「――って知ってる?」
「何それ」
「苺の新種だってー」

 すれ違った大学生らしい2人組が話しているのが、ふと耳に入った。傍らを歩く栄島にも聞こえたのだろう、小さく「知ってるか」と聞かれたので、雀野は「知らないな」と答えた。幽霊は黙って後ろを漂っている。しかし、

「お前にも知らないことってあるんだなー」
「何それ」
「だって、ほら、あのとき、俺紅茶の種類なんて全然知らなかったのにさ、」

と栄島が話を展開させると、幽霊は途端に身を乗り出して会話に入ってきた。

「あのときは育ちの違いを感じたなー」
「あれ、お前居たっけ?」
「お盆ではなかったよね」
「フフフ、見てましたー」
「うわっ」

 “雀野”と“栄島”が知り得ない情報を“駒江”は持つことが出来ない。新種の苺の話題を彼に振れば、きっとつまらなそうに聞いたことがないと答えたはずだ。それはそうだろう。幽霊とはそういうものだ。だから。この状況は。

「ちなみに、あのときお前が美味い美味いと飲んだのは、店がそろそろ取り扱いを止めようかと検討しているくらい不人気のブレンドだったんだぜ栄島くん」
「は? 嘘だろ」
「本当だよ、な、雀野」
「うん」
「えぇぇ……」

傍目には異様に見えるかもしれないが、そもそも傍目から見えることなどない。当事者として異常な日常に身をおきながら、殺人鬼はぼんやりと、違いの分からない友人を思いやった。





#しろた夜の1本かき勝負
お題:椿苺とアールグレイ