ちょっとした日常。
オチなし。
自己満足。
話題:創作小説
最後の登り坂。
母ちゃんはギアとか一番軽いやつにして亀速度で登るらしいけど、俺はこのママチャリを立ちこぎしてマッハで通りすぎるぜ!
「うおぉぉ、何か俺の内なる力よ目覚めろー!」
中1にして中2病発言をしながら飛ばす俺。
なんか、通りすがりのじいちゃんが笑ってたが、入れ歯が飛び出しそうな方が気になった。
「っしゃ!着いた〜。
お疲れ、ママチャリ〜」
汗だらだらだけど、お前(ママチャリ)のおかげでいち早く家に帰れたぜ。
さぁ、玄関開けて部屋に一直線だ!
「りょーまー!」
「こら、勇(いさみ)!
ただいまでしょ!」
チャリを置く音で俺が帰ってきたのがわかったらしい。
母ちゃんが花柄フリフリエプロン姿で仁王立ちしてた。
「あはは!久しぶりに変なエプロン着てる」
「注意されてるのに笑う子がいますか!
しかも、変じゃない!」
だって変なもんは変だ。
普段はエプロンすらしないんだから。
「エレガントママ風エプロンだっけ?スリッパもおそろ。
面白いよね」
本当だスリッパも花柄だー…じゃなくて
「りょーま!見てみて!」
母ちゃんの格好を面白いとか言いながら二階から降りてきた兄ちゃんは、ポテチ食いながらリビングに入っていく。
いいな、ラフな格好&ポテチ!
今日は日曜日だから、出掛けたの部活の俺だけなんだよね〜。
「りょうままで、面白いって…!
お父さんに一番似合うの買ってもらったのに!」
「子供達が見慣れないだけだろう」
盆栽いじくってる父ちゃんがぼそりと母ちゃんの肩を持つ発言をした。
父ちゃんは母ちゃんに甘いんだよな〜。
あと、膝に乗っけてるミケにも。
「ぶにゃ〜」
鳴き声の通りミケはデブ猫だ。父ちゃんのおやつあげすぎで太った。
まんまるで面白いけどな。
「で、俺に何見せたいの?」
「おう!これこれ!」
少年の夢がつまった分厚い本…週刊少年ジャンピング!
「の、ゲーム情報ページ!」
「ほぅ、俺に報告するからには生ぬるい情報じゃないな?」
「へっへっへっ、もちろんですよ旦那」
情報料としてポテチ三枚はもらわなきゃわりにあわんくらいだぜ!
でも、タイミング悪い日ってあるよな。
ピンポーン
きっちり3時。
わかっちゃいたが、あいつは1秒も遅刻したことがない。
「は〜い♪」
作り声母ちゃんが我先にと玄関に向かうが、来たのは俺の友達のはずだ。
とりあえず、ジャンピングをりょーまに渡して玄関に向かうか。
「ようこそ♪
遠いところからありがとうね」
「い、いえっ。
こんにちは。
ご無沙汰しています」
「今日子、おまっ『ご無沙汰』とか大人か!」
同い年だけど、ご無沙汰とか使ったことねーわ。
「も〜、勇ったら礼儀がなってなくてごめんね」
でた。
どこかの幼稚園児も屈服するというグリグリ攻撃。
「いででで!
人前でこういうことするとか、どっちが品がないんだ!
りょーま!お前の母ちゃんなんとかしろや!」
「お前の母ちゃんでもある」
「は!!そうだった!」
俺のボケに今日子が口に手を当ててクスクス笑ってる。ふわふわ茶髪に赤いリボンが一緒に揺れてる。
「ま、ずっと立ってんのもなんだから、あがって。
母ちゃん邪魔でごめんなー」
「誰が邪魔よ!」
これまた今日子がクスクス笑いながら靴を綺麗に揃えて俺についてくる。
「お邪魔します。
お父さん、お兄さん、こんにちは」
リビングで荷物回収した俺の後ろで、二人にもぺこぺこする。
そんな一人一人挨拶なんかしなくてもいいのに。真面目だなぁ。
「ども」
「ごゆっくり」
父ちゃん達が軽く返事をしたのを確認して二階の俺とりょーまの部屋へ向かう。
「あとでジュース持っていくわね♪」
という母ちゃんは、なぜか今日子がくると30分おきに部屋を覗きに来る。
今日子のこと、可愛い可愛いって言ってるから何度も見たいんかな?
