結婚を決めてまずしなければならない事。


お互いの親への挨拶。


浩太も私も、これまで一度も挨拶へ行った事が無かった。それは浩太の両親の意向で、「本当に結婚したいと思った子しか家には連れてくるな」と言われたからだそうで。


一家全員公務員というし、ものすごく厳格な両親だったらどうしようかと緊張したが、会ってみるととても優しい両親で安堵した。



浩太もうちに挨拶に来た。髪を真っ黒に染めて。
私の両親はもともと適当な両親だ。反対する事もなく「あ、結婚するの?」みたいに簡単に済まされた。




そして一番の問題は両親より、そう。職場への報告だ。




社長は本社にいる為、取り敢えず職場で一番権限のある工場長へ報告。浩太と一緒に「話があります」と言うと、察したのか応接室へ通された。




浩太「結婚、しようと思います」



工場長「そっか…うん。付き合ってたのは何となく分かってたから、いずれそうなるだろうとは思ってたよ。そうかぁ、結婚…か。いや、おめでとう」



浩太、私「ありがとうございます」



工場長「じゃあ社長には俺から言っておくから」













そして数日後。



本社から社長がやってきた。総務部長を引き連れて。
さぁ、いよいよラスボスの登場だ。





さっそく私は会議室へと呼び出された。



社長「浩太君と結婚するんだってね」



私「はい」



社長「そうか。うん、まずはおめでとう。」



私「ありがとうございます」




社長「それでね、こういう事は今まで前例がなくてね。総務部長とも話し合ったんだ」



私「はい」



社長「君はこの工場の経理をやってるだろ?とても重要なポジションだ」




そうなのだ。私はこの工場のお金の全てを任されている。
通帳、金庫、手形、小切手、従業員の給料etc…




社長「会社の内部事情を知っている君が、同じ会社の従業員と結婚となると、このままじゃ困るんだよ」




そんな気はしていた。覚悟が全く無かった訳じゃない。所詮は小さな中小企業だ。そんな優しいものじゃない。



社長「君はよく仕事が出来るし、こういうのは申し上げ難いんだが。…辞めて貰う事になるんだが、いいかい?」





そう、覚悟が全くなかった訳じゃない。けれど面と向かって言われると、少しショックだった。





私「はい、分かっています」






浩太は最後まで不満そうだったが、私は「どうせ定年まで働く気もなかったし、寿退社で丁度いいよ」と何とかなだめた。






事務所での送別会では、木元君が大きな花束を用意してくれた。
そして、若い従業員達みんなで、居酒屋を貸し切って結婚を祝ってくれた。30人分位はあるような大きなケーキを用意してくれた。



恥ずかしさで死にそうになっていた浩太をみんなで小突いて笑った。






そして、私はこの会社を辞めた。