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小ネタ:猫の日

 突然現れ、喋るだけ喋って帰っていった師の言いたかったことはつまり、自分はイベントが好きであり且つ今日は猫の日であり故に君にも付き合ってもらいます、などといったまあ勝手でしかないもので。

「……、」

一言も口を挟めず残された藍は、ひとりになってなお言葉を発せずにいた。彼の頭には、そこにあるはずのない三角形がある。黒髪に合わせたかのような、耳。猫の耳である。まさかそんなベタなと思うも、はずれない。能力だとしたらとんだ無駄遣いだ。

 ひとに会う案件がなくてまだよかったかと舌打ちをこらえた、そんなときに扉を開けられてしまうのがお約束というものである。

「――、」

 ドアに手をかけ、口を藍の「あ」のかたちに固めたそのままの姿勢で、イリスは硬直した。藍はこらえたばかりの舌打ちをする。

(藍に、耳? 猫耳? まさかそんな趣味が――あるわけはねぇよな、ないない。だが攻撃の気配はねぇし誰かの悪ふざけか誰だよGJかわいい! 猫とか、黒猫とか、似合いすぎだろ魔性か! 魔性だった! 知ってた! 俺以外に見せてねぇだろうな。あああ写真撮りてぇええ目に焼き付けてぇえええる! 今! ああ願うことなら走馬灯にこのシーンをくださいってバカか俺はバカか藍を置いて死ねるかよ猫耳かわいい藍かわいい藍美人藍かわいい――……)

と、そんな怒濤の思考は能力などなくとも筒抜けである。藍の動きにためらいはない。ろくな受け身をとる間もなくイリスは廊下に吹き飛んだ。着地を見ずして藍はドアを閉める。開けるな、の札をかけることも忘れなかった。

 耳はこの1日を過ぎれば消える、はずだ。イリスは沈めた。あとはこの部屋で時間が過ぎるのをただ待てばいい。騒がしくなったドアの向こうに背を向けた先、ちらりと鏡が目に入る。忌々しい耳。何が猫の日だ。

「……にゃあ」

鳴いてみたところで、鏡の向こうの自分の眉間に、しわが寄っただけだった。



*



ローズ「ネコの日?!」
イリス「(ガタッ)」
ベローズ「アウトー!」
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