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ネタ:明星を踏み潰す(ゆうはん(仮))


 雀野は、『いま自らが認識している物事は睡眠時の夢である』と理解していた。いわゆる明晰夢である。珍しいな、と彼は思う。日頃はあまり夢を見ない。

 夜空が広がっているから夜、且つ屋外なのだろう。空気までは感じられない。周囲がよく見えないほど光源に乏しいはずなのに、目の前に立っている栄島の顔は妙にはっきりしていた。こういうところがいかにも夢らしい。何が始まるのかと待っていると、友人はいつになく真剣な声で言った。

「もうやめろよ、こんなこと」

 ……なるほど。
 こんなこととは何を指すのか、訊くだけ愚問であろう。栄島は、雀野自身を除き、雀野の凶行を知る唯一の人間である。だからこそのキャスティングだ。栄島はなおも続ける。

「お前だって分かってるだろ、こんなことして何になるっていうんだ」

 それこそ、分かっているだろうに。
 雀野は早々に、己の夢に飽きてしまった。友人は喋り続けているが、内容は一切頭に残らない。どうせ同じ頭から出てきたのだから、残るも何もないだろう。己の中にまだそんな言葉があったのかと、それだけが小さな驚きで、失笑を呼んだ。

 見上げる夜空に浮かぶ星座はデタラメだ。あの妙に明るい星は希望の象徴だとでもいうのだろうか。陳腐だった。明晰夢ならば自由はあるはずだと思い至った雀野は「わるいね」と呟いて、栄島を殴り飛ばした。皮膚が触れ合う感触だけが、いやに現実味を帯びていた。


 後日、雑談の中で夢に出てきた君に咎められたよと告げると、栄島は「お節介だなぁ」と顔をしかめた。「そうだね」と同意を返しながら、雀野はこっそり、己の拳を撫でた。





お題:明星を踏み潰す

ネタ:潔癖性の考古学者

#しろた夜の1本かき勝負
本番にはついったに要約版を上げました。
・・・・・





 あなたが好き。
 あなたのために出来ることはないかしら。

 そんなわたしの強い思いを、きっと神様が叶えてくれたに違いない。整理整頓が行き届いた研究室。見慣れた部屋を見慣れない高さで見回す。視線を下げると人間の女の子の身体があって、ガラスには人間の女の子の姿が映った。ああ、わたしは、人間になった。

「嬉しい」

声だって出せる。はしゃいだ気持ちのまま跳ね回っていると、ガチャリとドアが開いて、先生が帰ってきた。わたしを見て目を丸くした彼は、緊張した声を出した。

「誰だ、君は」

無理もない、施錠された部屋に見知らぬ女の子がいたのだ。早く彼を安心させたくて、わたしはとびきりの笑顔で言った。

「わたしは埴輪よ!」
「………………は?」
「はにわ!」
「……は?」
「に、わ!」

彼が表情を失う。

「わたしは埴輪よ。勉強机に置かれていた頃も、この研究室に移ってからも、ずっとあなたを見守ってきたの。一生懸命なあなたが好きよ。見ているだけで幸せだった。でも、最近のあなたは変よ。これまでにも元気がなかったり悩んでいたりすることはあったけど、今回が一番よ。あなたはとてもつらそう。どうにかしたいと思ったの、何か出来ないかと思ったの、そうしたらわたし、人間になれたの!!」

彼がゆるゆると首を回して棚を見る。そこには埴輪の分のスペースだけが不自然に空いていて、代わりにわたしがここにいる。疑いようはないはずなのに、先生は信じてくれなかった。

「くだらない冗談はやめろ」

「冗談なんかじゃないわ!」

思わず一歩踏み出すと、彼は「ひっ」と短い悲鳴をあげて距離をとった。……あら?

「チームの奴らが首謀者なら分かるはずだろう、まだ信じてくれてないのか、私は潔癖性――強迫性障害を患っているんだ。受診だってしている。あんなものを掘り出してしまってから、他人に近くにいられるのが不快で仕方がないんだ。吐き気がする、頭痛がある、蕁麻疹が出る。正直いまだって寒気が止まらない! だからやむを得ずひとりで調査に行ったのに、それを偽装だと? あまつさえあれも私が埋めたのではないかだと? あり得ない。ふざけるなよ。私にどうしろと言うんだ」

先生は頭を抱えてしまった。彼の悩みがそんなところにあっただなんて、想像もしていなかった。どうしましょう。

「……わたしに出来ることはない?」
「消えてくれ」
「殺生な!」
「損壊だ!」
「貴重な資料よ!」
「レプリカだ!!」

でも大丈夫よ、ここは埴輪が踊る世界だもの。どんな困難も乗り越えていける。きっとわたしはそのためにここにいる!

