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ネタ:わんらい(ゆうはん(仮))

 麓の駐車場に車を止める。着いたぞ、声をかけると、後部座席で目を閉じていた雀野は「うん」と言ってから伸びをした。

「寝てたのか?」
「休んでいただけだよ。行ってくるね」

確かに寝起きとは思えない気軽さで、雀野は車を降りた。慣れた様子ですたすたと遊歩道へ向かっていく。俺は窓を開け、声だけで彼を追いかけた。

「日が暮れても帰って来なかったら、置いていくからなー」

もしあいつが居たら『お前はオカンか』と笑われそうだ。雀野が振り返らずに手だけを振って応える。

「そしたら化けて出てあげるよ」

勘弁してくれ、俺は呟いた。


 雀野から車を出してくれと頼まれたのは、数年前が最初だった。まだ運転免許を取ったばかりの頃だったと思う。ただそのときすでに彼も免許は持っていたし、車だって俺のよりずっといいものに乗っていた。にも関わらずなぜ俺の車で、俺の運転なのか。答えは行き先を聞いて分かったような気がした。
――彼が指示するのは、自殺の名所とされる場所ばかりだった。

「お前、死ぬのか」

思わず言ってしまったが、雀野は目を瞬かせただけだった。

「なんで」
「なんで、って」
「悪いけどここで待っててくれないか。二、三時間もあれば終わると思う」
「は?」

勝手すぎる、と思うのに、従ってしまうのは友人だからだろうか。待っている間は不安もあって、雀野が死んだらあいつは喜ぶかなとか遺品の整理は俺がやるのかなとか、そんなことを考えていたが、彼はしれっと帰ってきた。

「自殺防止のボランティアでもしてきたのか?」

心配させておいて、と若干の苛立ちを込めて訊くと、雀野は笑いながら答えた。

「そうだね、自殺は止めてきた」

それ以上は聞かないことにした。


 以来、俺は頼まれると運転の練習とばかりに車を出し、今回こそ戻って来ないのではないかという杞憂を導入剤に車内で睡眠をとって、帰りにうまい飯を奢ってもらうことになった。幸か不幸か雀野が帰って来なかった例は一度もない。今だってほら、ガラスを軽く叩く音が聞こえる。

「おかえり、雀野」

「何食べたい?」

「焼き肉」

「君もいい趣味してるよ」





#しろた夜の1かき本勝負
お題:山中へお帰り

ネタ:はじめまして(ゆうはん(仮))

わんらい遅刻
・・・・・


 初めて会ったのは告別式の会場だった。友人の告別式だ。彼の死は突然で、まだ高校生なのに、いいやつだったのに、と誰もが言った。俺もそう思った。彼はどこにでもいる普通の男子高校生だった。そんな彼がなぜ? もう動かない友人が一番聞きたかったはずの答えを、俺はいま知っている。

 寒い時期で、記帳のときに手がかじかみ、ひどく名前が書きづらかった。緊張もあったかもしれない。慣れない場に落ち着かなくて、憔悴しきった友人の親族の姿が見ていられなくて、見よう見まねで焼香を済ませたあとは、そそくさと中座させてもらった。会場のそこかしこに飾られた達筆な『栄島』の名前を複雑な思いで眺めて、帰路へと足を向けたところに、彼は立っていた。

 俺たちの学校の制服でない、黒の学ラン。ポケットに両手を突っ込み、目が合うと、


はじめまして、

と彼は言った。


「はじめまして、雀野君」

「違うだろう」

雀野が静かに返した。半歩後ろにいる俺からは、彼の表情は見えない。

「久しぶりだね、駒江君」

名前を呼ばれて、男子生徒は笑った。ざわざわと静かな夜には似合わない、ひどく嬉しそうな笑顔だったことを、俺は覚えている。

「……雀野、知り合いか?」

だとしたらまずいぞ。さっきまで花に囲まれて写真の中で笑っていた友人が、学ランの肩越しにぼんやりと透けて見えていた。





#しろた夜の1本勝負
お題:はじめまして

ネタ:未来から息子(仮)が来た話

虎次「未来からやってきた息子と世界の命運をかけて戦う夢を見た……」
人形師「おまえに未来が救えるとでも?」
ミヤコ「あんたに子供が作れるとでも?」
虎次「夢くらい好きに見させろよ!!」