暇人だなぁ。そして、毎度邪魔だ。
「ポテチくん、今日はどこから考えようか?」
テーブル向かい合わせに座って、教科書一式と分厚い本を並べる。
「うーん、この街には前に行ったんだっけ?」
必要なのは分厚い本だけ。そこに載ってる地図を指差してたずねれば、今日子はこくりと頷く。
「行ったよ。
だから、次はここの街のお屋敷に行くのはどうかな」
「そっか。そこに行けば問題一つ解決すんのか」
「うん、二人で行ってご両親に挨拶を…」
バーン!!
と、登場したのは母ちゃんでおやつとジュースを持ってきた。
今日子がご丁寧に立ち上がってお盆を受けとる。
「お母さん、ありがとうございます」
「あ、挨拶って、今は何のお勉強をしてるの?
おばちゃん気になるな〜」
「えっと、挨拶は、あの…」
母ちゃんぜってー扉にはりついてたろ。
今日子は嘘へたなんだから聞くなよ。
「英語だよ。
いろんな挨拶の仕方を書くんだって。
ほら、教科書のここ」
「へ、へ〜。
なんだ…」
なんだってなんだ。
どうして落ち込んでるんだろう??
それから何度か母ちゃんの乱入にあったが、まぁいつも通り『作戦会議』は無事終わって、りょーまのチャリ借りて今日子を駅まで送る。
「母ちゃんうるさくてごめんな」
「んーん。
賑やかでとっても楽しかったよ。
お母さん、ポテチくんのこと大好きなんだね」
「え〜?母ちゃんが好きなのは今日子の方だと思うぞ?
いつも『娘にほしー!』とか騒いでるし」
「えへへ、なんか嬉しいな」
後ろにいるからどんな顔してるかわかんないけど、たぶん照れたみたいに笑ってんだろうな。
気づけば俺も笑ってるんだけど、理由はよくわからん。
「じゃ、気をつけて」
夕焼け色に染まった駅の改札で手をふる。
「送ってくれてありがとう」
今日子が手を振り返しながら、なんだかちょっぴり寂しそうに改札をくぐり抜ける。
うーむ。もやっとするなぁ。
「また夜な〜」
自転車にまたがって、もやっと感を振り払うべくこぎ出しながら声をかけた。
「うん、夜に!」
後ろから少し嬉しそうに跳ねた声がした。
漠然と最後の登り坂は楽勝でいけそうな気がした。
*******
「ミケ、うまいか?」
「にゃぅ〜♪」
こいつ本当に食うの大好きだな〜。
さて、俺も夕飯食べるか。
「いただきます!」
俺とりょーまと父ちゃんが、もくもくと食べる中、母ちゃんだけが深いため息をついた。
「はぁ〜、今日子ちゃん帰っちゃった」
何時間前の話してんだ。
「女の子いいなぁ。
今日も頭のリボン可愛かったし、スカートも似合ってたし、礼儀正しいし、可愛いし」
はいはい、そうですか。
リボンやスカートならミケにでもしてくれ…
へへ、楽しそうだなそれ。
「勇、デレてるとこ悪いけど、ゲーム情報みたぞ」
「あ、そうそう!(デレてないけど)
ついにSilver Sorcererがゲーム化すんだよな!
ちょー楽しみじゃね!?」
「開発途中だから、いつ発売するか謎だけど買ってみてもいいかな」
「じゃあ、そん時は割勘な!」
りょーまと割勘という話がまとまってひとまず安心だ。
でも、母ちゃんの方は話がまだまとまってない…というか続いてたみたいだ。
「いいなぁ、女の子。
可愛い格好させたかったな〜」
「男の子しかいないんだから仕方ないだろう」
父ちゃんが呆れたように新聞読みながらお茶をすする。
「じゃあ、娘をこれからでも…♪」
ぶーー!!
ナイス新聞紙。
いきなりお茶を吹き出した父ちゃんからよく俺達を守ってくれた!
いつも静かな父ちゃんは一体どうしたんだ。
「もうお父さん、冗談よ〜♪」
あぁ、母ちゃんのせいか。
うちで問題起こすの母ちゃんしかいないしな。
父ちゃんまだむせてるけど、俺は食べ終わったから部屋に行くぜ!
「ごちそーさまでした!」
さぁ、ポータブルゲーム持ってベッドイン。
ピロリン
『ファントムメイズの世界へようこそ』
草原を駆けて、待ち合わせ場所のお屋敷前に直行する。
やっぱりあいつは時間ぴったりに到着してた。
「今日子!」
赤いマントが笑顔と一緒に振り返る。
【おわり】