女優の吉永小百合が、2021年公開の映画『いのちの停車場』で主演を務めることが発表された。出演作122本目にして初の医師役に挑む。今作には、松坂桃李、広瀬すず、西田敏行、田中泯という豪華な面々が顔をそろえることも発表された。

本作は、命の終りを真摯に見つめる現役医師ながら、2016年に現代の終末期医療の在り方を問うミステリー[サイレント・ブレス]で作家デビューし、2018年には日本の医療界の現実をえぐりながら、医師たちの成長と挫折を描いたヒューマンサスペンスで、NHKで放送中のドラマの原作である[ディア・ペイシェント]などの作品で知られ、都内の終末期医療専門病院に勤務する現役医師で作家でもある南杏子による同名小説(幻冬舎)を実写映画化。南氏の同名原作は、日本の長寿社会における現代医療制度の問題点や、尊厳死や安楽死といった医療制度のタブーに正面から向き合い、それらに携わる医師、患者、その家族を描いたヒューマン医療ドラマ。昨年の夏前に原作と出合った吉永がその内容にほれ込んだそうで、コロナ禍で“いのち”について考える機会が多くなっている昨今だからこそ、生きることの大切さ、素晴らしさを伝える映画として、東映が製作を決めた。

吉永サンは1959年公開の[朝を呼ぶ口笛]で銀幕デビュー。以来、代表作[愛と死をみつめて;'64]、[夢千代日記;'85]、[母と暮せば;'15]、“北の三部作”最終章である[北の桜守;'18]、、[最高の人生の見つけ方;'19]と生死に関わる患者役は多く演じてきたが、主演を務めたまで121本の作品に出演してきたが、意外にも医師役とは縁がなかった。

医師役への初挑戦を考えていた吉永サンは、運命の出会いは昨春だった。終末期医療の専門病院に勤務し、終末期医療や在宅医療をテーマにした小説を執筆している南氏の作品に出会い、吉永サンは映像化を熱望。関係者を通じて南氏にコンタクトをとると、ちょうど新作[いのちの停車場]を執筆中だったことから、同作の映画化が決定した。原作と同時並行で脚本作りが始まり、吉永は脚本家らと何度も打ち合わせをして映画の骨格を練り上げてきた。今年5月27日の小説発売と同時に映画化も発表され、大きな話題となった。

コロナ禍の影響で3カ月遅れの6月から、07年より在宅医療を行う栃木県下野市に実際にあるつるかめ診療所の鶴岡優子医師や東京女子医大病院救命救急センター長、矢口有乃医師の指導を受け役作りに励んでいる。血圧計、聴診器の使い方、患者との接し方をマスターし今回、手術シーンはないものの患者に処置を施す場面もあり、役作りに並々ならぬ情熱を傾けている。

また、医大の卒業生で、咲和子と同じ大学病院に事務員として勤めており、咲和子を追って「まほろば診療所」で働くようになる青年・野呂聖二役を松坂桃李、「まほろば診療所」を支え続けてきた訪問看護師・星野麻世役を広瀬すずが演じる。2人ともに吉永サンとは初共演。秋のクランクインを待ち望んでいる。

「まほろば診療所」の三代目院長であり、在宅医療に長年携わってきた医師・仙川徹役には92年公開映画[天国の大罪]以来の共演で、診療所院長を演じる、吉永サンから「にしやん」と呼ばれている西田敏行。また実家に帰ってきた咲和子を温かく迎える元美術教師の父親・白石達郎役には田中泯が決まった。田中サンも吉永サンとは今回が初共演となる。在宅医療に真剣に向き合おうとする吉永サン演じる咲和子を、西田サン演じる院長・仙川、そして田中サン演じる父親の達郎がどのように支えていくのかにも注目だ。

本作のメガホンをとるのは成島出監督。[八日目の蝉;'12]で第35回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞し、吉永サンが主演をつとめた[ふしぎな岬の物語;'14]でも第38回日本アカデミー賞優秀監督賞、第38回モントリオール世界映画祭の審査員特別賞グランプリを受賞。その後も[ソロモンの偽証 前篇・事件 / 後篇・裁判][グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜]など話題作を手掛ける、映画界を代表する監督のひとり。吉永サンとは[ふしぎな岬の物語]以来のタッグとなる。

