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忘年会

木元君が帰ってくる!


忘年会が終わったら、木元君は次の日には本社にとんぼ返りしなければならなかったが、私はワクワクしていた。まるで弟みたいな、可愛い可愛い部下。久々に会える!嬉しい!






浩太は最後まで行く事を渋っていた。
浩太は飲み会が苦手だ。特に職場の飲み会は。
飲み会の雰囲気も嫌いだし、酔っ払ったウザい上司に絡まれる位なら美味い飯を食べに行きたいといつも言っていた。

そんな理由で、これまで浩太は会社の飲み会はいつも欠席していたのだが。
私が行くとなると話は別らしく、渋々ながら参加する事になった。



そして忘年会開始ー。


場所はとある温泉旅館。居酒屋にこの人数は入らないからね。広い大広間を貸し切っての大忘年会だ。


開始と共に、綺麗なお姉さん達が数人入ってきた。


司会「今年はコンパニオンのお姉さんをお呼びしましたー!」

一気に親父達が浮き足立つ。ウッザ!!!



私「私聞いてないんですけどー」


お局様「まぁまぁ、お酌しないで済むからいいじゃない」


私「男共の視線がキモ過ぎる」


お局様「キモいわねー」



そんな感じで私はお局様と一緒に飲んでいたのだが。


ふと浩太の方に目をやると。



なんと!




浩太がコンパニオンに囲まれてる!!!



えぇええええ!!!???


な、なんでなんで!?




私が固まっていると、毎度お馴染み斎藤さん(30)がそれに気付き、私にこう言った。



斎藤さん「あーらら、浩太女にモテそうだもんなー。本人毛ほども興味ないけど。そこがモテんだろうなー。けどコンパニオンはみんなのものだ。俺が何とかしてきちゃる」


そう言って斎藤さんはコンパニオンの輪の中に無理くり入って行き、見事バラけさせた。



そうか、浩太はモテるのか…。
今まで女の人と一緒にいる所を見た事が無かったので知らなかった。新事実。




それから、私は無事木元君と再会し、「久しぶりー」「お久しぶりっすー」と当たり障りのない挨拶をし、本社での生活や仕事の事などを話しながら時間は過ぎていった。





宴もたけなわ。


二次会は、事務所と工場で分かれる事になった。
浩太は「もうウンザリ」と言った様子で二次会へは行かず帰る事にしたらしい。
私は事務所のみんなに誘われるまま二次会へ突入。




二次会は居酒屋で行われる事になった。
もちろん、木元君も一緒に。



同棲

初めてする同棲生活。

一緒に生活する事で、生活習慣の違いから価値観のズレが気になり破局するカップルが多いと聞いていたが、私と浩太はそこそこ上手くやっていた。


浩太は基本的に優しい。
他人同士だもの、生活習慣や料理の味付けが違うのは当たり前だ。

同棲する上で家事全般は私の仕事だったが、浩太はそれに口を挟む事は無かった。インテリアも全て私の趣味に合わせてくれた。



たまに喧嘩もする。私の至らない点は容赦なく叱ってくれた。
喧嘩しても、私が不貞腐れていると浩太がすぐに折れてくれた。大抵の喧嘩は私が悪いのに、プリプリしてる私の背後から「いつまで怒ってんの」と抱きしめてくれる。こうされる事に私は弱かった。
浩太は大人だなぁ…




