以降のお話は様々なお仕事に就くケンタウロスを主人公にしています。
その職業とは、ソバ職人見習い 靴職人 モデル ニート志望
ケンタロウ編でケンタウロスとはなんぞや?ということを少しだけお勉強し、その後の短編ではそれぞれの仕事に絡めてケンタウロスならではの悲哀が巧みに語られる…という併せ技一本とられたな!と思わずにはいられない構成になっています。
一番典型的でわかりやすいお話だなと個人的に思う「モデル」の話を例にして具体的に語ってみます。
モデル編の主人公は文字通りモデルさんです。
お話の内容を説明すると、
主人公は美しい容姿を持つケンタウロスで二年先のスケジュールまでいっぱいの人気モデル。
けれど、ケンタウロスの半身を隠すためにいつも足は普通の人間のモデルのを合成してもらうことでモデル活動をしている。
けれど、どうしても引っかかる悩みがある。本当の自分を隠してモデルをしていること。足のある人間をいつも羨んでしまうこと。
そんなある日、彼は街で突然 声を掛けられる。
その男性はデザイナーで、彼にモデルとしてコレクションに出て欲しいという。
コレクションではモデルは服を着てランウェイを歩かなくてはいけないが、それでは馬のような下半身を隠すことはできない。
「無理ですよ」という彼にデザイナーは「なんで隠す必要があるの?俺は君の全てが美しいって言ってるのに」と答える。
その言葉に背中を押された彼はデザイナーのコレクションにモデルとして参加。
彼の履いたケンタウロスの蹄のために作られた靴は高い評価を受けた…というお話。
主人公は素晴らしく美しい容姿に恵まれたケンタウロスですが、下半身が馬であるため、足役のモデルがいなければ成り立たない…自分はモデルとして半人前のような…コンプレックスのようなものを持っている。
この世界ではケンタウロスはいるけれど少数派なため、世の中の広告や服 靴などはほぼ全て、人間向けになっているのです。自然、広告を彩るモデルは人間のほうがいい、ということになるのは自然なことなんでしょう。
ここがケンタウロスならではの悲哀の部分で、持って生まれた変えようのないものであるけれど、ありのままの自分ではモデルとしての存在価値がないことに主人公は深く悩んでいる。
現在ケンタウロスは社会で偏見なく働いている、という設定ではあるけれど あくまで少数派のケンタウロスにはそれぞれケンタウロスならでは悩み、苦しみ…やるせなさのようなものがあるのです。
そのあたりの掘り下げ方にはどれも唸らされるばかり。
ケンタウロスならではの悲哀がエピソードの主軸に据えられているものが多いのは確かですが、決して暗いお話なんじゃなくて モデル編の後半でモデルがであったデザイナーはケンタウロスの身の彼が美しい、と言ってくれるなど必ず美しい救いが用意されているのも素敵なところ。
あとがきでえすとえむさん自身書いてらっしゃいますが、「ケンタウロスがこの世界のどこかにいる」ことを信じたくなるような、優しい作品集になっています。
ケンタウロスって…オイオイと思われる方も多い気がしますが、悪いこと言わないのでぜひぜひ!
あ、最後に余談というかですが 掲載誌がBLなのでBLカテにしましたが、基本的にBLっぽい描写はないです。匂うのはありますが笑