また脚本を手掛けるのは平松恵美子。近年の山田洋次監督の作品のほとんどに助監督として関わるとともに共同脚本を務め、これまで[母べえ;'07]、[おとうと;'10]、[母と暮せば;'15]といった吉永サン主演作の脚本を担当。これらの作品や[家族はつらいよ]シリーズで日本アカデミー賞優秀脚本賞を9度受賞している平松氏がどのような物語をつくりあげていくのかも見どころ。

9月上旬からのクランクインに向けて、なお撮影準備中の現在も、抗体検査を徹底し、打ち合わせなどの際はフェイスガードの着用、アクリル板による仕切りによって新型コロナウイルス感染症対策をとっている。今後は全スタッフ、キャストがPCR検査を受けたうえで、可能な限り現場でもフェイスガードを着用するなどの対策をとって撮入するという。


◎『いのちの停車場』あらすじ
救命救急医として、長年大学病院で患者と向き合ってきた白石咲和子。とある事情から石川県にある父の住む実家へと戻り、在宅医療を通して患者と向き合う「まほろば診療所」に勤めることになる。

「まほろば診療所」の院長・仙川徹をはじめ、長年診療所を支えてきた看護師の星野麻世、また自分を追い掛けて診療所へやってきた元大学病院職員の青年・野呂聖二たちと、在宅医療という、これまで自分が行ってきた医療とは違った形で“いのち”と向き合う。

はじめはその違いに戸惑いを感じる白石だったが、まほろばスタッフに支えられて徐々に在宅医療だからこそできる患者やその家族、そして“いのち”との向き合い方を見詰めていくようになる。


▽吉永小百合コメント
幼い頃、身体が弱くて何度も入院し、素晴らしい先生に救(たす)けていただきました。今、私はどんなドクター像を作ることが出来るか、心が弾む毎日、しっかり準備します。
医療関係の方々へ感謝の思いを込め、“生と死”をしっかり見詰める作品をみんなで力を合わせて作ります。

▽松坂桃李コメント
今回、吉永小百合さんとご一緒できること、大変うれしく思います。と同時に物すごく緊張しております。命の尊さが温かく、時に残酷なくらいゆっくり伝わってくるこの感情を大事にしながら、向き合っていければと思います。
成島組の現場は初めてですが、本読みやリハーサルを重ね、しっかりと溶け込めるよう、良い緊張感をもって臨んでいきます。

▽広瀬すずコメント
成島監督、吉永小百合さんをはじめ、このような素敵な共演者の皆様と一緒にお芝居ができることを、そわそわしながらも、楽しみで仕方がありません。演じる麻世さんも、彼女の色んな心に触れられるよう、まほろばの家族と一緒に楽しみながら一生懸命演じられたらなと思います。

▽西田敏行コメント
憧れの吉永小百合さんを座長に頂き、「いのちの停車場」という作品に参加出来ることで、齢72の私は、喜びと緊張で生きる力が、みなぎって参りました。
この「いのちの停車場」の持つテーマと哲学を皆さんに投げ掛け、生きる事、死ぬ事への思いを巡らせて頂けたら、幸甚です。誰も避けては通れない死とは?

▽田中泯コメント
私は二人居ない。そしてたった一度の人生を生きている。「その人」も唯一無二の人生を生きる人だ。台本の中の「その人」に僕は震えた。言葉で書き上げられた台本をこんなにうらめしく思ったことはない。
「その人」となって僕が映画の中に居る?居たい!僕の全身は本当を見つけられるのか、不安だ。が、絶対に「その人」をそこに居させてみせる。

▽成島出監督コメント
主演の吉永小百合さんをはじめ、若手実力派俳優の松坂桃李さん、広瀬すずさんなど、豪華なキャスティングで本作を迎えることができ、ワクワクしています。
現代日本が抱える医療制度の問題点を背景に「“いのち”とは何か」を問い掛けます。そして作品を通して“生きる希望”が持てるように仕上げたいと思います。

▽原作者・南杏子コメント
映画化のお話を頂いたときは夢かと思いました。原作者としてこれ以上の幸せはありません。多くの方々の力で小説が三次元に立ち上がり、新鮮な命が吹き込まれるのを楽しみにしています。
吉永小百合さんに主役を演じていただけるのは本当に感激です。ベテラン女医ブームが来る――と確信しています。


映画『いのちの停車場』は2021年全国公開。