翠「どんな夢だったんだ?」
虎次「いやぁ、仕事のあと急に若いのに絡まれて、そいつが俺の息子だって言い張るんスよ。逃げるに逃げられなくて話を聞いてたら……」

・・・・・
・・・


虎次「で、仮にお前が俺の息子だとして、未来を変えるために何をしようってんだ」
息子(仮)「ボクと協力してこの時代の死神を倒し――待って! 父さんの力が必要なんだ!」
虎次「無茶言うな馬鹿野郎。あと父さんって呼ぶな」
(仮)「このままだと云年後に父さ……あなたは死んでしまうんだよ!」
虎次「いま死ぬよりいいわ!」

息子(仮)「父さん!」
虎次「るせぇよ! そんなに言うなら母親はどうなんだよ、誰なんだよ!!」
(仮)「それは……、言えない。だけど近い未来、男女のつがいで無くても生殖が可能になることは知っておいてほしい」
虎次「あァ?! なんでそれは言った?! その情報は要らなかったよな!?!?」

虎次「とりあえず藍さんに真偽を確かめてもらいてぇな……」
息子(仮)「! そうかこの時代にはまだ師匠も」
虎次「は?」
(仮)「あっ、しまった、忘れてください」
虎次「待て待て待て待て無茶言うな、藍さんが? 師匠?? 人選ミスだろぉおお」
(仮)「ストレートな感想ですね!」

息子(仮)「どうしても信じてもらえないって言うなら……、これを見てください!」
虎次「そ、それは!」
(仮)「父さんが最後まで大事に育てていた糠床です!!」
虎次「もうちょっと格好いいものは無かったのかな?!」
(仮)「糠漬けは作り手の味が出るから分かりやすいかと思って。いまキュウリが食べ頃です!」
虎次「どうりでなんか匂うと思ってたんだよ……、というか俺最期まで糠漬け作ってたのかよ……、」

息子(仮)「よく聞いて。死神はこの時代、遺伝子操作によって恐竜をよみがえらせようとしているんだ。ところがその過程で生まれた化け物による事故のせいで研究施設は破壊され、解き放たれた未完成品の群れが世界を滅ぼそうとする。その事故が起こるのが明日。明日なんだ。だからボクの『ひとを蟻のサイズに出来る能力』で研究施設に乗り込んで阻止しなければならないんだよ。不可能なミッションかもしれないけどボクと父さんなら」
虎次「なんなんだよ!」
(仮)「未来だよ!」
虎次「映画館行けよ!」

息子(仮)「はぁ。そんな冗談はさておき」
虎次「あァ?!」
(仮)「通信が来ていますよ。うわぁ、こんな旧式の通信機が動いているところ、初めて見ました」
虎次「くっそ、――はい」
翠『おう。トラブルか?』
虎次「翠さん!!」
(仮)「!」

虎次「すみません、いやぁ、それが実は斯々然々で」
翠『そうか、電波野郎に絡まれてるのか
虎次「的確なご理解痛み入ります」
翠『一発落として来い』
虎次「俺もそうしたいんスけど……、妙にこっちの事情に詳しいんですよ。藍さんのこととか糠漬けとか」
翠『……。待ってろ』

虎次「お前のせいで俺がため息つかれたじゃねぇか」
息子(仮)「ミドリ、って師匠のきょうだいの!」
虎次「もう藍さんが師匠ってのは認めるんだな」
(仮)「はい。翠さんのことはお話でしか聞いたことがなかったので、お会いできるなら嬉しいです」
虎次「なんで会ったことがないのかは言わなくていいからな」
(仮)「ボクが弟子入りする前に亡くなっ」
虎次「言わなくていいからな!!」

虎次「ちなみに……藍さんは翠さんことをなんて? 喧嘩してるところしか見ねぇんだけど」
息子(仮)「師匠はあんまりそういうことを話してくれる人ではないんですけど、バカなヤツだって。だから死んだんだって、寂しそうに言っていたことがあるんです」
虎次「お前聞きたくないことだけをピンポイントで聞かせてくるよな」

