見てきました、新海誠監督最新作「言の葉の庭」

予告編の時点でわかっていた情報「主人公は靴職人を目指す高校生の男の子」「年上の謎めいた女性との恋のお話」「主な舞台は新宿御苑」「ふたりは雨の日に逢瀬を重ねる」にもう既にときめいて「これは絶対大好きな作品になるぞ!」と思っていたのですが、やっぱり大好きな作品になりました。

新海監督の過去作品である「秒速5センチメートル」と比較しつつ、わたしなりのちょっとした考察と感想になりますので、今作「言の葉の庭」と「秒速」のネタバレ要素を含んでいます。お気をつけください。
(ネタバレしてても作品楽しめる派の方は気にせず読んじゃっていいと思うのですが、一応ご注意でした)



いきなりになりますが、私が今作「言の葉の庭」を最後まで見て最初に思ったことは、「秒速5センチメートルに限りなく近い雰囲気の中で全く別の結論、在り方を提示した物語を語った映画、言ってみれば秒速のA面」ということでした。

新海監督の代表作である「秒速5センチメートル」という映画の中で描かれたのは、「幼い恋のはじまりと、時間と距離に翻弄されてふたりの想いがいつしか離れていくまで」という、ハッピーエンドを基本としているはずのアニメ映画の中である種の異彩を放つ結末でしたが、細部まで描き込まれた背景のリアリティも手伝って、「たぶん普通の人にとって、秒速≠ナ描かれた結末こそがリアルな、普通の恋の物語なんじゃないだろうか」という強い衝撃を与えたように思います。
恋する二人が困難を乗り越えて幸せに一生一緒にいました、というアニメ映画で描かれる恋物語の結末とは真逆の、ある種残酷な「現実」を描ききった。

わたしはそんな「秒速」の物語を、「カセットテープのB面」にあたるものだと解釈しています。
とか言ってもわかりにくいので、ちょっと噛み砕いて説明しますと、新海監督の永遠のテーマとわたしが勝手に解釈している「繋がり」というものを軸に考えたときに、「秒速」は「繋がりを失う物語」です。
「こんなんじゃ繋がれないぜ」という、「こうだったら駄目だ」の物語。
けれど、「言の葉の庭」で監督が描いたのは、「繋がりをつなぎ止める」「こうしようよ」の物語でした。
つまりこの作品は「秒速」で書かれた同じテーマを、今度は「A面」から描いたものだと思うのです。

「言の葉の庭」は雨の日、お互いに誰にも口には出せない悩みを抱えて、逃げるように雨の新宿御苑で時間を過ごしていたふたりが出会い、静かに心を近づけていく物語。
根底にあるテーマは「秒速」と同じですが、よりあたたかな気持ちで最後まで見られるのはまちがいありません。

けれど、そんな「A面」の物語にも関わらず、監督がチョイスしたロケーションが「雨の日」であることが大変ひねくれていて、監督は自分のメッセージを眩ませる天才だなぁ、とちょっと微笑ましく思いました(笑)
雨というのは、言うまでもなく殆どの人にとって憂鬱で「暗い」イメージのシチュエーションで、古今東西の作品に「悲しい」シーンの演出のために登場しています。
雨の中、恋人がどこか遠くに離れていく、とか定番ですよね。
けれどそんな「雨」を、「言の葉の庭」のふたりは待ち望むのです。
その日だけ、ふたりは「会ってもいい」と決めている。どちらがそう言ったわけでもなく、自然に二人の中でわきあがった「取り決め」として。
次に彼女に会える雨はいつだろう、と彼は待ち望み、彼女も「今度の雨には会えるだろうか」とどこか期待する。
雨はふたりにとって、息苦しい日々の中で幸福を感じられる「恵みの雨」です。

そんなあたりが「秒速」で決定的な「別離」の瞬間を美しい桜の描写とともに描いた監督らしい。
桜の咲く季節は4月で、日本では「始まり」の季節。
入学式といえば桜。なのに、監督は桜を最後に別れの象徴として描いている。
あのシーンはとても美しいですが、同時に捻くれていて、そこが監督らしさだなぁ、と。普通「別れ」を「雨」で、「はじまり」を「桜」で描くところだと思うのですが。

また、新海作品の背景の美しさは自主制作映画だった「ほしのこえ」から綿々と続く重要な要素ですが、今回もそのあたりは爆発していて、ほんとうに綺麗です。
パンフレットの解説によりますと、背景となる色を人物の陰にも反映させる「反射色」という技法を使った表現を試みているそうで。
人物の陰の中に緑が置かれていたり、光の中に黄色が混じっていたりしているのですが、ものすごく自然でかつ独特の美しさのある映像になっていて、絵のことは素人のわたしでも感動しました。
また、個人的な感想ですが今までの新海作品でいちばんキャラクターデザインが好きです。
人物のタッチが「星を追う子ども」よりも大人っぽく、かつジブリにも通じるクセのない絵柄に変化しているのが好きです。
この絵柄で「秒速」や「ほしのこえ」を見てみたいなぁ、なんて妄想してしまう。

加えて、新海作品を見るといつも思うのですが、新海監督の描く「美しいもの」はわたしたちの身近にいつも存在しているのに、その美しさを普段忘れてしまっているもの、ですよね。
パンフレットの中で「秒速」のノベライズを手がけてらっしゃる加納さんがおっしゃっていた「美しいものがあるのではない、美しいものの見方があるだけなのだ」という言葉に激しく頷きました。
わたしたちは美しいものに囲まれて生きているはずなのに、普段は心の目を曇らせていて、美しいものを見逃しているんでしょう。
こんなに美しい世界に生きている幸せに感謝しないとなぁ、としみじみ思いました。

もの悲しい雰囲気なのに、どこまでも優しい・暖かな映画ですので、興味のある方はぜひ!そして新海作品にはまってしまってください〜* そしてあわよくば誰かと語り合いたいわたしです。ソワソワ。



※本作には同時上映の「だれかのまなざし」というショートもありました。
これも素敵だったのですが、感想を書くとオールネタバレになるので自重です。
こっちもあたたかな気持ちになれますよ。
家族って素敵。