お互い職場の人には付き合ってる事は言わなかった。



……が、何故かみんなにバレていたようだ。上層部を除いて。




斎藤さん(30)曰く、「言わなくてもお前ら見てれば分かるわ」だそうだ。



一度、浩太を可愛がっている工場の古株「爺ちゃんズ」に聞いてみた事がある。


私「ねぇ、爺ちゃんズは何で浩太を可愛がってるの?」


爺ちゃんズ@「爺ちゃんズじゃない、秋本さんって呼べ。こいつと一緒にすんな」

爺ちゃんズA「俺の方こそこいつと一緒にすんな」


私「(仲良しだなー)…んで、爺ちゃんズはなんで浩太を可愛がってんの?」


爺ちゃんズ「「………」」



爺ちゃんズ@「浩太か。あいつは他の若いやつらとはちょっと違うな」


爺ちゃんズA「度胸がある。俺に初めて会った時も敬語なんて使わなかったしな(笑)」


爺ちゃんズ@「俺たちに叱られれば大抵の連中は尻込みする。けど、浩太は違った。何でだ!?って食ってかかってきた。」



爺ちゃんズA「浩太のあの見た目もだな。あれワザとやってんだろ。自分を見た目で判断しない奴にしか心を開かない。そういう所だな、気に入ったのは」




私「ふ〜ん…。そっか、ありがと」


爺ちゃんズ「でも壱、あいつはやめとけ。なかなか頑固だぞ」



私「ん〜?そうねー、どうかなー?」



爺ちゃんズ「まさかもう付き合ってるんじゃないだろうな」



私「ん〜?んーどうかな〜?あははは、じゃあねー」





その日の晩、浩太が「何か今日爺ちゃんズに殴られたんだけど」と言っていたが知らない。←






そして季節は過ぎ、年末。
毎年恒例の、社内全社員揃っての忘年会が開かれる事になった。



本社からも、社長を始め、総務部長や営業部長なども参加。


そして、本社に単身赴任中の木元君も参加する事になった。

感情

あれは今でも忘れられない。



初めて見た







浩太の涙













「ねえ、ちょっと話があるんだけど」
そう言って私を呼び止めた大家さん。
見た目は60代後半、いつもバッチリメイクをしている気の強そうなマダムといった印象だ。


「はい、何ですか?」
早く帰りたいんだけどな〜と思いつつ大家さんに向き直ると、大家さんは開口一番にこう言った。






「あなた、男の子連れ込んでない?」






え…



いきなり何を言い出すんだろう。返答に困っていると。


「駐車場によく車が止まってるじゃない?」



確かに浩太がアパートに来る時は、空いている駐車場のスペースに車を置かせて貰っている。
しかし、それは大家さんが「ここ空いてるからいつでも誰か来た時に使っていいよ」と言ったからだ。
浩太が来るのだって週に1回位のもので。





私「すいません、ちょっと頻度が多かったですか?」

と私が聞くと、大家さんは大きく溜め息をつき。



「まぁねー、確かに使っていいとは言ったけれど。まさかあんな子連れ込むとは思わなかったから」




は?何…?あんな子って…?



「あんな金髪でチャラチャラした子!うちの周りウロチョロされたらご近所に何言われるか!あなたはそんな心配ないと思ってたのに残念だわ。ね!もうあの子を連れて来るのはやめてね。それから、駐車場を使った分、一万円を罰金として徴収しますから。分かった?」



言う事言って大家さんは帰って行った。









何を言っているの。
この人は本当に人間なの。


始めはただただ驚愕で頭が回らなかった。
次第に湧いてきたのは怒りと、そして悲しみ。



浩太に何て言おう。
浩太に何て言おう。
浩太に…



悔しさと怒りでどうにかなりそうだった。
浩太の照れた笑顔を思い出すと泣きたくなった。










次の日、浩太に会う事にした。

浩太に全て話し、引っ越そうかと思うと伝えた。


浩太は静かに聞いた後。



「大家んち、どこ?」


と聞いてきた。


「大家と話がしたい。大家んち教えて」





ヤバい、と思った。
完全にキレてる。



「だっておかしいでしょ。たまに使っていいっつーから使っただけなのに罰金って。俺の事はいいよ何とでも好きに言えばいい。そんなん慣れてる。でも何で直接俺に言わない!…だから話してくる。場所教えて、お願い」