ドゥルン ドッドッドッドッド

虎次「翠さん!」
息子(仮)「あなたがみど……師匠!!」
翠「これか」
虎次「はい」
翠「かなりきてるな」
虎次「そうなんすよ」

息子(仮)「師匠、師匠!!」
虎次「うるせぇ、お前の師匠は藍さんなんだろうが!」
(仮)「そうですけど、ボクが師匠を間違えるわけがありません!」
虎次「まあそんなに似てないしなあ」
(仮)「師匠、父さんから説明は聞いていますよね、協力して未来を変えましょう」
翠「なるほど分かった。すぐ楽にしてやる」
虎次「なんて話の早い」

翠「目が覚めたらそこがお前の望む未来だ、よかったな」
息子(仮)「待って、待って! 〜ッ、リング!!」
翠「あァ?」
(仮)「怒られるから言いたくなかったんだけど……。師匠がいつも首から下げてるそれ。気になったのでこっそり見ました。ごめんなさい。ペアリング、だよね。片方は明らかに女性用のサイズだった」
翠「、」
(仮)「内側に彫られたメッセージは『M to A』――」
翠「もういい」

虎次「翠さん、」
翠「いまリングはひとつしか無いが、……このことはごく限られた人間しか知らないはずだ。本編にも出てねぇ」
虎次「この重要そうな場面で本編とか言うの止めてくれません?」

息子(仮)「信じて、くれますか」
翠「お前――……伏せろ!」
虎次「うわッ! なん、銃撃?!」
??「対象を捕捉。第三者との接触を確認。確保に移行します」
(仮)「あれは、時空管理局の強制執行官で、ボクを追ってきたんだ!」
虎次「はァア?!」
翠「急にSFに寄ったな」

息子(仮)「せっかく父さんに会えたのに、またあんな未来に戻るわけにはいかない、それに」
虎次「それに」
(仮)「執行官に捕まったら、知るべきではない未来を知ってしまったあなたは消されてしまう」
虎次「……記憶を?」
(仮)「楽観的ですね」
虎次「チクショウ!!」

虎次「ふざけんなテメーそういうことを真っ先に説明しろよ! どうしてくれるんだ!」
息子(仮)「ここはうまく逃げるしかないけど、」
翠「俺が引き受ける」
虎次「翠さん?!」
翠「お前たちはシオンに会え。会って能力との干渉を絶てば分かることもあるだろう。俺もすぐ追いかける」
虎次「なんて華麗なフラグ建設なんだ……」

息子(仮)「いくら師匠でも無理があります、執行官の素体は、」
翠「おい、お前の『師匠』ってのは、どんな奴だ」
(仮)「…………強くて厳しくて、大切なことは話してくれなくて、でもボクのことやもっと大きなことをいつも考えてくれていて、頼りになって、――格好つけるのに肝心なところで外します」
翠「そうか。それはもしかしたら本当に――」
虎次「あんたそれでいいのかよ」

翠「行け!」
執行「制止を命じます。警告は三度までです。制止を命じま、――悪意の妨害を確認。行為者は第三者。照合エラー。参照範囲を上位に拡大せよ。参照完了。行為者は『特異点・翠』。第四武装の解放を申請します」

虎次「翠さんが『藍』を名乗って俺の息子の師匠になっていて、『翠』はすでに死んでいる……? 死んだのは誰なんだ? なんだってそんなこと? もうなんなんだよ、」
息子(仮)「ボクが変えたい、未来ですよ」


追記に続く
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小ネタ:ロスタイム(どこクック)

 本編には入れられなかった部分を大体の時系列順で追加公開。その名も、ロスタイムお盆。最後のはついった再掲です。




友人「お前の採点は何が基準なの?」
幽霊「やりやすさ」
友人「最低か」
幽霊「素直なのよ」
友人「もっとさ、こう、具体的にないのかよ、タイプとかさー」
幽霊「えー、じゃあ、ほとんど意識もせずに『女子』という生き物として生きていて人目を気にしてかわいくあろうと努力もしていて媚を売るのはうまいけど頭はそんなに良くなくてでもバカだって自覚もそれほどなくて余裕と平和のぬるま湯に浸かっていながら月一ペースで『私は不幸せなお姫様』モードに入る小柄でボブかセミロングで親友と呼べる友だちはひとりないしは居ないような子」
犯人「つまり?」
幽霊「やりやすい子」
友人「最低だ」


