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海と思い出

ある日の夜、珍しくケンから電話がかかってきた。

出てみると、なんだか元気がない。何かあった?と聞く私にケンは「最悪だ、もう終わった」と珍しく弱気な事を言ってきた。




「転勤だって。2年間。ド田舎に」


もうやだ。仕事辞めたい。行きたくない。都会に憧れて田舎から出てきたのに。2年とか無理。絶対辞める。



ケンには悪いけど、何だか可愛い所もあるなと思ってしまったのは内緒。



取り敢えず悲しみに打ちひしがれるケンを慰め、私はすぐ様新幹線の切符を手配した。



ケンが渋々転勤を決め、引っ越したと聞いた翌週。私はケンに内緒で新幹線に乗っていた。行き先はそう、ケンの転勤先。


新幹線で3時間。更に電車を乗り継ぎ乗り継ぎ…半日以上かけてようやく到着した。


駅でケンに電話を入れる。「あんたん所に来ちゃったんだけど、駅まで迎えにきてくれる?」と言うと「はぁっ!?」と鼓膜が破れる程の大音量で返事が返ってきた。


30分後。ケンが車で迎えにきてくれた。


ケン「嘘だろ、マジで来てるし」


私「来ちゃった(テヘペロ)」


ケン「てか言えよ」


私「サプラーイズ!」


ケン「てか俺仕事中なんだけど」


私「ごめーん、仕事終わるまでアパートで待ってるよ」


ケン「いや…いい。もう上がるし」


私「いいの?」


ケン「いいの!!」



何となく、ケンの顔が赤い気がした。


ケンのアパートは、引っ越したばかりでまだ段ボールの山だった。
けれどAVはバッチリ揃えてテレビの前に鎮座してある所がケンらしい。隠す気ゼロ。


その日はケンが引っ越してすぐ見つけたという美味しい定食屋さんへ行き。海浜公園でこっそりキスをし。帰ってからは…



次の日はケンも休みだったので、少し遠出をして砂浜の綺麗な海辺を歩いた。海を見ながら「いい所じゃん」と言うと「まぁね、住めば都にしてみせますよ」とケンが言った。



夕方。私の帰る時間。
駅までケンが送ってくれた。後ろ髪を引かれながらも電車に乗り、笑顔で手を振りあった。

電車が出発し、ケンが見えなくなった頃。一通のメールが届いた。差出人はケンからで…



「来てくれてありがと」


とだけ記されていた。





ここが田舎で良かった。
電車に乗っているお客さんはほんの数人。ボックス席だから誰にも気付かれない。



私はもう、溢れる涙を堪える事は出来なかった。

一方通行

ご無沙汰しております。ちょっと環境が変わってバタバタしてました。

では続きです。





ケンとの関係は相変わらず。夜寝る前に電話で他愛ない事を話し、電話を切った後少し泣き、寝る。
たまに貴宏から連絡が来ては一緒にご飯を食べに行く。

ケンには貴宏の事は話さなかった。


何だろう、この関係は。




別に貴宏とは何もない。ケンに貴宏の事を話しても何も支障はない。
けれど話したくなかったのは…


ケンと私は付き合ってないから。
ケンの事だ。貴宏の事を話せば「いい男見つかってよかったじゃーん」なんて言うだろう。
そんなの聞きたくない。怖かった。







ある夜。仕事を終え帰宅しようとした時、貴宏からメールが届いた。

これから会えない?といった内容で。

私は深く考えず「いいよ」と返信した。



待ち合わせ場所に着き、ご飯どうしよっかとなった時、貴宏が「俺結構料理得意だから、何か作ろっか」と言い出した。


それってつまり…貴宏の家に行くって事…?


どうしようかと戸惑う私に貴宏は「何もしないから(笑)」とおどけて言った。



貴宏の家は、駅の近くの高層マンションだった。

こんな所に一人暮らしと驚く私に貴宏は、「ちょっと前までは彼女と住んでたんだけどね」と言った。

少し寂しそうな横顔が印象に残ってる。






貴宏の料理は完璧だった。

優しくて、イケメンで、気がきいて、いい所に住んでて、料理ができて。
なんだお前はパーフェクトボーイか。




しかしこの夜、私が何故貴宏に全く惹かれないのか。その理由がハッキリ分かる事になる。





帰り際、マンションから出ようとした時だ。
突然貴宏が「ちょっと隠れて!!」と言ってきた。

訳も分からず壁際に隠れると、貴宏はある一点を見つめ、一瞬悲しそうな顔をするとまたいつもの顔に戻り、私に「ごめん、もういいよ」と笑いかけてきた。



どうしたの?と聞くと、貴宏は少し困った顔をしながら「ちょっとね…前の彼女に似た人がいたから。もしかしたら戻ってきたのかと思って…ホント…ごめん」と言った。





そうか。私が貴宏に惹かれなかった理由。

貴宏はまだ彼女の事が好きなんだ。忘れられない恋をしている。寂しいんだね。

私もそうだ。叶わない恋をして。会いたくても会えなくて。毎日寂しくて泣いている。


同じ境遇の二人が、お互い傷を舐め合っているだけだったんだ。



またくるね、そう言ってその日は別れた。





寂しさで心が押し潰される。それでも私たちは生きている限り、恋をしている限り、何かに縋り自分を慰め、前を向かなきゃいけないのだ。

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