「ハニーって呼んで、ダーリン!」

逃げる彼を追いかけて強引に手を握る。彼は「砂っぽい……」と言って少し泣いた。





お題:潔癖性の考古学者


ネタ:秘密は火で燃やして(x25)


「なぜ――、なぜ殺した!」

 ごうごうと渦巻く熱風の向こうから、悲痛な叫び声が聞こえた。少年の声だ。朱楽の表情が険を帯びる。子どもが居るという情報はなかった。紛れ込んだとも考えにくい、彼女は炎で建物を覆って来たのだから。与えられた任務は殲滅と施設の破壊。声の方へと足を向ける。彼女の炎に逃げ場などないが、この状況下、子どもの生存者。何者だ。確かめずにいられなかった。

「なぜ、兄さん、」

 ほとんど用を成さない扉を蹴り開けて進むと、少年はすぐに見つかった。そう広くはない部屋だが、炎はまだ及んでいない。黒髪の少年は、職員であろう2人の男女の死体の横に膝をついて、細い肩を大きく揺らしていた。そしてその少年が、きれいな顔をひどく歪めて睨む先には、また同じ顔があった。

――双子?

背格好、顔のつくり、似ているというより、同じだ。だが2人の有り様は対称的で、一方の少年は表情を見せず、ただ視線を受け止めている。崩壊の音が遠く聞こえた。熱も煙もすぐ間近にあるというのに、2つの亡骸と2人の少年、その空間だけがどこか切り離されたような空気を持ってそこにあった。

「……あなたたちは、」

朱楽が口を開く。少年らの顔がぱっと彼女へ向いた。その4つの瞳を見て、彼女はすぐに彼らの正体に思い至った。男児、双子、目の色、何よりもこの場所。この場所から奪われたと聞いていた。彼女の後継。「まさかそんなはずは」と戸惑ったわずかな一瞬が、明暗を分けた。

「俺が、殺したんだ」

言い聞かせるような言葉だった。朱楽は少年の緑の目の強さに彼女らしくもなくたじろいで、そして気が付けば建物が焼け崩れる馴染みの光景を目の前にしていた。そう時間は経っていないはずだが、仕事は終わっていた。2人の少年についての記憶は、見慣れた炎に上書きされた。

 だからいま、秘密の存在を、彼女は知らない。





お題:秘密は火で燃やして

ネタ:玉の音に泣く(x25;事故CP企画)


ランダム事故CP企画発
「ルナ×ベローズ」
付加要素:死ネタ

※一次創作の二次創作
※あくまでネタ
※非 公 式





 好きだとか嫌いだとか、そういう話ではないのだ。資本主義の社会にあって、金は絶対だ。第一に考えて何が悪い? そのために生きて何が悪い?

「つまらないだろう」

有り余る金を持った高貴な男は笑顔で言い放った。

「誤解があるようだが、私の私有財産は微々たるものだ」
「どこからモノ言ってんだ」

俺の言葉は無視して、とろけるような笑顔を見せる。

「それでも着いてきてくれるなら、私がお前を幸せにしてやろう」

この男は危険だ。リスクとリターンがつり合わない。分かっているのに、分かりきっているのに、間違いなく引き寄せられていく自分に俺は、そのときどこか恐怖さえ感じていた。


 ――その恐怖がまさか、こんなかたちで霧散するとは。

 悲しみに包まれる、という言葉はきっと、こういう空気を示すのだろう。単位は街にはとどまらない。国が、世界が、彼の人の死に衝撃を受け、その死を悼んだ。帝国軍総元帥・皇公、ルナ。彼は誰からも愛されていた。

「私も愛しているよ」

 いつか、彼は言っていた。

「私は軍を、国を愛している。私は国のためにあるんだ」
「そんな偉いお方が俺なんかに時間を割いて、よろしいのですか?」

嫌味たっぷりに言ってやると、自信満々に笑う。

「ああ。ここにいる限り君も国の一部だ。だから私は君のためにあってもいいんだ」

そう言って伸ばされた汚れのない手を、俺はなぜ拒まなかったのか。彼の死を告げた皇帝陛下の肉声が、頭の中で何度も繰り返される。


 いまはまだ世間も混乱が勝っているいるが、数日も経てば国はまた一段とモノトーンに沈み、そこそこに彼の肖像が飾られ、それそれは盛大な国葬が執り行われるのだろう。改めて突きつけられる。生きた世界が違うのだ。俺は死に顔を拝めないどころか、死をひとり悼むことさえ叶わない。それでも、こんな最後でも、

「まあ、幸せだったよ」

 騒然とする街。いまにも雨が降りだしそうな重い曇天の下を、ポケットに手を突っ込んで歩く。俺は死後の世界を信じない。





お題:玉の音に泣く

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