幽霊「エ◯ァで言うなら委員長だな」
友人「うぉおお謝れ! ありとあらゆる方向に謝れ!!」
幽霊「どうせお前はミサトさんだろ、はいはいDTDT。なぁ雀野はエ◯ァなら誰がタイプー??」
犯人「…………シンジ君」
友人「えっ」
幽霊「えっ」
犯人「他に知らないんだ」
友人「だよなぁあああ」
幽霊「よかったぁああ」


幽霊「男2人で海辺を散歩。なんてひどい画だ」
犯人「駒江が生きてたらな」
幽霊「お前だけはそれを言うな!」


友人「そもそも、旅行の醍醐味のひとつであるはずの飯がほとんど描かれないのは」
幽霊「雀野が食に頓着しないからァ」
友人「ちげぇわ、お前がモノ食えなくてごちゃごちゃ言う図しかないからだわ」
犯人「食レポしてもね」


友人「卓球か、やっていこうぜ!」
犯人「……『友情』」
幽霊「実篤かー」
友人「何? 誰?」
犯人「教科書にも載っていたけど」
友人「ラケットと玉はここのを勝手に使っていいみたいだな! 雀野お前ペン? シェイク?」
犯人「シェイク」
友人「……雀野はともかく、駒江が俺より頭いいってのが気に入らないよなー」
幽霊「がっこーのおべんきょーなんてやって出来ないもんじゃないだろ」
友人「これだよ。もういいよ、もういいからお前は台から降りろよ!」
幽霊「えー、だって俺卓球出来ねぇしー、つまーんなーい」
友人「腹立つわー」
犯人「このまま打ち合っても支障はないだろ?」
幽霊「えっ」
友人「……まあ、確かにそうだな。やるか、」
幽霊「えっ、マジ?」
友人「いくぜ、王子サァアブ!!」
幽霊「キャーッ鳩尾貫通!! 痛い、いや痛くないけど!」
犯人「ははは」
幽霊「やめろこの非道!」
友人「お前が言うな」
犯人「台から降りればいいのに」


幽霊「俺には脱衣が出来るのか……?」
友人「いいお湯だったー」
犯人「うん」


友人「マッサージ機もある」
犯人「やってみようかな」
友人「疲れてんのか?」
犯人「うん、肩がこってね」
幽霊「あら、まだ若いのに」
友人「いやお前のせいだろ」


友人「そうして部屋に戻ると布団がぴったりとくっつけて敷いてあるという」
幽霊「新婚か。なんてベタな。俺は真ん中で寝るからな」
友人「永眠してるやつは黙ってろー」
犯人「動かせばいいよね」


友人「やっぱりさ、こういうときにする話ってさ、」
幽霊「ひとつだよな、ひとつしかねぇよな!」
犯人「………怪談?」
友人「もういいわ!」
幽霊「ありがとうございましたー」
友人「おやすみー」
犯人「、おやすみ」


幽霊「──あっと思ったときには遅かった。 アップリケだ。間違いない。噂は本当だったんだ。背筋をゾォオオっと冷たいものが走る。動けなかった。赤い服の少女は俺をじっっと見つめている。そしてしばらくして、細い声でこう言った……」
犯人「『早くお家に帰りなさい』」
友人「夕焼け放送かよww」
幽霊「ふっざけんな台無しじゃねぇかwww しかも似てねぇww」
犯人「あれおかしいな」


犯人「決めセリフを調べようとして、タイトルが『トイレの花子さん』では無 かったと知った俺たちは……」
友人「あのトラウマ量産ナレーションがイブマサト氏だったと知った俺たちは……」
幽霊「やみこさんがかわいいことを知った俺は……」
友人「お前どこでもいいから帰れ」


幽霊「おはよ」
友人「おはよ、目覚めて最初に見るものが雀野の寝顔をガン見する幽霊だなんてまったく最高な朝だよ」
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