★個室時代に萌え散らかした残骸を形にしておこうかなという名の暇つぶし。へーかとフェニたんがパンケーキ作るだけの話です。化身前提の話です。
恥ずかしいので追記にて書いときます。
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天界大陸四大都市共存の国アルファド。そこの王城の中庭は王の楯隊員たちの溜まり場となっている。近くには元国王シギルスの執務室が設けられている。壁が本棚となっているが、下段には絵本が目立つ。
「あるじのあるじ、これよんで!」
「ん?あぁ、いいよ。これは…パンケーキの絵本か。」
理由は簡単だ。暇を持て余したフェニーツェが時折絵本の読み聞かせを要求するのだ。仕事中ではあるが、政治に関連しないため、シギルスもよく読み聞かせを行っていた。今日フェニーツェが持ち出した絵本は、庶民のおやつであるパンケーキを作るお話だった。
「ねえねえ、フェニもこれ食べたい!」
「そうだな、そろそろおやつ時だし…少しやってみるか。厨房に行って借りられるか話をしてみよう。」
「やった!」
「では、作り方はその絵本に書いてあるから、フェニはその絵本を持っていてくれ。」
シギルスの言葉に力強く頷くと、フェニーツェは絵本を抱きしめた。執務室を出て、厨房に向かうと、フェニーツェとっては知らない人ばかりで戸惑いを隠せなかった。
「すまない、少し厨房を借りたいのだが、いいだろうか?」
「はい、問題ありません!配置も変わっておりませんので、ご自由にお使いください!」
「フェニ、入っていいって。」
厨房の料理長と話をつけたシギルスは、背に隠れるようにしていたフェニーツェに声をかけた。恐る恐るといった様子でシギルスの後を追い、フェニーツェは初めて厨房に入った。
「すごい…きれいなのいっぱいなの!」
「ここの人たちが一生懸命お掃除しているからな。さあフェニ、材料を教えてくれないか?」
しばらく辺りを見渡していたが、はっと我に返ると大事に持っていた絵本を開いた。まだ文字の読み書きは怪しかったが、かろうじて読めるところだけを読み上げた。
「えっとね、おこなとね、おみずとね、たまご!…だとおもう。」
「粉と水と卵か、わかった。私も作るのは久しぶりだから失敗したらごめんな。」
「フェニおうえんする!」
「では余計に頑張らなければ、だな。」
調理器具を集め、手際良く調理をしていく様をフェニーツェは驚きをもって見つめていた。あるじのあるじは何でも出来ると思っていたが、料理まで出来るとは思っていなかった。じっと見ていれば、ついに最終段階まで来ていたようだった。
「フェニ、これから火を使うから絶対に手を出してはならないよ。」
「わかった!」
絵本を抱きしめ、身体を小さくする。その様子にシギルスは僅かに笑った。火を起こし、生地を焼いていくと辺りには甘い匂いが漂った。
「おいしいにおいがする!まだたべられない?」
「もう少しだな。いっぱい焼いたから食べ放題だぞ。」
「やった!」
シギルスの手元を見れば、皿にパンケーキがたくさん盛られていた。フェニーツェはその様子がとても感動的に思えて、耳と尻尾が立ち上がるのを抑えられなかった。
「ほら、出来たぞ。さっきのお部屋まで戻って食べようか。」
「たべる!ふたりのひみつだね!うふふ」
使った調理器具を洗い場に一通りまとめると、フォークをふたつと皿を持ってシギルスは厨房を出た。すかさずフェニーツェは後を追い、ぴったり後ろをキープしていた。
「さて、少し散らかっているが…ここで食べるか。フェニ、食べる前にはなんて言うんだっけ?」
「いただきます!…たべていい?」
「どうぞ、召し上がれ。私も少しもらうが、いいかな?」
「いいよ!」
パンケーキをフォークで突き刺し、フェニーツェは少し冷ましてから口に入れた。初めて食べるパンケーキに、こんなに美味しいものがあるのかと感動した。
「すっごくおいしい!ねえねえ、またつくってくれる?」
「私でよければまた作るよ。そうだな…今度はコックさんにお願いしてみるのもいいかもな。もっと美味しいものが食べられるぞ?」
「じゃあおねがいしにいく!たべたら!」
無心にパンケーキを頬張る姿は、見ていて和やかなものだった。その様子を見て、シギルスはふと遠い昔の事を思い出した。自分にもフェニーツェのような時期があったな、と思うと感慨深かった。
「あるじのあるじ、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。その絵本はフェニにあげよう。鞄に入るかな?」
「たからものにする!」
一通り食べ終わったあと、フェニーツェは大事に持っていた絵本を白い肩掛け鞄の中に入れた。ぴったりサイズで、少し危なっかしい感じもしたが、本人が満足しているようなのでよしとした。
「では、片付けに行こうか。あとコックさんにお願いもしないとな。」
「うん!」
皿を厨房まで持って行くと、料理長が後片付けをしている真っ最中だった。こちらに気付くと、料理長は手を止めてシギルスを見た。
「後片付けさせてすまない。本来ならば私がやるべきなのだが…」
「いいえ、シギルス様にこのような事をさせるなど!」
「ありがとう、すまないな。…ひとつ、お願いがあるのだが…」
「はい、なんでしょうか?」
知らない人に困惑しながらも、後ろに隠れていたフェニーツェはシギルスに促され前に出た。そして、目をそらしたまま言った。
「パンケーキ、つくってください…」
「ええ、いつでもとびきりのものを作りますよ!」
「ありがとうございます!」
下を向いていた耳が立ち上がり、素直に喜んでいるのが見て取れた。その様子に、シギルスと料理長は思わず笑みがこぼれた。
「ちゃんといえたよ!フェニえらい?」
「あぁ、偉いな。今度はちゃんと目を見て言えるようになるともっと偉いぞ。」
「がんばる!」
屈託のない笑顔は、心を癒すのに最適だった。厨房から執務室に向かう途中、フェニーツェは口を開いた。
「これはあるじのあるじと、フェニのひみつね!みんなにはないしょだね!」
「お、私との秘密か。では皆には言わないようにしないとだな。」
「うん!えへへ、きょうはたのしいなあ!」
尻尾をぴょこぴょこ揺らし、フェニーツェは嬉しそうにそう言った。相当嬉しかったようで、見ているシギルスもなんだか幸せな気持ちになれた――
王の楯夕方の定例会でも、フェニーツェはひとりとても嬉しそうだった。隊長が訳を聞こうとしても、ひみつの一点張りだった。そんなフェニーツェを見て、皆は癒やされていた。また明日も頑張ろう。そんな気持ちになった――
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★執務室の設定とか今出した感半端ないよね。入院中暇すぎてアルファド王城の間取り考えてた。これも入院中に思いついたネタです。しかしネズミがパンケーキ食べて大丈夫なのか…?と思うがまあ魔物なので大丈夫でしょう。きっと。
眠くなることを期待したのだが全然だな…こんなことしてるからですねわかります