教えては駄目だと思った。
私だって腹が立つ。本当に。大家を殴りたい位。
でも浩太に居場所を教えればそれこそ…穏便に済まなくなる。

我慢だ。冷静になれ。


私が頑なに頭を横に振ると、浩太は「くっそ!なんで!!なんでだよ!!」と声を荒げた。




私は泣きながら「ね、引っ越そう?んでもっともっとずーっと一緒にいよう?邪魔されない場所で、一緒に暮らそう?」



今思えば逆プロポーズのようだったと思う。




浩太は黙って私を見つめた後「…………ごめん、俺のせいで」と言って一粒の涙を零した。

















そうと決まったら即行動!!
不動産情報を徹底的に調べ、すぐに新居を決めた。
新しい大家さんに二人で会いに行き、同棲しても大丈夫か尋ねると、快くOKしてくれた。「大変だったね」と言って貰えて少し気分が晴れた気がした。




前の大家には、微塵も心の篭ってない「大変ご迷惑をお掛けしました」という手紙に一万円を添え手渡した。
大家がドアを閉めた後、「こんなん(一万円)くれてやるよっ!!」ベー!!としたのは言うまでもない。





そして私と浩太は新しい場所で、同棲を始める事にした。

恋人

20数年生きて来て、初めて恋人と呼ばれる人ができた。








浩太はすごく私を大切にしてくれる。
言葉数は少ないけど、その分態度で示してくれた。


こんなに大事にされた事、今まで無かった。



私も同じ位浩太を大事にしなきゃ。
もう、軽率な行動や軽口はやめよう。
言葉を大切にする浩太を見習わなきゃ。




「自分が言われて嫌な事は相手に言わない」


それが浩太の教え。



思った事をポンポン口に出していた自分を恥じた。
もっと相手の…浩太の事を考えよう。





毎日がとても幸せだった。


念願だったバイクの後ろに乗せて貰い、髪が有り得ない位絡まる事を知った。


浩太はちょくちょく私のアパートに遊びにくるようになり、私の作ったオムライスを「美味い美味い」と食べてくれた。










そんなある日、仕事から帰るとアパートの前に人が立っているのが見えた。






大家さんだ。



「こんばんは」そう言って通り過ぎようとした時。



「ねえ、ちょっと話があるんだけど」と呼び止められた。

告白

それから、週末になると浩太と会うようになった。

浩太は自分から自分の事を話さない。
話すのが得意ではない浩太だったが、私が質問すれば少しずつ答えてくれた。

会う度に少しずつ、少しずつ浩太の事が知れるのが嬉しかった。


小さい頃はサッカー少年だった事。


学生時代、いつも後ろの席で寝てるかお菓子を食べていたという事。

親や兄妹はみんなエリートで、自分だけが出来損ないだという事。(そんな事はないと思うけど)

そのせいで、反抗期はかなり荒れていたという事。

今まで親に沢山迷惑をかけたから、仕事を始めてからは真面目に働こうと決意した事。

バイクが趣味で、休みの日はいつもツーリングをしているという事。


そして私の事も。




浩太「俺あんま恋愛とか興味なくて。車やバイクいじってる方が楽しいし。だから俺の周りヤローばっか(笑)


けど、壱がこの会社に入った時、みんなの前で挨拶したじゃん。始めは可愛い子が入ったなー位であんま興味はなかったんだけど…。


たまに仕事中工場に来ると、壱いっつもニコニコしてんじゃん。なんか癒されるなーと思って。


それから昼休みの野球に参加するようになったじゃん。まぁ俺はやらないけど。
普通女が一人で参加するか?(笑)なんかこいつ面白れーって思って。
今まで会った女はみんな気が強くて、いつも怒ってて。

壱みたいな女は初めてで。
壱は俺に無いものいっぱい持ってんなって思って。
笑った顔もっと見てーって思って。
んで事務所の斎藤さんに相談して…」




顔を真っ赤にして言う浩太につられて私まで恥ずかしくなった。


私はそんな大層な人間じゃない。
浩太のように物事をハッキリ見極められないし。いつもフラフラ流される。



浩太「そういうのも、俺が守ってやりたいって思う」




そして3度目のデートの帰り。
アパートの前に止めた車の中で、浩太に告白された。




「俺と付き合ってください」





もう、答えは決まっていた。