「ザッハトルテ?!」
叫んだ声が裏返った。
虎次は料理をする。料理をするが、それは生きるためにするのである。生かすためにするのである。故に第一に栄養を、第二に予算を、第三に効率を考える。彼にとっての料理はあくまで家事の一環である、のだが。
「手間賃も出す、材料も出す、それでケーキを作って食えってんですか?」
今日に限ってはそれが仕事になったらしい。
「そ。でも別に虎次君が無理して全部食べる必要はないの。好きな人と食べていいのよ。そして後日そのときの様子を報告してちょうだい」
「なんだってそんなこと、」
不信感をむき出しにする虎次に、依頼人は真顔で言い切った。
「趣味よ」
◇
つるりとした丸いかたち、艶やかなチョコレートの黒に、添えられたクリームの白がアクセントを与えて。これぞザッハトルテ。簡単なレシピとはいえケーキ作りの初心者が作ったとは思えない見事な出来である。ナイフを入れるのが勿体ない――という考えは、制作者にはなかったようだ。虎次は熱したナイフで躊躇なくケーキを切り進めながら呟いた。
「あの人の考えることはよく分かんねぇよなぁ」
「藍に訊けば?」
シオンが関心の無さを隠そうともせずに応えた。
「そういうことじゃねぇよ」
と言いつつも、彼にも特に返す言葉があったわけではなかったとみえる。ほらよ、と皿を差し出した。
「感想伝えなきゃならねぇんだからな」
「面倒だね」
依頼人が頼んだのはケーキの味の感想ではなくケーキを食べているときの様子であり、またさらにはそれを語る際の様子であることなど、2人が気にとめるはずなく。
ザッハトルテの大人の味はまだまだ早いようだなぁオイと人形師は天井を見上げた。
「ずっと居ましたけどー」
「誰と話してるんすか?」
「べっつにー」
140214
・・・・・
バレンタインに便乗して虎次にザッハトルテでも作らせようかなと思ったけど彼は料理=家事の極小市民主夫なのでおそらく、テマがヒマが汎用性がと騒ぎ立てたあげくに最後の金箔で気絶するぞと思ったんだけどそこが書けなかった。