2014-11-28 23:08
※今更すぎるハロウィンネタ
「贋作者!Trick or Treatだ!この我が求めてやったぞ、光栄に思うがいい!!!」
そういって飛び込んで来たのは彼の英雄王。
いつも通りのテンション、いつも通りの王様っぷりに異を唱える者は最早いない。
突然の来訪にアーチャーはいつも通りの面持ちで立ち上がると、あらかじめ用意していた綺麗にラッピングされたクッキーを取り出した。
「御望みのモノはこれかね、英雄王?」
「…む」
ギルガメッシュは差し出されたクッキーを見つめ、不服そうな表情を向ける。
「なんだコレは。贋作者」
「何とは、ハロウィン用に用意した菓子だが?君も先程言っていたじゃないか」
「そうではない!我は貴様に悪戯をしに来たのだ。菓子だけではなく貴様自身も寄越さぬか」
「身も蓋も無いことを言ったな…。そもそも“Trick or Treat”というのは“悪戯か菓子か”という意味だ。菓子を手に入れた地点で悪戯という選択肢はなくなるのだが?」
「何を言うか贋作者!この世は我がルールだ。そしてこの世の財はすべて我のモノ。故に貴様という財も王たる我のモノだ。当然であろう?」
「……それでは君が言うべき言葉は“Trick and Treat”、になるのではないか?」
「ふむ……。確かにそうだな!よし、Trick and Treatだ、贋作者!」
相変わらずの傍若無人っぷりに軽くため息をつきつつ、彼はこうでなくては、などという気持ちと共に笑みが零れるのだから、自分もとっくの昔に感化されているのかもしれない。
「…お味の方は如何かな、英雄王?」
居間にギルガメッシュを迎え、緑茶を振る舞いながら隣でクッキーをかじる彼に問い掛ける。
「…ふむ。我には甘いが悪くはない」
「そうか…、では次はもう少し砂糖を控えることにしよう」
悪くはない、という言葉も嬉しくない訳ではないが、やはり彼にもっと満足してほしい為に次なる改善点を頭に入れる。
「ほう?我の為、より良いモノを持て成そうとするその心構え、褒めてつかわすぞ。流石は我の妃となる者よな!」
そう言って満足げに笑う彼に、自分自身の心も満たされていく。
彼の喜ぶ顔が、楽しげな顔が見たくて、またアーチャーは影で頑張るのだ。
何だかんだで、彼に振り回されるのは心地が好かった。
「…英雄王よ。私もハロウィンの行事に参加したいのだが…よろしいかな」
「なんだ、貴様がそのようなことを申すとは珍しいな。良い、赦す。貴様も存分に楽しむがいい、贋作者」
英雄王のお赦しが出て、アーチャーは意を決したように唇を開く。
その横顔は僅かだが小悪魔のように妖艶に微笑んでいた。
「それでは、私からもひとつ。───ギルガメッシュ、Trick or Treat」
「!」
アーチャーの予想外の言葉に、ギルガメッシュはほんの一瞬動きを止める。
そして次の瞬間には楽しそうな、意地の悪そうな、不敵な笑顔を浮かべていた。
「…ほう?貴様が我に、悪戯をするというのか?」
「先程私が渡したクッキーがまだ残っているだろう」
「何を言うか。貴様もこの菓子も我のモノだ。誰にもやらん」
「…では、悪戯を御所望。…ということか…?」
「無論だ」
ぎこちない動作でアーチャーはギルガメッシュの首元に腕を絡める。
自らけしかけることはないアーチャーの唇は震え、心臓は張り裂けそうな程恥ずかしかった。
羞恥に駆られるその心を見透かすようにギルガメッシュは唇を歪めた。
「愛いヤツめ…。貴様の拙いその手で我を満足させてみよ。贋作者」
まるで子猫と戯れるかのように、アーチャーを愛でる。
その艶やかな姿はどんな菓子よりも美しく、とろけるように甘く、そして儚いモノに見えた。
決して上手くないアーチャーからのお誘いに、ギルガメッシュは満足げに笑みを深くした。
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1ヶ月遅れのハロウィンネタ。
アーチャーを自分のモノだと豪語するギルと、そんなギルに振り回されるのが嬉しいアーチャーのお話。
今度こそ幸せな金弓が書けて満足です。
お読みいただきありがとうございました!
2014.11.30 タイトル編集
2015.5.7 本文編集